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13.本日より家政夫業始めます

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「ユリウス殿は騎士家系として有名なジョストン伯爵家の三男ですからね。ジョストン伯爵家は代々騎士団長を輩出されていた名門ですよ。それにヴォルテル殿下とも同級生でご友人ですし」

 ユリウスさん、なんと伯爵家のお貴族様だった。しかも名門。偉ぶった感じも全くなかったからびっくりして、横に座っていたユリウスさんを勢いよく振り返る。ユリウスさんは眉間にしわを寄せて「……何が名門だ」なんて言ってて、それ以上家のことを聞くのは憚られた。そういやお父さんと不仲だったっけ。

 そっかぁ。ユリウスさん貴族の人だったのかぁ。そりゃまともに家事なんかやったことないだろうし、あの惨状は仕方ないのかな。
 しかもユリウスさん、ヴォルテル様と友人だったから王子様相手でも敬語とか使っていなかったんだ。ヴォルテル様も全然気にしていなかったし、結構仲がいいんだろう。そうじゃなかったらさっきもユリウスさんのことを心配しているようなこと言わないはずだし。

「あれ? そういえばユリウスさんて貴族だったら使用人とか雇ったりしなかったんですか?」

 そんな凄い名門の家出身なら、家を買って独り立ちしたとしても使用人とか雇って家のことを任せてもおかしくない。なのにあの惨状になるということはそういう人がいなかったってことだ。

「……信用していない人を家に入れるつもりはない」
「え……じゃあもしかして俺が家政夫として家にいるのは、ユリウスさんにとってあんまり好ましくない状況ですか?」
「いや、ハルトは気にしないでくれ。そもそも俺が言い出したことだ。それにあの家をあそこまで綺麗にしてくれて感謝している。料理も美味しかった」
「それなら、いいんですけど……」

 本当にいいんだろうか。もしユリウスさんが我慢しているなんてことがあったら、申し訳が立たない。
 今の俺はこの世界で生きていくには誰かの庇護が必要だ。聖人として持ち上げられたくはないし、ユリウスさんのところでお世話になれるのはありがたい。だけどそれはあまり長期間しない方がいいのかもしれないな。
 今後のことも考えていかなきゃ。ユリウスさんに迷惑かけるわけにもいかないし。

 そんなこんなであっという間に二時間ほどが経っていた。時間ももうお昼を過ぎている。お茶とクッキーをいただいていたとはいえ、お腹もすいてきた。

「よろしければお食事もご用意いたしますよ」
「いや、それは遠慮しておこう。ハルトの作ったものが食べたい」

 ここのご飯を食べたことはないけど俺が作るより絶対美味しいと思うのに、それでもユリウスさんは俺が作ったご飯の方がいいと言ってくれた。それは素直に嬉しいと思う。
 
「はい! それじゃあ帰りに市場に寄りましょうか」
「ああ、ユリウス殿が羨ましい! 私もハルト様の手料理が食べたいです! ぜひ! ぜひ一度だけでいいので私もご相伴に預からせていただけませんかぁぁぁぁぁ!」

 残念イケオジランベルトさんは今にも土下座しそうな勢いで頭を下げた。その勢いにちょっと軽く引くも、ユリウスさんは家に誰かを招くつもりはないらしくすげなく「断る」と言った。その言葉を聞いたランベルトさんは絶望という言葉がぴったりなほど顔を青褪めていて、ちょっと可哀想になってしまった。

「えっと、ここのクッキー程美味しくは出来ませんが今度何か甘いものでも作ってきますよ」
 
 この前市場に行った時に砂糖も普通に売っていたし、手の出せない贅沢品という訳でもないようだった。だったら簡単なお菓子くらいは俺でも作れるし、いろいろと教えてもらったお礼として今度作ってみよう。
 俺がそう言えばランベルトさんは「本当ですか!」と一瞬で元気になって目をキラキラとさせていた。そこまで喜ばれると美味しくなかったらと不安になるが、頑張るしかない。
 そんな俺達を見ていたユリウスさんはなぜかため息を吐いていた。

 そしてそのままユリウスさんと帰ることに。馬車で市場の近くまで送ってもらい、それから買い物をして家へと帰った。
 今日から正式にユリウスさんの家で家政夫業が始まる。そのため足りない調味料類も買い足し、それを順番に並べていった。ユリウスさんにも自分のやりやすいように好きにすればいいと言ってくれたので、お言葉に甘えようと思う。

 ちょっと遅くなったが今日のお昼ご飯はカルボナーラにした。粉チーズも見つけたしベーコン(魔物肉だが)もあった。それだけだとユリウスさんは足りないだろうからガーリックトーストも作るつもりだ。食材の名前は前の世界とは違うが味は大体同じようで凄く助かる。しかも今日は荷物がいっぱいで買えなかったがお米も発見した。
 日本米より長細い形をしていたし食べてみないとわからないが、恐らくインディカ米のような感じじゃないかと思っている。それならピラフとかも作れそうだし今度挑戦してみようと思ってる。本当はふっくらもちっとした日本米が食べたいところだが、米があっただけでも御の字だ。

 あー、あとはフードプロセッサーとかも欲しいなぁ。あれがあるだけでかなり時間短縮になるし、いろいろとやれることも広がる。目の細かいザルも欲しいし、小さなフライパンとか大きさの違う鍋も欲しい。
 ただこの世界にフードプロセッサーとかミキサーとかそういった道具はあるのだろうか。ユリウスさんに尋ねてみるも「わからない」との返答。また明日王宮へ行ってランベルトさんに会うからその時聞けばいいと言われた。
 なぜここでランベルトさんが? と思ったが、魔術師の仕事の中には魔道具制作なんかもあるそうだ。そういったことからランベルトさんに聞けばそういった道具類のことが知れるんじゃないかとのこと。だから俺が今首にかけてる色彩変化の魔道具もランベルトさんが持って来てくれたのかと納得。

 そんな話をしながら昼食は完成。俺は大体標準の百グラム程のパスタだが、ユリウスさんは五百グラム程用意した。こってりしたソースだからお腹が膨れやすいけど結構食べる人だからどうだろう。足りなかったらガーリックトーストをまた焼けばいいか。これならすぐに出来るし、簡単にお肉を焼いて乗せてもいい。

「美味い」
「よかったです」

 一口食べたユリウスさんの口は綻んでいた。やっぱりこうして美味しいと言ってくれると作ってよかったと思うし、また美味しいものを食べて欲しいとヤル気も出る。機会があったらこの世界の料理のことも聞いてみよう。ユリウスさんの好きな料理も聞いて作れるようになりたいし。

 あれだけあったパスタは見事にユリウスさんのお腹の中に消え、ガーリックトーストもすっからかん。気持ちいい食べっぷりで俺も上機嫌だ。量はこれで足りたらしく安心した。ただ夜はお肉料理が食べたいとリクエストをもらったので、今日買った魔物肉で何か考えよう。
 あれが食べたいと要望を言ってくれるとこちらも助かる。流星に何が食べたいと聞いても「なんでも」としか答えてくれなかったし、それでも作った料理にケチをつけられたこともある。今だけかもしれないが、ユリウスさんにこうして喜んでもらえるとモチベーションが全然違う。雇われ家政夫の上司として最高だと思う。それに甘えず、ずっと気分よく過ごしてもらえるよう俺も頑張ろう。

 昼食後はまた掃除だ。ユリウスさんの家はあまり広くはないが、二階に部屋はまだ余っている。そこの一室を俺の部屋にすることになり、住める状態にした。
 まだ掃除道具が届いていないので、昨日と同じく俺の血液を使ったが。ナイフで指を切る度、ユリウスさんは嫌な顔をする。俺も別に自傷行為が好きなわけじゃないし、掃除道具などがもろもろ届くまでの我慢だ。
 ベッドやクローゼットもヴォルテル様が用意してくれるそうで、それが届くまで俺はユリウスさんとまた同じベッドで寝ることに。

 こんなイケメンと同じベッドで寝るのに緊張するなぁと思っていても、夜になれば神経の図太い俺は疲れもあってあっさりと夢の世界へ旅立ったのだった。
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