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5 化け物には化け物を
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「おい化け物。お前みたいな、何時まで経っても神子としての力を発現出来ない能無しの化け物をここに置いておくわけには行かなくなった」
部屋に入ってきてそう言ったのは、あの白い服を着た男だった。
やっぱり俺はここで殺されるということなんだろう。
「お前にはここから出て行ってもらう。喜べ。行先は、お前と同じ化け物のところだ」
ん? 俺は殺されるんじゃないのか? それともその化け物に食い殺されるのだろうか。
その化け物も可哀そうな奴だな。俺みたいな醜く汚い男を食わされるんじゃ腹を壊すんじゃないだろうか。
「おいオースティン。さっさとこいつを連れて行け。目障りだ」
白い服を着た男が後ろにいた奴に声を掛ける。そしてそいつが部屋へと入って来た。
「……!?」
入って来たのは男だった。だがただの男じゃない。すらりとした長身に白い長髪。白い肌に金色の目。そして顔の造りが人間離れした恐ろしいほどの美形だった。全体的に白い見た目だからか、一際強く輝く金の目が印象的だ。
その男は俺を見ても表情を変えることなく近づいて来る。俺はもうだるすぎて体を動かすことが億劫だった。そのままベッドの上から近づいてくる男をぼんやりと見る。
「ぁ……」
俺の目の前に来たその男、オースティンさんは顔色を変えることなく俺を横抱きにして抱き上げた。
俺の顔を見ても表情一つ変わらなかったことに驚くと同時に、何の躊躇もなく俺に触れた事にも驚いた。
こんな俺に対して何も感情を表すことのない奴は初めてだった。
俺は身動きできずそのままその男に運ばれていく。白い服を着た男の前を通り過ぎた時、「はっ。化け物には化け物がお似合いだな」と侮蔑を隠しもしない顔でそう言われた。
化け物……? どういうことかと思い、俺を運ぶ男の顔をそっと伺う。するとオースティンさんの顔のこめかみから頬骨にかけて、うっすらとだがキラキラと鱗のようなものが付いていることに気が付いた。そして金の瞳から見える瞳孔は縦に長い。そう、それはまるで――。
「蛇……?」
肌も髪も白いからまるで白蛇のような感じだ。その恐ろしいほどの美貌と相まって神々しさすら感じる。コレのどこが化け物なんだろうか。俺なんかよりよっぽど綺麗だ。
オースティンさんは何も言葉を発することなく、そのまま部屋を出ると何処かへと向かって行った。俺はぼんやりと彼の顔を見ながら大人しく運ばれていく。
どこまで行くのかと思っていたらそのままオースティンさんは外へと出ていった。
「あ、風……」
思わず声が出た。掠れた声だったがオースティンさんには聞こえたようで、ちらりと俺に視線を寄こすと「風が気持ちいいか?」と訪ねて来た。
初めて聞いたオースティンさんの声は低いながらも心地の良い優しい声だった。
「……うん、気持ちいい。久しぶりに風を感じた。風ってこんなにも気持ちが良いものだったんだ……」
この世界に来る前もずっと部屋に閉じこもっていたけど、たまに窓を開けて風を入れていた。気持ちのいい風が入ると、鬱々とした気持ちも少し晴れたような気がして好きだった。
この世界に来てからは窓のない部屋でずっと過ごしていたから、こうやって風を感じるのは随分と久しぶりに感じる。
風だけじゃない。太陽の光も温かくて気持ちが良い。外ってこんなにも気持ちが良いものだったんだ。
「このまま馬車に乗って移動する。揺れるだろうから、このまま抱いたままにするぞ」
その言葉通り、俺は馬車に乗った後もオースティンさんに抱えられたまま移動することになった。
俺はもう何日も風呂に入っていない。きっと匂いだってするだろう。俺の顔の火傷の跡も見ているだろう。なのに嫌な顔一つせず、俺をしっかりと抱きとめたままいてくれた。
こんな風に優しくされたことが久しぶりだった。心の中が温かさで溢れていく。
オースティンさんは仕方なくそうしているのかもしれない。それでも、俺にとっては物凄く嬉しい事だった。
やがて馬車の動きが止まる。扉が開き、オースティンさんは俺を抱きかかえたまま馬車を降りる。かなり力があるのか全く不安感なく馬車を降りた。
馬車を降りた先は、巨大な建物があった。壁全体がクリーム色で優しい印象を与えるが、白い立派な柱には色々な彫刻が施されていて荘厳な雰囲気を醸し出している。
「神子様、ようこそヘインズ公爵家へ」
女性の声が聞え、そちらを向くと栗色の髪を一つに括った美女が笑顔で近寄っていた。その美女はまるで男性のような凛々しい服装をしていた。だが物凄く似合っていてまるで男装の麗人だ。
「姉上、挨拶はまた日を改めて。神子様が弱っている」
「なっ……! わかった、直ぐに対処しよう」
「食事と風呂の用意を頼む。食事は胃に優しい物を」
「任せておけ」
美女は頷くと颯爽と身を翻し、後ろに控えていた使用人らしき人々に指示を出している。そして俺はそのままオースティンさんに運ばれ建物の中へと入っていった。
玄関ホールはかなり広く、そしてとてつもなく豪華だった。まるで映画のワンシーンのようなそこを、オースティンさんは迷いなく突っ切っていく。
そのまま白く立派な階段を上り、一つの部屋へと入った。そこはかなり広い部屋で中には男が二人控えていた。
「まずは神子様に水を」
オースティンさんがそう声を掛けると、そのまま俺を奥へと連れて行き椅子に腰かけさせた。この部屋の中にいた男が一人、水の入ったコップを手渡してくる。その男も俺の顔を見ても顔色一つ変えることはなかった。
そのコップを受け取り口を付ける。喉を流れていく水が堪らなく美味しく感じてあっという間に飲み干してしまった。するとすぐに水の入った別のコップを渡されそれも飲み干していく。
ふぅ、と一息吐くと「落ち着いたか?」と問われたので首を縦に振った。
「ありがとう、ございます。喉が渇いていたので生き返った気分です」
「それは何より。今食事の用意をしている。その間に風呂に入ってさっぱりするといい」
オースティンさんはそう言うと、部屋にいた2人の男に「神子様を頼む」と声を掛けるとそのまま身を翻し部屋を出て行った。
部屋に入ってきてそう言ったのは、あの白い服を着た男だった。
やっぱり俺はここで殺されるということなんだろう。
「お前にはここから出て行ってもらう。喜べ。行先は、お前と同じ化け物のところだ」
ん? 俺は殺されるんじゃないのか? それともその化け物に食い殺されるのだろうか。
その化け物も可哀そうな奴だな。俺みたいな醜く汚い男を食わされるんじゃ腹を壊すんじゃないだろうか。
「おいオースティン。さっさとこいつを連れて行け。目障りだ」
白い服を着た男が後ろにいた奴に声を掛ける。そしてそいつが部屋へと入って来た。
「……!?」
入って来たのは男だった。だがただの男じゃない。すらりとした長身に白い長髪。白い肌に金色の目。そして顔の造りが人間離れした恐ろしいほどの美形だった。全体的に白い見た目だからか、一際強く輝く金の目が印象的だ。
その男は俺を見ても表情を変えることなく近づいて来る。俺はもうだるすぎて体を動かすことが億劫だった。そのままベッドの上から近づいてくる男をぼんやりと見る。
「ぁ……」
俺の目の前に来たその男、オースティンさんは顔色を変えることなく俺を横抱きにして抱き上げた。
俺の顔を見ても表情一つ変わらなかったことに驚くと同時に、何の躊躇もなく俺に触れた事にも驚いた。
こんな俺に対して何も感情を表すことのない奴は初めてだった。
俺は身動きできずそのままその男に運ばれていく。白い服を着た男の前を通り過ぎた時、「はっ。化け物には化け物がお似合いだな」と侮蔑を隠しもしない顔でそう言われた。
化け物……? どういうことかと思い、俺を運ぶ男の顔をそっと伺う。するとオースティンさんの顔のこめかみから頬骨にかけて、うっすらとだがキラキラと鱗のようなものが付いていることに気が付いた。そして金の瞳から見える瞳孔は縦に長い。そう、それはまるで――。
「蛇……?」
肌も髪も白いからまるで白蛇のような感じだ。その恐ろしいほどの美貌と相まって神々しさすら感じる。コレのどこが化け物なんだろうか。俺なんかよりよっぽど綺麗だ。
オースティンさんは何も言葉を発することなく、そのまま部屋を出ると何処かへと向かって行った。俺はぼんやりと彼の顔を見ながら大人しく運ばれていく。
どこまで行くのかと思っていたらそのままオースティンさんは外へと出ていった。
「あ、風……」
思わず声が出た。掠れた声だったがオースティンさんには聞こえたようで、ちらりと俺に視線を寄こすと「風が気持ちいいか?」と訪ねて来た。
初めて聞いたオースティンさんの声は低いながらも心地の良い優しい声だった。
「……うん、気持ちいい。久しぶりに風を感じた。風ってこんなにも気持ちが良いものだったんだ……」
この世界に来る前もずっと部屋に閉じこもっていたけど、たまに窓を開けて風を入れていた。気持ちのいい風が入ると、鬱々とした気持ちも少し晴れたような気がして好きだった。
この世界に来てからは窓のない部屋でずっと過ごしていたから、こうやって風を感じるのは随分と久しぶりに感じる。
風だけじゃない。太陽の光も温かくて気持ちが良い。外ってこんなにも気持ちが良いものだったんだ。
「このまま馬車に乗って移動する。揺れるだろうから、このまま抱いたままにするぞ」
その言葉通り、俺は馬車に乗った後もオースティンさんに抱えられたまま移動することになった。
俺はもう何日も風呂に入っていない。きっと匂いだってするだろう。俺の顔の火傷の跡も見ているだろう。なのに嫌な顔一つせず、俺をしっかりと抱きとめたままいてくれた。
こんな風に優しくされたことが久しぶりだった。心の中が温かさで溢れていく。
オースティンさんは仕方なくそうしているのかもしれない。それでも、俺にとっては物凄く嬉しい事だった。
やがて馬車の動きが止まる。扉が開き、オースティンさんは俺を抱きかかえたまま馬車を降りる。かなり力があるのか全く不安感なく馬車を降りた。
馬車を降りた先は、巨大な建物があった。壁全体がクリーム色で優しい印象を与えるが、白い立派な柱には色々な彫刻が施されていて荘厳な雰囲気を醸し出している。
「神子様、ようこそヘインズ公爵家へ」
女性の声が聞え、そちらを向くと栗色の髪を一つに括った美女が笑顔で近寄っていた。その美女はまるで男性のような凛々しい服装をしていた。だが物凄く似合っていてまるで男装の麗人だ。
「姉上、挨拶はまた日を改めて。神子様が弱っている」
「なっ……! わかった、直ぐに対処しよう」
「食事と風呂の用意を頼む。食事は胃に優しい物を」
「任せておけ」
美女は頷くと颯爽と身を翻し、後ろに控えていた使用人らしき人々に指示を出している。そして俺はそのままオースティンさんに運ばれ建物の中へと入っていった。
玄関ホールはかなり広く、そしてとてつもなく豪華だった。まるで映画のワンシーンのようなそこを、オースティンさんは迷いなく突っ切っていく。
そのまま白く立派な階段を上り、一つの部屋へと入った。そこはかなり広い部屋で中には男が二人控えていた。
「まずは神子様に水を」
オースティンさんがそう声を掛けると、そのまま俺を奥へと連れて行き椅子に腰かけさせた。この部屋の中にいた男が一人、水の入ったコップを手渡してくる。その男も俺の顔を見ても顔色一つ変えることはなかった。
そのコップを受け取り口を付ける。喉を流れていく水が堪らなく美味しく感じてあっという間に飲み干してしまった。するとすぐに水の入った別のコップを渡されそれも飲み干していく。
ふぅ、と一息吐くと「落ち着いたか?」と問われたので首を縦に振った。
「ありがとう、ございます。喉が渇いていたので生き返った気分です」
「それは何より。今食事の用意をしている。その間に風呂に入ってさっぱりするといい」
オースティンさんはそう言うと、部屋にいた2人の男に「神子様を頼む」と声を掛けるとそのまま身を翻し部屋を出て行った。
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