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余韻のなかで

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 次にクリスティ姫が気づいたとき、彼女は毛布の感触に包まれていた。
 ふかふかで、暖かい。

「……ッ⁉︎ グレン?」
「ここにいる」

 すごく近くから聞こえた。
 それもそのはず、勇者グレンは、毛布で包んだクリスティを抱きしめていたのだから。

 ベッドのうえに座る彼と、そこに背中を預ける形で抱かれるクリスティ。
 彼女は、ふーっと安堵の息をついた。
 無限に繰り返されるかと思ったイキ戻りから、どうやら抜け出せたらしい。

「わたし……どうなった?」
「接吻をしたら急に気を失って。悪かった。その……初めてだったか?」

 意識を失ったことで、グレンが動くのをやめてくれたらしい。
 彼はどうやら、クリスティのことをとてもだと思ったようだった。

(まあそうね、あんなにすごいのはーー)
「ええ、初めてよ」

「そうか」
 強く抱きしめられる。
「大事にする」

 クリスティは、そう言ったグレンの吐息が耳に触れただけで、

「あっ……」

 さっきの感覚が、うずきのように身体の芯に蘇ってきた。
 あんな危険な体験をしたのに、もう、求めたくなっていた。

 でも、ああやって意図せずセーブして発動するのは、危険すぎる。
 彼にとっては手順が大事。
 それは普通の男女であればムード作りの一助となるだろう。

 でも、雰囲気ムードでキスされてしまうのは、クリスティにかぎっては、本当の本当に駄目なのだ。

「あのね、グレン聞いて。じつはーー」

 クリスティはイキ戻りの詳細を、グレンに話すことにした。

***

「わかった。接吻は気をつけよう。私のほうからすると、その、セーブ?とやらが意図せず上書きされるわけだな。不本意だが、クリスティのほうから、必要なときに接吻してくれ」
「じゃあ、さっそくするわね」

 クリスティは、グレンの首に抱きついてセーブした。

「んっ……」

 丁寧に丁寧に、いつまでも離れようとしない、とても長いセーブだった。

「はい、これでOK。二度も説明したくないもの」

 そう言い訳するクリスティの顔は、真っ赤に上気していた。
 グレンはそんな彼女の顔を、愛おしいものを見る目で眺めていた。

「これで準備はできたわ」
「……発動はもう試しておく必要はないか?」
「え?」

 見ると、グレンが微笑んでいる。
 クリスティの素直な反応が楽しくてたまらないといった様子だ。

 彼女は下を向き、恥ずかしがりながら言う。
「こっ、これからの戦いを考えると、いろいろな場面を想定しておく必要があるわ」
「手しか使えないこともあるかもしれないからな」
「そ、そうねっ。あと、その……舌とか」

 グレンが大げさに首を傾げ、
「それって胴体がもうないという想定か? ……そのときに、私の意識がまだあるといいのだが」
「なくても舌だけは動かせるようになってほしいの!」

 ベッドのうえで、ふたりで笑う。
 それはとても幸せな時間だった。

 戻す必要などなく、ずっと未来へ続いていけばいいのにと、ふたりは思った。
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