14 / 35
作業
しおりを挟む
三度目の取引で、
ようやく僕らは平地人から欲しい物を得ることができた。
「首飾りだ!」
「光る石もあるぞ!」
仲間たちから喜びの声が上がる。
僕が求めていた、魚の罠も届けられた。
枝で編まれた罠を僕がいじっていると、
仲間の一人が近づいてこうささやいた。
「ルイ、それは食べられるのカ?」
望みの物を得られて上機嫌の僕は、
そんな仲間の無知さえも愛おしい。
「食べたらダメだよ!。」
優しく諭した。
訓練は相変わらずの調子だったが、
それでも少しずつ動きがさまになってきた。
特に武器の扱いは上達している。
狙ったところに打ち込む術は足りないものの、
これならパワーで圧倒できる。
持ち帰った鍬やザル、罠なども作らせてみる。
こちらはなかなか上手にはいかない。
もともと器用さに欠ける上、
集中力や忍耐力も足りなかった。
「ウホーッ!」
の声とともに、道具にするための枝のが折れる音がする。
いらいらすると、どうしても猿人帰りしてしまうのだ。
しかし、よく見ていると
各々に個人差があることもわかってきた。
蔓を結ぶのを苦にしないもの、
石をうまく磨けるものなど、
拙いながらも近い形のものを作れる仲間も出てきた。
僕が転生したネアンデルタール人は、
どうやら不器用な方だったらしい。
指導する僕がこうでは、
仲間たちの腕も上がらない。
ルネを呼んでくると
「僕は訓練に行くから、後はルネがみんなに教えてあげて。」
と頼んだ。
ルネも驚いたが仲間も驚いた。
そのうちの一人、
まだ名はないのでトビの子と呼ばれている若者が
「ルネが逃げるんじゃないカ?」
と聞いてきた。
実は数日前、
寝る際にルネの手足を緩く結び過ぎたため
朝起きるとルネが戒めを外して寝ていたことがあった。
「どうして逃げなかったんだ?」
と尋ねると、ルネはひとこと
「暗くて方向がわからないから。」
とつぶやいた。
もしかして、僕に好意を持ったからだろうか、
という淡い期待はすぐに消えた。
がっかりはしたが、
ルネとこの先も長く暮らしていける自信になった。
森は広いうえ、道などない。
しかも、森の中では木を飛んで移動する方が速い。
平地人のルネにはそれができない。
ただし、平地に下りると話は変わってくる。
もとは現世人の僕でも
ネアンの身体では平地を速く走れない。
トビの子にそのことを説明する。
彼は身体は大きくないが、
ネアンにしては手先がかなり器用だ。
指を使えば知能が上がる。
この先、成長を期待している一人だ。
「わかった。ルネ、教えテ。」
トビの子が屈託のない笑顔で言った。
最近は、ルネの見た目を笑う仲間もいない。
僕は安心して、訓練に向かった。
いつも通り、訓練ははかどらなかった。
集まる仲間も多くはないし、
何より言葉での意思疏通が難しかった。
ネアンはヒトと比べ、
声帯が未発達で言葉をうまく発音しにくい。
出土した化石から得られた仮説だが、
実際に経験して、それが事実であると確認できた。
そんなこんなでバタバタしているところに、
仲間の一人、マフという男が現れた。
(マフだ。)
僕だけでなく、
訓練に参加していた皆が戸惑いの気持ちを持った。
マフは、長の息子の一人。
長兄にあたり、身体は大きく力も強い。
気性は荒いが、仲間を思いやる責任感もある。
自他ともに後を継ぐ者と見られている。
マフは、いつも通り弟のゾマを連れていた。
ゾマはひときわ力が強いが、
頭脳の方は森の平均的な仲間にも及ばない。
「ルイよ、おまえはいつも何をしテいる?」
マフが僕に聞いてくる。
彼とゾマは、
訓練に参加してくれたことが一度もない。
そもそも、
僕が仲間を集めて訓練をしていることに否定的だ。
これも、訓練に仲間が集まらない原因の一つだった。
僕は彼と話す機会を伺っていた。
だから、むしろ今回はチャンスだと思った。
「見ての通り、訓練でございます。闘うための。」
僕はマフに、とびきりの敬意を払って言った。
マフは少し僕を睨むと
「長の命令ではなイ。」
と厳かに言った。
マフの言う通り、長は許可はしてくれたが、
僕に訓練を命じたわけではない。
「長が、森と仲間を守れとおっしゃったので…。」
と、逃げようとしたが、
横からゾマが
「ルイ、おまえに守れルのか!?」
と大きな声で威嚇してきた。
その大声であたりはシーンと静まりかえった。
マフは注目が集まるのを見計らって、
「平地人のような弱いやつラの真似をしてどうなル。俺たちの方が強い!」
と添える。
「そうダ!」
「マフの言うとおりダ!」
仲間たちが口々に賛同した。
平地人はネアンの無知、礼儀のなさを見下しているが、
ネアンの側も平地人の腕力の弱さを見下している。
なぜ平地人の真似をするのか、という思いは、
訓練をする仲間にも、道具を作る仲間にもある。
その都度、
僕は彼らにわかるように説明してきた。
ただ、それにも少し疲れてきたし飽きてきた。
ただ、マフに関して思うのは、
マフは僕を怖れているのではないか。
長の後継者としての地位を、
僕が狙っていると勘違いしているのではということだ。
悪いが、そんなつもりはない。
進化したホモ・サピエンスの僕が、
何が悲しくて、
ネアンデルタール人と権力争いをしなくちゃならない。
いいだろう。
マフに進化した人類の手管を見せてやる。
「マフ様。」
僕は膝をつき、うやうやしく彼の手を取る。
「卑怯者の平地人を倒すために私が頑張っているのですが、私の力では仲間がついて参りません。」
弟のゾマが驚いた目で僕を見ている。
僕は下からマフの顔を見上げて言う。
「マフ様でなければ、仲間を鍛え、率いることができません。どうかリーダーとなり…。」
紅潮するマフの頬が見えた。
「私にお力をお貸しください。」
こうしてマフは僕の手に落ちた。
マフが中央に立ち、
その横から僕が指示をささやく。
それをマフが大声で皆に命令する。
マフの強さは仲間の全員が知っているから、
俄然、皆がきびきびと動き出した。
蝶を見つけ列を離れた仲間の一人は、
マフの指示を受けたゾマによって殴打された。
(現世ならパワハラでクビだな。)
などと思いながら、
それを見ていた他の仲間がさらに引き締まるのを見て、
僕は心から安心した。
現代人の僕がネアンデルタール人に媚びたことは、
己のプライドを守るために今は忘れよう。
陽が暮れてきた。
訓練も終わり、道具作りの作業現場に戻る。
薄暗がりの中、トビの子がまだ働いていた。
他の仲間は帰ってしまったらしいが、
先ほどまで何人かは作業を続けていたと言う。
ルネは彼らに助言し、
自らの手で形を整えるなどもしていたようだ。
「できた物だ。」
トビの子が、
自分の完成品を手で示しながら嬉しそうに言った。
ルネと棲みかに戻り、少しの食事を摂る。
今朝、木からもいだ梨のような果実だ。
秋だ。
日が沈むのが早くなり、
食べているうちにルネの顔が見えなくなってくる。
「もうしばらく我慢すれば、君は村に戻れる。」
唐突に僕は言った。
今日一日のルネの頑張りに、
何かしら声をかけたかったからだ。
どうして?という表情のルネ。
僕にも確証はない。
この森はとても広いが、
我々が移ってきてかなりの時が経った。
かなりの量の資源を取り尽くしてきている。
そして、本格的な冬が来れば自然の恵みが減る。
移住を検討、実行する時期も近い。
ここを離れる時には、
ルネを解放するのは当然の成り行きだ。
「寝よう。」
僕はルネに深く説明はしなかった。
ルネも特に尋ねてこなかった。
翌朝早く、
注意を告げる見張りの声が森に響いた。
ー続くー
ようやく僕らは平地人から欲しい物を得ることができた。
「首飾りだ!」
「光る石もあるぞ!」
仲間たちから喜びの声が上がる。
僕が求めていた、魚の罠も届けられた。
枝で編まれた罠を僕がいじっていると、
仲間の一人が近づいてこうささやいた。
「ルイ、それは食べられるのカ?」
望みの物を得られて上機嫌の僕は、
そんな仲間の無知さえも愛おしい。
「食べたらダメだよ!。」
優しく諭した。
訓練は相変わらずの調子だったが、
それでも少しずつ動きがさまになってきた。
特に武器の扱いは上達している。
狙ったところに打ち込む術は足りないものの、
これならパワーで圧倒できる。
持ち帰った鍬やザル、罠なども作らせてみる。
こちらはなかなか上手にはいかない。
もともと器用さに欠ける上、
集中力や忍耐力も足りなかった。
「ウホーッ!」
の声とともに、道具にするための枝のが折れる音がする。
いらいらすると、どうしても猿人帰りしてしまうのだ。
しかし、よく見ていると
各々に個人差があることもわかってきた。
蔓を結ぶのを苦にしないもの、
石をうまく磨けるものなど、
拙いながらも近い形のものを作れる仲間も出てきた。
僕が転生したネアンデルタール人は、
どうやら不器用な方だったらしい。
指導する僕がこうでは、
仲間たちの腕も上がらない。
ルネを呼んでくると
「僕は訓練に行くから、後はルネがみんなに教えてあげて。」
と頼んだ。
ルネも驚いたが仲間も驚いた。
そのうちの一人、
まだ名はないのでトビの子と呼ばれている若者が
「ルネが逃げるんじゃないカ?」
と聞いてきた。
実は数日前、
寝る際にルネの手足を緩く結び過ぎたため
朝起きるとルネが戒めを外して寝ていたことがあった。
「どうして逃げなかったんだ?」
と尋ねると、ルネはひとこと
「暗くて方向がわからないから。」
とつぶやいた。
もしかして、僕に好意を持ったからだろうか、
という淡い期待はすぐに消えた。
がっかりはしたが、
ルネとこの先も長く暮らしていける自信になった。
森は広いうえ、道などない。
しかも、森の中では木を飛んで移動する方が速い。
平地人のルネにはそれができない。
ただし、平地に下りると話は変わってくる。
もとは現世人の僕でも
ネアンの身体では平地を速く走れない。
トビの子にそのことを説明する。
彼は身体は大きくないが、
ネアンにしては手先がかなり器用だ。
指を使えば知能が上がる。
この先、成長を期待している一人だ。
「わかった。ルネ、教えテ。」
トビの子が屈託のない笑顔で言った。
最近は、ルネの見た目を笑う仲間もいない。
僕は安心して、訓練に向かった。
いつも通り、訓練ははかどらなかった。
集まる仲間も多くはないし、
何より言葉での意思疏通が難しかった。
ネアンはヒトと比べ、
声帯が未発達で言葉をうまく発音しにくい。
出土した化石から得られた仮説だが、
実際に経験して、それが事実であると確認できた。
そんなこんなでバタバタしているところに、
仲間の一人、マフという男が現れた。
(マフだ。)
僕だけでなく、
訓練に参加していた皆が戸惑いの気持ちを持った。
マフは、長の息子の一人。
長兄にあたり、身体は大きく力も強い。
気性は荒いが、仲間を思いやる責任感もある。
自他ともに後を継ぐ者と見られている。
マフは、いつも通り弟のゾマを連れていた。
ゾマはひときわ力が強いが、
頭脳の方は森の平均的な仲間にも及ばない。
「ルイよ、おまえはいつも何をしテいる?」
マフが僕に聞いてくる。
彼とゾマは、
訓練に参加してくれたことが一度もない。
そもそも、
僕が仲間を集めて訓練をしていることに否定的だ。
これも、訓練に仲間が集まらない原因の一つだった。
僕は彼と話す機会を伺っていた。
だから、むしろ今回はチャンスだと思った。
「見ての通り、訓練でございます。闘うための。」
僕はマフに、とびきりの敬意を払って言った。
マフは少し僕を睨むと
「長の命令ではなイ。」
と厳かに言った。
マフの言う通り、長は許可はしてくれたが、
僕に訓練を命じたわけではない。
「長が、森と仲間を守れとおっしゃったので…。」
と、逃げようとしたが、
横からゾマが
「ルイ、おまえに守れルのか!?」
と大きな声で威嚇してきた。
その大声であたりはシーンと静まりかえった。
マフは注目が集まるのを見計らって、
「平地人のような弱いやつラの真似をしてどうなル。俺たちの方が強い!」
と添える。
「そうダ!」
「マフの言うとおりダ!」
仲間たちが口々に賛同した。
平地人はネアンの無知、礼儀のなさを見下しているが、
ネアンの側も平地人の腕力の弱さを見下している。
なぜ平地人の真似をするのか、という思いは、
訓練をする仲間にも、道具を作る仲間にもある。
その都度、
僕は彼らにわかるように説明してきた。
ただ、それにも少し疲れてきたし飽きてきた。
ただ、マフに関して思うのは、
マフは僕を怖れているのではないか。
長の後継者としての地位を、
僕が狙っていると勘違いしているのではということだ。
悪いが、そんなつもりはない。
進化したホモ・サピエンスの僕が、
何が悲しくて、
ネアンデルタール人と権力争いをしなくちゃならない。
いいだろう。
マフに進化した人類の手管を見せてやる。
「マフ様。」
僕は膝をつき、うやうやしく彼の手を取る。
「卑怯者の平地人を倒すために私が頑張っているのですが、私の力では仲間がついて参りません。」
弟のゾマが驚いた目で僕を見ている。
僕は下からマフの顔を見上げて言う。
「マフ様でなければ、仲間を鍛え、率いることができません。どうかリーダーとなり…。」
紅潮するマフの頬が見えた。
「私にお力をお貸しください。」
こうしてマフは僕の手に落ちた。
マフが中央に立ち、
その横から僕が指示をささやく。
それをマフが大声で皆に命令する。
マフの強さは仲間の全員が知っているから、
俄然、皆がきびきびと動き出した。
蝶を見つけ列を離れた仲間の一人は、
マフの指示を受けたゾマによって殴打された。
(現世ならパワハラでクビだな。)
などと思いながら、
それを見ていた他の仲間がさらに引き締まるのを見て、
僕は心から安心した。
現代人の僕がネアンデルタール人に媚びたことは、
己のプライドを守るために今は忘れよう。
陽が暮れてきた。
訓練も終わり、道具作りの作業現場に戻る。
薄暗がりの中、トビの子がまだ働いていた。
他の仲間は帰ってしまったらしいが、
先ほどまで何人かは作業を続けていたと言う。
ルネは彼らに助言し、
自らの手で形を整えるなどもしていたようだ。
「できた物だ。」
トビの子が、
自分の完成品を手で示しながら嬉しそうに言った。
ルネと棲みかに戻り、少しの食事を摂る。
今朝、木からもいだ梨のような果実だ。
秋だ。
日が沈むのが早くなり、
食べているうちにルネの顔が見えなくなってくる。
「もうしばらく我慢すれば、君は村に戻れる。」
唐突に僕は言った。
今日一日のルネの頑張りに、
何かしら声をかけたかったからだ。
どうして?という表情のルネ。
僕にも確証はない。
この森はとても広いが、
我々が移ってきてかなりの時が経った。
かなりの量の資源を取り尽くしてきている。
そして、本格的な冬が来れば自然の恵みが減る。
移住を検討、実行する時期も近い。
ここを離れる時には、
ルネを解放するのは当然の成り行きだ。
「寝よう。」
僕はルネに深く説明はしなかった。
ルネも特に尋ねてこなかった。
翌朝早く、
注意を告げる見張りの声が森に響いた。
ー続くー
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちいさなメロディ~little fairy of flower~
菜乃ひめ可
現代文学
「おはよう、“メロディ”。ご機嫌はいかがかな?」
彼の名は、髙草木 葉之介(たかくさき ようのすけ)。
植物の持つ意識を具現化するために日々、研究を重ねる研究者である。
◇
この研究を成功させる為にまず必要とされたのは、新たな植物の育種技術。それを開発するべく六人の優秀な人材を会社(研究所)は集め、特別研究チームを発足。
『これは選ばれた自分たちにしか出来ない』という使命感と希望に満ち溢れ、前だけを向いて生き生きと日々の研究に取り組んでいった。
が、しかし――。
これは『とある研究者とꕤ花の妖精ꕤちいさなメロディ』の物語……。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
WEAK SELF.
若松だんご
歴史・時代
かつて、一人の年若い皇子がいた。
時の帝の第三子。
容姿に優れ、文武に秀でた才ある人物。
自由闊達で、何事にも縛られない性格。
誰からも慕われ、将来を嘱望されていた。
皇子の母方の祖父は天智天皇。皇子の父は天武天皇。
皇子の名を、「大津」という。
かつて祖父が造った都、淡海大津宮。祖父は孫皇子の資質に期待し、宮号を名として授けた。
壬申の乱後、帝位に就いた父親からは、その能力故に政の扶けとなることを命じられた。
父の皇后で、実の叔母からは、その人望を異母兄の皇位継承を阻む障害として疎んじられた。
皇子は願う。自分と周りの者の平穏を。
争いたくない。普通に暮らしたいだけなんだ。幸せになりたいだけなんだ。
幼い頃に母を亡くし、父と疎遠なまま育った皇子。長じてからは、姉とも引き離され、冷たい父の元で暮らした。
愛してほしかった。愛されたかった。愛したかった。
愛を求めて、周囲から期待される「皇子」を演じた青年。
だが、彼に流れる血は、彼を望まぬ未来へと押しやっていく。
ーー父についていくとはどういうことか、覚えておけ。
壬申の乱で散った叔父、大友皇子の残した言葉。その言葉が二十歳になった大津に重く、深く突き刺さる。
遠い昔、強く弱く生きた一人の青年の物語。
―――――――
weak self=弱い自分。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる