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一日
しおりを挟む日の出とともに目覚める。
生活はおもに森で行い、
手も使って木を渡る。
二足歩行もできるが、
走る速度はそれほどでもない。
獣の皮を剥いで、
簡単な衣服を作る。
鋭利な道具が少ないため、
時には自分の歯で皮を剥ぐ。
一着作り終える頃には、
口の辺りは獣の血でまみれ、
どんなホラー映像よりも恐ろしい。
洞窟を棲みかとできるのは強い一族で、
多くは寝るのも樹上である。
木から落ちて目覚めることもある。
体毛が濃いため寒さには強いが、
それでも寒さで目覚めることは多々ある。
そういう時は葉の多い枝をもいで、
体の上にまとう。
知らずに漆類の枝をまとってしまうことがある。
寝ぼけている時によくある。
おそろしい痒みで目が覚める。
皮膚がただれ、毛が抜け落ちる。
毛が一部、抜け落ちた姿を見ると
仲間たちがそれを指さして
「ウホウホ」
と言って笑う。
目覚めたあとは食事の確保。
おもに木の実を食し、葉も食う。
うまい葉、まずい葉の区別は当然ある。
同じ木で取れた葉でも、
新しいか古いかで
味も歯応えもまるで違う。
もし現世に戻れたら、
『葉っぱの料理図鑑』が出版できる。
川や水場で取れた貝類や魚はごちそう。
沢ガニは現世のものと比べて
倍くらいの大きさだ。
幹に生えた茸の類、
根本に生えた山草などは美味だ。
毒キノコとの選別は、
本能に頼る部分も多いが、
多くは知識の伝播によって判断している。
昨日も仲間の一人が毒キノコを食べた。
キノコ類は似ているものが多い。
悲しいかな、
知識では
毒キノコの可能性が高いとわかっていて、
食欲に負けてかじりついてしまったらしい。
食べた後、しばらくは普通に過ごしていた。
「大丈夫だったか?」
と尋ねたら、
「大丈ウララン…。」
と、よだれをダラダラ流しながら答えた。
呂律が完全にアウトだ。
しばらくすると動けなくなり、
幻覚を見ているのか、
日中は
「でキャいキろコ…おゾってくウゥ…。」
とつぶやき続けていた。
知識の伝播と記したが、
ネアンデルタール人にも家族がある。
私にもネアンデルタール人の父と母、
兄と妹が存在している。
僕はまだ父や母と同居だ。
僕だけでなく、
自立するまでの間は家族単位で過ごす。
母と妹は当然、雌である。
顔つき、胸の膨らみが雄とは違う。
美醜は当然あって、
僕の妹は、
兄の僕から見ても、
立派なゴリラ顔をしている。
しかし部族の若い雄は
彼女を想う者が多い。
先日もキノコを手にした仲間が現れ、
「これ、妹に…。ウホッ!」
と言い、顔を真っ赤にしていた。
妹はそんなこんなで
たくさんの食料をもらうことが多く、
ブクブクと太っている。
その姿を見て、仲間が
「また可愛くなって…。」
とつぶやく。
もう何もかも、
好みが現世と違いすぎる。
家族がいくつか、
僕の場合は8つほどの家族が集まった、
部族単位で集団移動を行っている。
生活に良い場所、
つまり水が確保できて、
ある程度の食料を得られる森に
しばらく定住する。
食料が減ってくると、
次の定住地を求めて移動する。
目覚めて食料を確保するまでは、
なかなかのひと仕事だ。
子がある雌は育児に集中するため、
それ以外のネアンデルタール人…
長いな、今後はネアンとしよう。
ネアンは手分けして食料を探す。
その一方で、弱い、もしくは若いネアンは
見張りを行う。
私は、あまり強くないネアンとして認識されている。
見張りに立たされることも多い。
本来は人類であったことを思い出した現在、
少しプライドが傷つく。
何を見張るのか。
それは、他部族の侵入だ。
他のネアンも同様に移住を行っている。
よい餌場は、やはり奪い合いになるのだ。
しかし、
今はネアンだけを見張っているわけではない。
平地に住むモノ。
私たちと似たような体つきをした生物。
そう。
人類のことだ。
食料を確保し終え、
遅めの朝食をとる頃には日が高くなる。
我々は交代で見張りを行いながら、
昼寝をする。
部族全体が昼寝を終えると
日が落ちるまでは自由な時間がある。
集団で体を動かすもの、
つまり鬼ごっこのようなことをするもの、
ユニークな形の枝を探して寝床を飾るもの、
川で見つけた貝殻を飾るもの、
食料を探し続けて
己の家族のために貯蓄するもの、
石を投げて石器を作るもの。
様々である。
鬼ごっこは、僕もよく参加する。
鬼になったネアンが
「ウガァッ!」
と叫び、
四本足を使って全力で追いかけてくる。
本当に取って食われるんじゃないかと感じるほど、
まさに鬼そのものだ。
日が落ちると、
それぞれが寝床に戻り眠りに入る。
これがネアンの一日だ。
転生した自分を認識した初日は、
彼らの観察で終わった。
明日からは別の観察を…
との思いもむなしく、
その夜、
私たちは定住の場を襲われることになる。
ー続くー
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