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転生
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案内の男は、少し足を引きずっている。
さっき襲われた時、僕が脚を打ち据えたからだ。
こうしておかないと、駆け出された時に追い付けない。四人の男のうち、
彼を案内に選んだのはそういう理由からだ。
新人類としてネアンデルタール人を「山の猿」と見下している彼らは、
僕のことを不可思議な存在に見ているに違いない。
だからといって、
二万年後の子孫が目の前にいるんだと。
こう説明しても、
新人類である彼らには
とうてい理解できないだろう。
僕がこんな時代に
ネアンデルタール人が滅ぶ前、
新人類が生まれてきたこんな時代に、
転生してきたのは
悲劇でも
喜劇でも
アクシデントでも
悪ふざけでも
気まぐれでもなんでもない。
本気だった。
事情を知るものからすれば、
たかが卒業論文のために…
と散々に言われたが、
この学問で生きていくと決めた以上は、
やるなら徹底的にだ。
転生機
こう書くと
輪転機くらいの大きさをイメージされてしまうが
実際は、とんでもない大きさ。
実用段階まであと少し。
と言われ続けて10年以上。
非公式な人体実験で
何人かの精神破綻者が生まれているとか
帰ってこれなくなった者もいるとか
とにかく成功例が少なく
危険極まりないものと言われている。
高校時代の親友の叔父が
転生機の開発者の一人で
そのつてで
実際の状況を詳しく聞くことができた。
転生先から戻ってこれた者が半分。
うち半分は精神に異常をきたし、入院中。
残り半分は日常生活に戻っている。
親友の叔父もその一人だ。
戻ってこない者が半分。
意識を失った、元の体はまだ、
研究所の中に隠すように保管されている。
それを思うとリスクが高い。
高すぎる。
もちろん、普段の学術研究でも
ネアンデルタール人の生活を
想像し得るところまでは来ている。
大学では考古学を専攻し、
太古を学ぶという僕の夢は
叶ったかに思えた。
でも、実際はわからないことが多すぎて
わずかな事実を元にして
派閥がそれぞれの推論を闘わせ、
お互いの足を引っ張り、
重箱の隅をつつきあい、
それが考古学と言われて、
私の夢は何一つ前に進まなかった。
夢を進めるには
実際に見てくるしかない。
人体実験は
むろん公式には認められていない。
それでも、
非公式でも転生研究を進めたい人びとと、
僕の思惑が一致した。
こうして僕はここにいる。
(本当は彼らの側に行くつもりだったんだけどな。)
ネアンデルタール人と同時期に存在した新人類として転生したつもりだった。
それが、なぜか僕がネアンデルタール人に。
転生実験を行う際、
僕は研究室から無断で持ち出した、
二万年前の人骨を握りしめていた。
転生するには「きっかけが必要だ。」と言われていたからだ。
そのきっかけとして持ち出した骨
「あれがネアンデルタール人のものだったとは…。」
思わず口に出た言葉を聞き、
同行する平地人の男が不気味そうな顔で振り返った。
僕は独り言をごまかすように
「もうすぐか?」
と尋ねる。
「はい、あと少しで…。」
もうすぐ、新人類の村が見られる。
さっきまで、
彼らと交渉するという重大な任務の責任感に押し潰されそうになっていた僕は、
新しい発見ができるのではという、
学者としての期待に胸を踊らせた。
平野の緑が濃くなり、
大きな木が何本も生えているエリアに入った。
「畑?」
僕は思わずつぶやいた。
明らかに、人の手が入った地形が見える。
「はい、このあたりは育つんです。」
案内の男は、相変わらず怯えた声で答えた。
もう村の一部に入ったと見ていいだろう。
すると、煙が上がるのが遠くに見えてきた。
どんどん近づいて煙のシルエットが大きくなってきた頃、
その煙の下に村があるのが見えてきた。
いよいよだ。
ー続くー
さっき襲われた時、僕が脚を打ち据えたからだ。
こうしておかないと、駆け出された時に追い付けない。四人の男のうち、
彼を案内に選んだのはそういう理由からだ。
新人類としてネアンデルタール人を「山の猿」と見下している彼らは、
僕のことを不可思議な存在に見ているに違いない。
だからといって、
二万年後の子孫が目の前にいるんだと。
こう説明しても、
新人類である彼らには
とうてい理解できないだろう。
僕がこんな時代に
ネアンデルタール人が滅ぶ前、
新人類が生まれてきたこんな時代に、
転生してきたのは
悲劇でも
喜劇でも
アクシデントでも
悪ふざけでも
気まぐれでもなんでもない。
本気だった。
事情を知るものからすれば、
たかが卒業論文のために…
と散々に言われたが、
この学問で生きていくと決めた以上は、
やるなら徹底的にだ。
転生機
こう書くと
輪転機くらいの大きさをイメージされてしまうが
実際は、とんでもない大きさ。
実用段階まであと少し。
と言われ続けて10年以上。
非公式な人体実験で
何人かの精神破綻者が生まれているとか
帰ってこれなくなった者もいるとか
とにかく成功例が少なく
危険極まりないものと言われている。
高校時代の親友の叔父が
転生機の開発者の一人で
そのつてで
実際の状況を詳しく聞くことができた。
転生先から戻ってこれた者が半分。
うち半分は精神に異常をきたし、入院中。
残り半分は日常生活に戻っている。
親友の叔父もその一人だ。
戻ってこない者が半分。
意識を失った、元の体はまだ、
研究所の中に隠すように保管されている。
それを思うとリスクが高い。
高すぎる。
もちろん、普段の学術研究でも
ネアンデルタール人の生活を
想像し得るところまでは来ている。
大学では考古学を専攻し、
太古を学ぶという僕の夢は
叶ったかに思えた。
でも、実際はわからないことが多すぎて
わずかな事実を元にして
派閥がそれぞれの推論を闘わせ、
お互いの足を引っ張り、
重箱の隅をつつきあい、
それが考古学と言われて、
私の夢は何一つ前に進まなかった。
夢を進めるには
実際に見てくるしかない。
人体実験は
むろん公式には認められていない。
それでも、
非公式でも転生研究を進めたい人びとと、
僕の思惑が一致した。
こうして僕はここにいる。
(本当は彼らの側に行くつもりだったんだけどな。)
ネアンデルタール人と同時期に存在した新人類として転生したつもりだった。
それが、なぜか僕がネアンデルタール人に。
転生実験を行う際、
僕は研究室から無断で持ち出した、
二万年前の人骨を握りしめていた。
転生するには「きっかけが必要だ。」と言われていたからだ。
そのきっかけとして持ち出した骨
「あれがネアンデルタール人のものだったとは…。」
思わず口に出た言葉を聞き、
同行する平地人の男が不気味そうな顔で振り返った。
僕は独り言をごまかすように
「もうすぐか?」
と尋ねる。
「はい、あと少しで…。」
もうすぐ、新人類の村が見られる。
さっきまで、
彼らと交渉するという重大な任務の責任感に押し潰されそうになっていた僕は、
新しい発見ができるのではという、
学者としての期待に胸を踊らせた。
平野の緑が濃くなり、
大きな木が何本も生えているエリアに入った。
「畑?」
僕は思わずつぶやいた。
明らかに、人の手が入った地形が見える。
「はい、このあたりは育つんです。」
案内の男は、相変わらず怯えた声で答えた。
もう村の一部に入ったと見ていいだろう。
すると、煙が上がるのが遠くに見えてきた。
どんどん近づいて煙のシルエットが大きくなってきた頃、
その煙の下に村があるのが見えてきた。
いよいよだ。
ー続くー
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