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第一章 盗難
ⅱ
しおりを挟む「手記が盗まれたのは知っているか?」
モリスが話し始めた。
「ヴィリディの手記っていう預言書が盗まれたんだ。これまで、歴代の国王は手記の存在を明かしていなかったんだが、手記が盗まれたことで、今の国王陛下が手記の存在を公表したんだ。
手記を盗んだ犯人を俺はちらとしか見ていないから、違う可能性は高いが…
あれは君の親父さんにそっくりだった」
アルフィは一瞬息を止めてしまった。
“なんだって?”
アルフィはモリスの言うことに何にも、疑問を抱かなかった。その犯人が父親であると見たわけでも、断定したわけでもないのに。
「君の親父さんが犯人とは決まったわけじゃないぞ?」
止めるようにモリスが慌てて言った。
「だけど、もし本当に君の親父さんが犯人なんだったら知りたくないか?」
「何を?」
「真相をだよ!」
祭りの騒然の中、知りたい気持ちと知りたくない気持ちがアルフィの中を行ったり来たりを繰り返していた。
「これを機に村を出てみないか?
村を出て、王都に行って、真相を確かめるんだ」
しばらくの間があって、アルフィは呟いた。
「それも悪くないなぁ」
祭りの喧騒の中二人はアルフィが手伝いをしている宿の狭い一室に移動した。
「いや、突然だったけど寝る場所があってよかったよ。ありがとな、アルフィ」
狭い部屋にキルトのマットを敷いてモリスが寝転ぶ。
「…さっき話していたことだが、王都に来ても困ることはないよ。俺の寮の部屋は一人部屋だが、二人が寝れるスペースは充分あるし、ここと違って王都での仕事は困らない。
俺と一緒に来てくれないか?」
アルフィはそこで、じっとモリスの瞳を見つめてから言った。
暗がりで、相手の顔は見えにくかったが、瞳は何を言っているのかは暗くても分かる。
「そうだね、行こうか…王都に」
「そうか!ほんとうか?
そうならまず、王宮に来てくれ。お前でも王宮門を通過できる通行証を渡すよ。通行証を持ってさえいれば、まず怪しまれずに王宮内に入れるから。
仕事は王都に来て、落ち着いてから決めればいい」
「モリス、行くとすれば明日以降に王都へ僕は行くよ」
「そうか。
楽しみだなぁ。お前と一緒に騎士になれるかもしれない」
アルフィは返事をしなかった。
「…アルフィ、明日の朝早く出なければならないから俺は寝るよ」
明け方、すぐにも王都へ帰らねばならないモリスがアルフィに小さな板状の装飾品を手渡して言った。
「これを持ってくれば、王宮内に入れる。だから、寄り道しないで来いよ」
モリスはリリにとび乗り、リリは主人を乗せて村を去って行った。
アルフィは手を振り続け、アルフィとリリが見えなくなると、反対の方向へ顔を向けた。
祭りの次の日の村は前夜の騒ぎが嘘のように静かで穏やかだった。
***
数日後、アルフィが働いていた村の宿には書き置きが残され、アルフィの姿は村のどこにもなかった。
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