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第9章

第?章:奴隷のいる日常6(別視点:回想)

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 普段、通らない道。
 フィデーリス城から、私の本宅に向かう馬車の中。

 私は、会議の疲れを癒したく早く屋敷に行きたいと思いながら、馬車に揺られ窓の外を眺めていた。
 雑踏の中に少女を見つけると、それが全てネムに見えて来る。

 屋敷に帰れば、裸の彼女が出迎えてくれる。
 もう少しの辛抱だ。

 もう少し躾けたら、ネムは本宅に移し、いつでも手元に置いておきたい。
 その時は、さすがに裸族では問題がある。

 私は、ネムに相応しい服装はどんな物かと人込みの女達を見て行く。
 私には家族などいないので、男一人で不用意に女物の服を店に見に行く訳にもいかない。



 その時……私は、違和感に気付いた。

 異様に、多く感じる。
 解禁当初は、あんなにフィデーリス市民の誰もが拒否感を示していたと言うのに、どこを見ても奴隷が目に入った。
 私と同じ様に、皆も奴隷に興味があったのかと勘違いしてしまうぐらい、誰も彼もが堂々と、まるで従者かペットでも連れている様に奴隷を連れている。



 目の前で、奴隷が主人に鞭打たれている所を馬車が通り過ぎた。

 周囲の誰もが、暴力を止めない。
 奴隷相手だから、止める必要など無いと考えているのだろうか?

 鞭打たれた奴隷が地面で動かなくなる。
 まさか、殺されたのか?

 公衆の面前で、あんなにあっさりと?

 いや、どうやら生きてはいる様だ。
 奴隷は起き上がると、悲壮感を纏いながらも主人の後を追いかけて行く。
 あんな目に遭わされたのに。

 私は、公衆の面前で平然と振るわれた暴力にも驚いたが、それ以上に周囲の誰もが奴隷相手だと、暴力を黙認する事に衝撃を受けた。

 フィデーリスは、どうなってしまったのだ?



 * * *



 元々エルフは、どちらかと言えば選民意識が強い部族の多い種族ではある。

 昔ながらに森や山、小島に住んでいるエルフは、単一民族でコミュニティを作り「自分達エルフ」と「それ以外」と考えがちだ。
 同じ肌の色のエルフ同士でさえ、出身の集落や国によっては「それ以外」に入ってしまう時がある。

 しかし、フィデ―リスも王国時代からエルフの国ではあったが、少なくとも表向きは選民意識がそこまで強くなかった。
 賢王ミセーリア統治時代は、エルフ以外の移民も受け入れていたし、国民もその姿勢を支持していた。

 ミセーリア王の死と、上級市民制度、奴隷解禁だけで、ここまで人は他人に対して残酷になれる物なのか?



 それに、鞭打っていた主人は、何を考えているのだ。

 私は、鞭打って良いと知っていてなお、屋敷を買って隔離してまで非人道的な行いを隠れて行っているのだ。
 自分の奴隷なら強姦しても構わないのに、世間体を気にして隠れて買ったと言うのに、それだと言うのに、どこにでもいる極一般的な市民が、当たり前の様に奴隷に対して暴力を振るっている。

 世間体を考えれば、そんな野蛮な行いは、人前でするべきでは無い事は明らかに思える。
 それだと言うのに、暴力は町に蔓延っているのに、フィデーリスは恐ろしいほどに平和な空気に包まれているのだ。

 さっきまで奴隷を殴っていた主婦が、平然と朗らかな空気で井戸端会議に入り、奴隷を殴った手で愛する子供に料理を作り、子供を撫でた手で再び奴隷を殴る。



 自分達に矛先が向かない暴力の、振るう者と傍観する者達の容認関係が出来上がっている。
 それどころか、暴力を振るわれる者は奴隷なので、事実上、暴力を受ける側の容認さえ得られた状態となっていた。



 フィデ―リス市民は、変わってしまったのか。
 いや、私が内に歪んだ欲望を飼っていた様に、他の市民達もそれぞれに飼っていたのだろう。

 そして、多くのフィデ―リス市民は、内心では他種族の存在を心の底から受け入れておらず、今は亡きミセーリア王の手前、私の様に善い人を演じていただけに過ぎない事に、私は確信するに至った。

 何て事は無い。
 私が一番上手く演じていただけの話だ。

 何て事は無い。
 皆が善い人を演じていたから、皆が右に倣っていただけの事だったのだ。



 今のフィデーリスは、城壁に囲まれた町の中で、ヒエラルキーのピラミッドが細かく階層になっていた。

 最も上に位置するのは、ヴェンガン伯爵で間違いない。

 その下に、表向きはマルギアス王国貴族がいるが、同列に私の様なフィデーリス王国時代からの上級市民の成功者が位置する。
 その下に、一般的なフィデーリス上級市民がいて、ここまでがピラミッドの上の部分だ。

 フィデーリスへの一般移住者、商売や仕事で訪れた者や旅人がその下に位置し、一番下に奴隷、囚人、そして奴隷の囚人と下の部分が出来上がる。



 この、下半分の階層を、フィデーリス市民は完全に「それ以外」と認識し、同時に自分達フィデーリス市民は敗戦こそしたが、歴史あるフィデーリス王国民であり、他よりも優れた人々だと信じていた。

 だからこそ、城壁に囲まれたフィデーリス内では、フィデーリス市民は優遇され、自分達よりも劣るそれ以外の人々へなら何をしても許される様な空気が出来上がっていったのだろう。



 私にとっての屋敷が、フィデーリス市民にとっての城壁であった。
 私にとってのネムが、フィデーリス市民にとっては、それ以外の人々であった。



 私がネムを可愛がるのは、客観的に見れば、単に気が合ったから、そして利害が一致したからに過ぎない。
 私とて、ネムが仮に愚かな奴隷だと感じていたら、全く別の行動をとっていたかもしれない。

 私の性格からして暴力こそ振るわないだろうが、強姦し、食べ物も十分に与えず、虐待していたかもしれない。
 その結果死なせてしまっても、次の奴隷を買えばいい。

 実際にやるかはともかく、頭では、そう考えていた。



 今となっては、私自身、自分がそんな事をすれば罪悪感で押しつぶされる根性の無い弱い人間だと言う事は十分承知している。
 頭で思っていても、きっと死なせる事も出来ず、さっさと次の奴隷を買うだろう。

 くはは……我ながら最低だ。

 だが、嘘は無いし、嘘を言っても仕方が無い。



 * * *



 まるで何年も屋敷に籠っていて久しぶりに外の世界へ出た後の様な感覚を持ちながら、私はネムの待つ屋敷へと帰ってきた。
 もう少し万全に躾けようと思っていたが、状況が変わった。

「ネム、戻ったぞ」

「あるじ、おかえり!」

 ネムは裸のまま、どたどたと床を蹴って私の所へと駆け寄ってくる。
 私は笑顔のネムを抱きしめ、ネムを買ったのが自分で良かったと心の底から思った。

 ネムは私の顔にキスをし、尻尾を振って私の帰りを喜んでくれる。



「ネム、服を着なさい」

「あるじ、こうび、しない?」
 ネムは尻尾を左右に振りながら、交尾をしようと誘ってくる。
 態度としては「出来れば、すぐにセックスしたいな♡」と言った感じだ。

 私は、股間が反応するのを感じながらも、ぐっと我慢して答えた。
「今は、しない」

「あるじ、なに、する?」

「今から、外に出かけるんだ……外、出る」

「そと、でる?」

 もはや、気にしていた世間体は、世間の方が変わり問題無い。

 フィデーリスで上級市民が奴隷を持つのは、ペットを飼う以上に当たり前なのだ。

 もやは愛玩動物や家畜ではなく、家具に近い。
 私は、奴隷が解禁され一早く手に入れたと言うのに、フィデーリス内では奴隷を持つ事に対して最も遅れた存在となっていた。

「ネム、いえ、すき……」

 ネムは、不安そうな顔で私を見上げる。
 あからさまに屋敷の外に出たくないらしい。
 外の世界には、嫌な思い出しかないのだから、屋敷に閉じこもっていた方がネムとしては安心なのだろう。

「ネム、もっと良い所に行くんだ」

 ネムは私の言葉を聞くと、尻尾を股の下に巻き、不安そうに聞いてきた。
「あるじ、いっしょ?」

「一緒だ」

「……ね、ネム、すてる、ない?」
 どうやら、ネムは外の世界に出されたら、また檻に入れられて奴隷商人に売られるのでは無いかと不安がっているらしい。
 私は捨てると言う表現をするネムの言葉に、申し訳なくなった。

「捨てる訳が無い。ネムは、私だけの物だ」
 いくら積まれても、私がネムを手放す事は無いだろう。

「ほんと? すてる、ない? ネム、あるじ、だけ、もの?」

「本当だ」

「ほんと? ほんと?」

 私はネムの口にキスをする。
「……本当だ。だから、すぐに服を着てきなさい」

「きる、きる!」

 頬を赤らめ、ネムは寝室に走ると、畳んであった服を持って私の所に戻ってくる。

 ネムが私の目の前で持ってきた服を着ると、私は久しぶりに服を着たネムを見て、服のサイズが少し小さくなっている事に気付いた。
 ここに来た僅かな間にも、ネムの身長が少し伸びたようであった。
 痩せていた身体が丸みを帯び、形の悪かった尻も綺麗な桃の様になっていたし、洗濯板状の胸も僅かだが膨らんできていた。

「あるじ、そと、なに、する?」

「家に連れて行く」

「あるじ? いえ、ここ」

「ここも、家だが、もう一つのだ。ネムには、そこで私と一緒にいて貰う」

「?」

「ちゃんと教えるから、ついてきなさい」



 * * *



 私は、服を着たネムにマントとフードを着せ、屋敷から連れ出した。

 ネムは、初めて見る屋敷の外を、首をきょろきょろさせ興味深そうに観察する。
 ネムは奴隷市場から屋敷まで、私の指示で目隠しを着けられて運ばれて来たし、屋敷の扉も窓も全て固く閉じられていた為、扉の外は私が入ってくる瞬間、隙間からしか見た事が無かった。

 檻の中と、屋敷しか知らないネムは、初めて見るフィデーリスの街並みにカルチャーショックを受けていた。

 ネムの育ったオーガ族の暮らしは、フィデーリスに比べれば文化的に大きな差があった。
 山奥の洞窟や森で暮らす蛮族の集落に比べれば、堅牢な城壁に囲まれ、美しい城や闘技場が遠目にも見える広大な城塞都市は、まるで別世界である。

 見知らぬ土地に圧倒されるネムは、私にすがる様に、手を繋いでくる。
 その手を、私がしっかりと握り締めると、ネムは私を見て強がって笑ってみせ、私は安心させようと微笑んで見せた。



 屋敷の門の外には、今日は馬車が待っていた。
 私は、透明マントもマスクも、この日はつけて来なかった。

 御者や使用人には、友人の屋敷だと伝えて待たせている。
 私がネムを馬車に乗せても、使用人は何も詮索などしない。

「屋敷(本邸宅)に戻ってくれ」

「はい、旦那様」

 ぴしゃりと鞭の音が響くと、馬車がゆっくりと動き出す。
 ネムは静かに、窓から外を見ている。

「ネム、面白いか?」

「ひと、いっぱい」
 ネムは本宅に着くまでの間、ずっと外を眺め続けていた。



 ネムは、しばらくして巨大な豪邸の庭へと馬車が入って行くと、景色がガラリと変わった事に驚き、豪邸の前で馬車が止まると、私の顔を不安そうな顔で見つめて来た。

「着いたぞ」

「あるじ……ここ、いえ、ちがう……」

 その目は、私に嘘をつかれたような眼をしていた。
 ネムの目には、私の邸宅は大きすぎて家には見えないのだろう。

「ここが家だ。ほら、いいから降りなさい」

 ネムは、私に言われ渋々、恐る恐ると馬車を降りる。

「ムウ様、お帰りなさいませ」

 執事頭のカファスが私を出迎えてくれる。
 ネムは、自分を見るカファスを見て、私の手を握る力を強めた。

「ネムだ。今日から私の側女をさせる」



 私は、ネムにいくつかの指示を出した。

 これからは、いつも服を着て、私の傍に常に共にいる事。
 屋敷でさせていた様な、掃除、洗濯、食事の支度等の様な家事は、しなくてよい事。
 私以外には話しかけない事。
 私の言う事は、今まで通り聞く事。
 私を呼ぶ時は、ムウ様、主様、御主人様のどれかで呼ぶ事。

 ネムは、この時初めて私の名前が「あるじ」では無く「ムウ」である事に気付き、今までにない衝撃を受けていた。



 そんなネムも、最初こそ戸惑っていたが、家での自分の役割を理解し、すぐに順応してくれた。

 今までは屋敷の中で私を待ち、私の言う事をきいてきた。
 それがこれからは、私の傍で待ち、私の言う事をきくと言う風に変わっただけの事でしかない。

 私と同じく、かなり臆病な面があるネムは、実に的確に空気を読んでくれた。
 人前で、交尾だセックスだ何だと言われたらどうしようかと心配に思っていた部分もあったが、不用意な発言はしないし、人前で服を脱ぐ様な事も無い。
 ネムに常識は無いが、周囲に合わせる事で奇行を避けている様で、それがネムが生き延びて来た処世術なのだろう。



 こうして、私が側女奴隷を持った事は、瞬く間にフィデーリス中に噂が広がったが、予想通り私の評判が下がる様な事も無かった。
 ずっと古臭いファッションに身を包んでいた頑固者が、最新のファッションアイテムに手を出したところで、皆が感じるのは時代の変化ぐらいの物である。

 私がネムを常に傍に置く為の、奴隷の主人デビューは公けの場で上手くいったと言う訳だ。



 * * *



 一週間後。
 商会連合の話し合いの為、私はフィデーリス城にネムと共に来ていた。

 市場改革が議題であり、話し合いは順調に進んでいく。

 難しい話を私をはじめとした商会長や貴族達が話し合い決めて行く席で、ネムは私の後ろに立って黙って聞いている。

「では、次の議題へ移ります。奴隷の売買についてとなりますが……」

 奴隷達がいる前で、平然と奴隷の話が始まる。
 市場の整備、奴隷の管理方法、価格の取り決め、流入量の調整……

 健全な市場にする為に何が必要なのか、堅実な改善案が提示され、精査されるとすぐに草案に盛り込まれ、明日には市場に反映する様にとお触れを出せる状態にまで整って行く。
 最終決定者達が、自分達の為に、内輪の改善策を話し合う場である為、それぞれの利害に抵触さえしなければ、決定と実行の速度がとても速い。

 それと、私は責任から逃げる為と言え、ヴェンガン伯爵を代表に推薦して良かったと感じる事も出来た。
 ヴェンガン伯爵の基本的な考え方は、第一にフィデーリス市民の幸せや安定が据えられ、自分の利益と言う物へのこだわりは、その場にいる全員感じる事さえ出来なかった。

「……それでは、奴隷の流入量を増やし、価格は下げる案で、皆さん同意ですかな?」
「一度、それで決めてしまって問題無いでしょう」
「ええ、そうすれば、人々は多くの奴隷を持って、我々の様に事業に使う余裕も出て来る」
「その通りですな」



 私は長い会合が終わると、ネムを連れてすぐにフィデーリス城のトイレへと向かう。
 ネムと共にトイレに入り、個室の扉を閉じると、ネムのスカートをたくし上げた。

「声を出すな」

 ネムはコクコクと首を縦に振りながら、壁に手をついて私に期待の眼差しを送る。
 私はネムの蜜壺を溢れさせるように指を湿らせ、ズボンから蜜壺の蓋を取り出すと深々と蓋をする。

「っは♡」

 ネムが我慢出来ずにあげる声を手で抑え込むと、ネムは私の手をフェラでもする様に舐め、甘噛みしてくる。

 私がドチュドチュと音を立ててネムを犯していると、トイレの外に人の気配が近づいてきた。



「ははは……そうだ、お前ムウ殿の奴隷見たか?」
「ああ、奴隷を持っただけでも驚いたのに、それがオーガとはな。一番躾けが難しいオーガを……いくら金を出して躾けさせたんだろうな」
「まったくだ。噂だと、ムウ殿はあの奴隷を私兵にして傍に置くつもりだそうだ」
「私兵?」
「ああ、そうじゃなけりゃ、オーガなんて買うか普通?」
「それもそうだ」



 トイレの外の気配が消えると、私は止めていた腰を深く突き、そのままピストンを早めてネムの中に射精した。

 ネムを私兵にする為に買ったと思われているのかと、クールダウンした頭で私は考えた。
 ネムの話では、ネムはオーガ族の中では飛び抜けて弱い。
 しかし、それはオーガ族を基準とした話の上、当時のネムがまだ未熟だった事もある筈だ。

 ネムの身を守る為にも、戦闘技術を身に着けておいて損は無い筈である。

 私はネムがトイレに精子を膣からひり出して、歩いている最中に精子が垂れない様にと指で残りをかきだしているのを見ながら、まったく別の事を考えていた。



 * * *



 奴隷市場。
 周囲には目隠しがされ、私は一人そこに再び足を踏み入れる。
 今回は、マスクを着けず、ネムも連れていたが、ネムを見た奴隷商人は、それが自分が売ったオーガ族だとは、すぐには気付かなかった。

「ムウ様、いかがでしょうか」

「外してくれ。決まったら呼ぶ」

「かしこまりました」

 奴隷商人が下品な商売スマイルを浮かべて外に出て行く。
 私とネムの前には、檻の中に値札と番号札を付けられた全裸の奴隷が所狭しと陳列されていた。
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