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第8章
第8章:ストラディゴス四股事件7(別視点:回想)
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ダークエルフのハルコスは、家族が流行り病にかかって亡くなり、里を追い出された過去がある。
行く当てもなくさまよっている所を、フォルサ傭兵団に拾われたのが出会いである。
傭兵団では最初、弓の腕を活かす為に弓兵をしていたが、木の上から戦場を俯瞰して分析する能力を見出されて、後に戦術家としてストラディゴスと共に指揮をとっていた。
ストラディゴスがルイシーとフィリシスの二人と表向き付き合いながら、裏でフィリシスをハーレムに誘う為にアスミィとテレティとも同時に関係を持っている事を、友人として相談され、ハルコスは最初、呆れていた。
ハルコスとしては、女性団員達と乱交を繰り返すストラディゴスが、やっとルイシーとフィリシスのお陰で落ち着いたと思い、友人として安心していた所で、とんでもないカミングアウトをされた形となった。
呆れて当然である。
それでも、ハルコスはモラルよりも友情を取り、面白そうだと、コンフリクト(衝突)を起さない様に、ストラディゴスのセックスの回数や場所、時間におけるスケジュール管理を手伝い始め、さらには助言を与えていたと言うのだから、良い性格であった。
お互い恋をする対象として見ずに戦友として見ていた為、色々な愚痴や相談にもよく乗っていた。
フィリシスとの激辛セックスにどれほどの危険が伴うかや、激甘になった時の従順を通り越して痛みを求めるフィリシスの尻を、挿入しながら叩いたり、首を絞めたりまでさせられる事まで話していた。
そんな、性生活まで赤裸々に話せる異性の善き友人だと思っていた相手が、友人の一線を越える時は突然やって来た。
二人の場合は、ストラディゴスが表向きルイシーとフィリシスの二人と付き合い、隠れてアスミィとテレティの二人とも付き合っているのに慣れ、次に増やすハーレム候補の団員にも目星がつき始めた頃。
デートスケジュールをハルコスと共に組んでいた時に、ハルコスが「こうすれば、あと一人ぐらい」と、スケジュールに空きを作って「まだ私にも、チャンスってある?」と誘ってきたと言う。
スケジュールが空いているのだからと、ストラディゴスに断る理由は無い。
ハルコスとのセックスは、他の誰とも違い、また格別であった。
友人と一線を超える興奮もそうなのだが、それだけでは無かった。
簡単な魔法が使え、毒や薬の知識もあったハルコスは、ストラディゴスに初めて見る世界を提示してくれた。
それまで、酒以上の身体に変化をもたらす物をセックスに使った事の無かったストラディゴスにとって、倒錯的とも言えるハルコスとのセックスは、まさに別次元であった。
ストラディゴスは、身をもって薬の効能を教えられ、媚薬、劇薬、精力剤、幻覚魔法と何でもセックスを楽しむ助けになる事を教え込まれた。
* * *
この頃、ストラディゴスは、ハルコスの協力を得る事で、セックスのスケジュール圧縮を目論見始めた。
同じ時間に、効率よく、同時に楽しめないかと考えたのだ。
ハルコスは、危険が少なく余暇が多い物資の馬車での運搬や見張り、斥候と言った任務を利用しだす。
違和感の無いメンバー構成や任務の理由をつけては、様々な場所に出かけては逢瀬を重ね、アスミィ、テレティ、ハルコスの三人は、すぐに秘密を共有する仲間となった。
もっとハーレムを増やしてもいいが、増やし過ぎてもスケジュールが複雑になり、ボロが出るかもしれない。
もっと増やしたかったが、量より質を重視して、ストラディゴスは五人との関係を続けた。
次にストラディゴスが目論んだのは、いよいよフィリシスをも仲間に引き込む事だった。
フィリシスさえ引き込めれば、五人で合流出来、元々のハーレムの女達も自然と戻ってくる筈である。
ルイシーを使って恋人関係に持ち込めたのだから、同じように「慣らせて」いけば、フィリシスは落とせる筈だ。
そこで、三人をフィリシスにとっての第二のルイシーにするべく、ハルコスが任務を割り当てていく。
フィリシスと三人が親友になり、フィリシスが独占したい者になれば、そこを突破口に出来る筈と考えたのだ。
だから、ストラディゴスは元々ハーレムにいた者以外を尖兵に選び、フィリシスからのストラディゴスとの女と言う認識の警戒が薄い人選をしたのであった。
ところが、フィリシスの人見知りの激しさは中々のもので、ルイシーとストラディゴスと一緒にいる時は、色々な意味で活発なのに、他人が一緒にいると急に大人しく、内向的になってしまう。
不用意にストラディゴスに色目を使おうものなら、フィリシスは相手の女を、まるで敵を見る様な目で威嚇し始める始末。
せっかく無警戒な状態で根回ししたので、三人はストラディゴスとはそう言う関係である事を隠して、あくまでもフィリシスの友人として近づかなければならない。
どうにかせねばとストラディゴスは、三人をフィリシスとなるべく長く共にいられるように、裏に手をまわし始め、その甲斐もあってか、フィリシスは徐々に明るくなっていった。
三人は、フィリシスの警戒網の中に入る事を許される様になり、三人はフィリシスにとって初めて出来た心を許せる友人にまでなっていったのであった。
* * *
そして、運命の日。
三人の友人を探していたフィリシスは、三人がストラディゴスと共にどこかに行く事を偶然目撃してしまった。
ついて行くと、テントの中から楽しそうな声が聞こえてくる。
光に誘われる様に入って行くと、そこではアスミィとテレティとハルコス、裸の三人と一緒にいる一糸纏わぬ姿のストラディゴスがいた。
「っな、何やってんだお前ら!?」
フィリシスは、友人の裏切りに怒りよりも前に、最初は茫然とした。
そんなフィリシスを見て三人は、最初ストラディゴスをかばってくれた。
「フィ、フィリシスちゃん!? え、え~と、ほ、ほら、ディーが、元々女好きなのは、分かっていたにゃ?」
「フィリシス、これには訳が! え、あ、えっと、とにかく説明させて!」
「フィリシス違うの、これは私から誘って、ディーは別に、ちゃんと後でフィリシスの事も誘おうと思ってて」
「そうそう」
「うんうん」
三人は、必死に言い訳をした。
そのうち、フィリシスの握り締めた手が震え始め、フィリシスの身体から殺意が溢れ出た事に、裸の四人は気付く。
「最期に言い残す事は、それだけか?」
このままでは、全員がフィリシスに八つ裂きにされてしまう。
命の危険を感じたストラディゴスは、どうにか場を治めなければと考えを巡らせた。
今までも痴話喧嘩ぐらいはした事があったかが、こんなレベルの修羅場は未経験であった。
何と言えば、浮気が許されるのか、想像も出来ない。
フィリシスにハーレムを認めさせようとしていたなんて事を正直に言って、許して貰える訳がない。
そこでストラディゴスは、自身にとって最悪の選択をした。
「フィリシス! お前が本命だ!」
それは、ルイシーの事を最初に愛し、今も最も愛していたフィリシスには、逆効果だった。
ルイシーでは無く自分を本命と言い放った、ストラディゴスの浅はかさ。
完全に、怒れる竜の逆鱗に触れてしまったのだ。
同時に、さっきまで庇っていた三人にも「私たちは本命じゃないのか!」と言う話になり、修羅場は地獄とかす。
全員を本気で愛している事が前提のハーレムだったのに、ストラディゴスが自らの手で終わりを迎えさせた瞬間でもあった。
ストラディゴスは、結果的に四人の敵になる事で、三人の命を救った事になったのだが、その事を褒めてくれる相手などいる筈もない。
「な、なあ、話せばわかる……」
そんな訳がない。
「覚悟しな」
ストラディゴスは、この件で全治三ヵ月の大怪我を負い、ルイシー以外に看病をしてくれる女性は誰もいなかった。
この件は、ルイシーからも酷く叱られ、この時ばかりは反省せざるを得なかった。
* * *
ストラディゴスがフィリシスと付き合っていたのに、他に三人とも付き合って、彼女達を怒らせた四股事件は、ハーレムが容認されている傭兵団の中であっても、ストラディゴスの評判を失墜させるには十分であった。
どんなに女好きでスケベであろうとも、ストラディゴスを愛せば幸せになれると言うルイシーの作った不文律が揺らぐ事で、ハーレムに対して不信感を持った女達の何割かは、ある意味で目を覚まし、ストラディゴスから離れて行ってしまった。
ストラディゴスの評判を落とした原因は、浮気をした事以上に、女達皆に嘘をついた点だろう。
ところが、フィリシスを始めとした当事者の四人の中では、また少し違う捉え方をされていた。
アスミィは、ストラディゴスが自分達をフィリシスから守る為に、悪者になってくれたのだと考え、避けつつも慕い続けていた。
テレティは、もともと自分はストラディゴスにとっての大勢の中の一人だと思っていたので、ストラディゴスから離れて行ったのは、友人となっていたフィリシスを気遣っての事であった。
ハルコスは、ストラディゴスがバカな事も、裏で何を画策していたのかも知っているので、気にもしていなかった。
だが、だからと言って評判を落とし切ったストラディゴスと関係を続けるには、環境が悪すぎ、他の二人と同様に距離を取っていた。
フィリシスはと言うと、浮気を知って怒り狂いこそしたが、ストラディゴスを殺す事を思いとどまった一番の理由は、やはりルイシーを悲しませたく無かった為である。
それに、怒り以上に大きかったのは、ストラディゴスに裏切られ、自分が思い違いをしていた悔しさが大きかった。
自分と同じ様に自分の事を愛してくれていると思っていたのが、両想いである様でいて、ずっと双方向の片思いでしか無かったのだ。
最初は、一途さを教えようとしていた筈。
だが、自分が体現しようとした一途さは、想いの押し付けに過ぎなかった。
しかも、気が付けば自分までストラディゴスと関係を持ってしまったと言うルイシーへの負い目まである。
ルイシーの為にやっていたのに、いつの間にか自分の為になっていたのだ。
フィリシスは、ルイシーとストラディゴスの関係や、そもそも傭兵団には、自分が邪魔だと感じる様になり、ルイシーに相談し、やがて傭兵団から抜けて行った。
ただ抜けたのではない。
傭兵団の居心地が悪くて抜けたのでも無い。
ルイシーとは、文通を続けていたし、僅かな団員との交流は、ストラディゴスが知らないだけで続いていた。
フィリシスが抜けたのは、ストラディゴスが望む存在になる為であった。
ストラディゴスが浮気をしたのは、フィリシスにハーレムを認めさせる為と言う事は、三人の口から聞いていた。
だが、フィリシスは、どうしてもハーレムを認める事が出来なかった。
だから、自分を変える為に、フィリシスは旅に出たのである。
自分がハーレムを認めるに足る、考えや思想を見つけるか、ストラディゴスがハーレムを必要としない、魅力的な女へと成長する為に。
フィリシスが抜け、傭兵団は騎士団へとなる道を進み始めた頃、残っていた三人もそれぞれの理由で傭兵団を抜けて行った。
三人ともルイシーとは連絡こそ取りあっていたが、ストラディゴスとは喧嘩別れに近い状態のままとなっていた。
単純に、仲直りをするタイミングが無かった事もある。
それよりも問題があったのは、ストラディゴスである。
どんな理由であろうとも、皆を傷つけた巨人から謝るのが筋であった。
なのに、ストラディゴスが臆して謝りに行けなかったのが、最も悪かった。
こうして、ストラディゴス、フィリシス、アスミィ、テレティ、ハルコス、四股事件の当事者五人は、モヤモヤした関係を清算しないまま、数年を過ごす事となる。
ルイシーが、四人に依頼の手紙を出すまでの間……
行く当てもなくさまよっている所を、フォルサ傭兵団に拾われたのが出会いである。
傭兵団では最初、弓の腕を活かす為に弓兵をしていたが、木の上から戦場を俯瞰して分析する能力を見出されて、後に戦術家としてストラディゴスと共に指揮をとっていた。
ストラディゴスがルイシーとフィリシスの二人と表向き付き合いながら、裏でフィリシスをハーレムに誘う為にアスミィとテレティとも同時に関係を持っている事を、友人として相談され、ハルコスは最初、呆れていた。
ハルコスとしては、女性団員達と乱交を繰り返すストラディゴスが、やっとルイシーとフィリシスのお陰で落ち着いたと思い、友人として安心していた所で、とんでもないカミングアウトをされた形となった。
呆れて当然である。
それでも、ハルコスはモラルよりも友情を取り、面白そうだと、コンフリクト(衝突)を起さない様に、ストラディゴスのセックスの回数や場所、時間におけるスケジュール管理を手伝い始め、さらには助言を与えていたと言うのだから、良い性格であった。
お互い恋をする対象として見ずに戦友として見ていた為、色々な愚痴や相談にもよく乗っていた。
フィリシスとの激辛セックスにどれほどの危険が伴うかや、激甘になった時の従順を通り越して痛みを求めるフィリシスの尻を、挿入しながら叩いたり、首を絞めたりまでさせられる事まで話していた。
そんな、性生活まで赤裸々に話せる異性の善き友人だと思っていた相手が、友人の一線を越える時は突然やって来た。
二人の場合は、ストラディゴスが表向きルイシーとフィリシスの二人と付き合い、隠れてアスミィとテレティの二人とも付き合っているのに慣れ、次に増やすハーレム候補の団員にも目星がつき始めた頃。
デートスケジュールをハルコスと共に組んでいた時に、ハルコスが「こうすれば、あと一人ぐらい」と、スケジュールに空きを作って「まだ私にも、チャンスってある?」と誘ってきたと言う。
スケジュールが空いているのだからと、ストラディゴスに断る理由は無い。
ハルコスとのセックスは、他の誰とも違い、また格別であった。
友人と一線を超える興奮もそうなのだが、それだけでは無かった。
簡単な魔法が使え、毒や薬の知識もあったハルコスは、ストラディゴスに初めて見る世界を提示してくれた。
それまで、酒以上の身体に変化をもたらす物をセックスに使った事の無かったストラディゴスにとって、倒錯的とも言えるハルコスとのセックスは、まさに別次元であった。
ストラディゴスは、身をもって薬の効能を教えられ、媚薬、劇薬、精力剤、幻覚魔法と何でもセックスを楽しむ助けになる事を教え込まれた。
* * *
この頃、ストラディゴスは、ハルコスの協力を得る事で、セックスのスケジュール圧縮を目論見始めた。
同じ時間に、効率よく、同時に楽しめないかと考えたのだ。
ハルコスは、危険が少なく余暇が多い物資の馬車での運搬や見張り、斥候と言った任務を利用しだす。
違和感の無いメンバー構成や任務の理由をつけては、様々な場所に出かけては逢瀬を重ね、アスミィ、テレティ、ハルコスの三人は、すぐに秘密を共有する仲間となった。
もっとハーレムを増やしてもいいが、増やし過ぎてもスケジュールが複雑になり、ボロが出るかもしれない。
もっと増やしたかったが、量より質を重視して、ストラディゴスは五人との関係を続けた。
次にストラディゴスが目論んだのは、いよいよフィリシスをも仲間に引き込む事だった。
フィリシスさえ引き込めれば、五人で合流出来、元々のハーレムの女達も自然と戻ってくる筈である。
ルイシーを使って恋人関係に持ち込めたのだから、同じように「慣らせて」いけば、フィリシスは落とせる筈だ。
そこで、三人をフィリシスにとっての第二のルイシーにするべく、ハルコスが任務を割り当てていく。
フィリシスと三人が親友になり、フィリシスが独占したい者になれば、そこを突破口に出来る筈と考えたのだ。
だから、ストラディゴスは元々ハーレムにいた者以外を尖兵に選び、フィリシスからのストラディゴスとの女と言う認識の警戒が薄い人選をしたのであった。
ところが、フィリシスの人見知りの激しさは中々のもので、ルイシーとストラディゴスと一緒にいる時は、色々な意味で活発なのに、他人が一緒にいると急に大人しく、内向的になってしまう。
不用意にストラディゴスに色目を使おうものなら、フィリシスは相手の女を、まるで敵を見る様な目で威嚇し始める始末。
せっかく無警戒な状態で根回ししたので、三人はストラディゴスとはそう言う関係である事を隠して、あくまでもフィリシスの友人として近づかなければならない。
どうにかせねばとストラディゴスは、三人をフィリシスとなるべく長く共にいられるように、裏に手をまわし始め、その甲斐もあってか、フィリシスは徐々に明るくなっていった。
三人は、フィリシスの警戒網の中に入る事を許される様になり、三人はフィリシスにとって初めて出来た心を許せる友人にまでなっていったのであった。
* * *
そして、運命の日。
三人の友人を探していたフィリシスは、三人がストラディゴスと共にどこかに行く事を偶然目撃してしまった。
ついて行くと、テントの中から楽しそうな声が聞こえてくる。
光に誘われる様に入って行くと、そこではアスミィとテレティとハルコス、裸の三人と一緒にいる一糸纏わぬ姿のストラディゴスがいた。
「っな、何やってんだお前ら!?」
フィリシスは、友人の裏切りに怒りよりも前に、最初は茫然とした。
そんなフィリシスを見て三人は、最初ストラディゴスをかばってくれた。
「フィ、フィリシスちゃん!? え、え~と、ほ、ほら、ディーが、元々女好きなのは、分かっていたにゃ?」
「フィリシス、これには訳が! え、あ、えっと、とにかく説明させて!」
「フィリシス違うの、これは私から誘って、ディーは別に、ちゃんと後でフィリシスの事も誘おうと思ってて」
「そうそう」
「うんうん」
三人は、必死に言い訳をした。
そのうち、フィリシスの握り締めた手が震え始め、フィリシスの身体から殺意が溢れ出た事に、裸の四人は気付く。
「最期に言い残す事は、それだけか?」
このままでは、全員がフィリシスに八つ裂きにされてしまう。
命の危険を感じたストラディゴスは、どうにか場を治めなければと考えを巡らせた。
今までも痴話喧嘩ぐらいはした事があったかが、こんなレベルの修羅場は未経験であった。
何と言えば、浮気が許されるのか、想像も出来ない。
フィリシスにハーレムを認めさせようとしていたなんて事を正直に言って、許して貰える訳がない。
そこでストラディゴスは、自身にとって最悪の選択をした。
「フィリシス! お前が本命だ!」
それは、ルイシーの事を最初に愛し、今も最も愛していたフィリシスには、逆効果だった。
ルイシーでは無く自分を本命と言い放った、ストラディゴスの浅はかさ。
完全に、怒れる竜の逆鱗に触れてしまったのだ。
同時に、さっきまで庇っていた三人にも「私たちは本命じゃないのか!」と言う話になり、修羅場は地獄とかす。
全員を本気で愛している事が前提のハーレムだったのに、ストラディゴスが自らの手で終わりを迎えさせた瞬間でもあった。
ストラディゴスは、結果的に四人の敵になる事で、三人の命を救った事になったのだが、その事を褒めてくれる相手などいる筈もない。
「な、なあ、話せばわかる……」
そんな訳がない。
「覚悟しな」
ストラディゴスは、この件で全治三ヵ月の大怪我を負い、ルイシー以外に看病をしてくれる女性は誰もいなかった。
この件は、ルイシーからも酷く叱られ、この時ばかりは反省せざるを得なかった。
* * *
ストラディゴスがフィリシスと付き合っていたのに、他に三人とも付き合って、彼女達を怒らせた四股事件は、ハーレムが容認されている傭兵団の中であっても、ストラディゴスの評判を失墜させるには十分であった。
どんなに女好きでスケベであろうとも、ストラディゴスを愛せば幸せになれると言うルイシーの作った不文律が揺らぐ事で、ハーレムに対して不信感を持った女達の何割かは、ある意味で目を覚まし、ストラディゴスから離れて行ってしまった。
ストラディゴスの評判を落とした原因は、浮気をした事以上に、女達皆に嘘をついた点だろう。
ところが、フィリシスを始めとした当事者の四人の中では、また少し違う捉え方をされていた。
アスミィは、ストラディゴスが自分達をフィリシスから守る為に、悪者になってくれたのだと考え、避けつつも慕い続けていた。
テレティは、もともと自分はストラディゴスにとっての大勢の中の一人だと思っていたので、ストラディゴスから離れて行ったのは、友人となっていたフィリシスを気遣っての事であった。
ハルコスは、ストラディゴスがバカな事も、裏で何を画策していたのかも知っているので、気にもしていなかった。
だが、だからと言って評判を落とし切ったストラディゴスと関係を続けるには、環境が悪すぎ、他の二人と同様に距離を取っていた。
フィリシスはと言うと、浮気を知って怒り狂いこそしたが、ストラディゴスを殺す事を思いとどまった一番の理由は、やはりルイシーを悲しませたく無かった為である。
それに、怒り以上に大きかったのは、ストラディゴスに裏切られ、自分が思い違いをしていた悔しさが大きかった。
自分と同じ様に自分の事を愛してくれていると思っていたのが、両想いである様でいて、ずっと双方向の片思いでしか無かったのだ。
最初は、一途さを教えようとしていた筈。
だが、自分が体現しようとした一途さは、想いの押し付けに過ぎなかった。
しかも、気が付けば自分までストラディゴスと関係を持ってしまったと言うルイシーへの負い目まである。
ルイシーの為にやっていたのに、いつの間にか自分の為になっていたのだ。
フィリシスは、ルイシーとストラディゴスの関係や、そもそも傭兵団には、自分が邪魔だと感じる様になり、ルイシーに相談し、やがて傭兵団から抜けて行った。
ただ抜けたのではない。
傭兵団の居心地が悪くて抜けたのでも無い。
ルイシーとは、文通を続けていたし、僅かな団員との交流は、ストラディゴスが知らないだけで続いていた。
フィリシスが抜けたのは、ストラディゴスが望む存在になる為であった。
ストラディゴスが浮気をしたのは、フィリシスにハーレムを認めさせる為と言う事は、三人の口から聞いていた。
だが、フィリシスは、どうしてもハーレムを認める事が出来なかった。
だから、自分を変える為に、フィリシスは旅に出たのである。
自分がハーレムを認めるに足る、考えや思想を見つけるか、ストラディゴスがハーレムを必要としない、魅力的な女へと成長する為に。
フィリシスが抜け、傭兵団は騎士団へとなる道を進み始めた頃、残っていた三人もそれぞれの理由で傭兵団を抜けて行った。
三人ともルイシーとは連絡こそ取りあっていたが、ストラディゴスとは喧嘩別れに近い状態のままとなっていた。
単純に、仲直りをするタイミングが無かった事もある。
それよりも問題があったのは、ストラディゴスである。
どんな理由であろうとも、皆を傷つけた巨人から謝るのが筋であった。
なのに、ストラディゴスが臆して謝りに行けなかったのが、最も悪かった。
こうして、ストラディゴス、フィリシス、アスミィ、テレティ、ハルコス、四股事件の当事者五人は、モヤモヤした関係を清算しないまま、数年を過ごす事となる。
ルイシーが、四人に依頼の手紙を出すまでの間……
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