江ノ島の小さな人形師

sohko3

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天女と龍

女夫まんじゅう

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 その日、羽香奈は珍しく葉織と連れだってではなくひとりで出かけていった。

 芭苗の部活動の応援をするためだ。

 小学生の頃は地域のバスケットチームに入っていた芭苗は、中学校ではバスケット部に入部して頑張っていた。


 葉織もたまに応援に行くのだが、今日は半蔵が出かけたいというので誰かが家に残って、ハツがひとりで家から出てしまわないよう見ていなければならない。

 応援は羽香奈に任せて、葉織は家に残ることにした。


 ハツは居間でソファーにゆったり腰を下ろして、サスペンスドラマの再放送を見ていた。

 出かけられないしドラマに興味もない葉織は暇を持て余して、テーブルに肘をつきつつ気怠く木材を彫っていた。

 せっかく目の前にいるのだから、ハツをモデルにして。

 葉織が不思議な力で作った人形は、元になった人が亡くなれば崩れてなくなってしまう。

 ハツとの別れがもう数年以内に迫っているであろうことは、葉織も予感せずにはいられなかった。

 一見元気にしているようだけど、「まだ大丈夫だろう」と見過ごし続けて、いざその時を迎えて後悔するのは嫌だった。

 波雪の時と違ってあらかじめ準備が出来るのだから、あの時感じたのと同じ喪失感を繰り返したくない。


「はーっち~、いる~?」

 日中は玄関に鍵をかけていないので唐突な来客はよくあることだが、この日の来客は想像もしていなかった相手だったので葉織は少し驚いた。

 手土産に仲見世通りの有名な女夫めおとまんじゅうの箱詰めを携えて、未知夫が立っている。

「あらあら、懐かしいねぇ。
えーと、誰だったかねぇ葉織?」

「小さい頃に何回か来た、友達のみー君だよ」

 小さい頃は、といっても、潮崎家に葉織の友達が来たのは本当に数えるほどしかない。

 江ノ島の外で暮らしている未知夫達にとって、島内の奥の方にある葉織の家は遠く感じるし、遊ぶなら海辺だったりへ葉織の方から出向く場面が多かった。

「おばあちゃん、こんにちはー」

 ハツの物忘れについてはいつだったか世間話として伝えてあったので、未知夫は落ち着いて対応する。

「お土産まで持ってきてくれるなんて、しっかりした子だねぇ。
お茶を淹れてきてあげるから待っておいで」

「えっ、いいですよぉ。
後でおじいちゃん達と召し上がってください」

「遠慮しなくていいんだよぉ」

 ハツはおぼつかない足取りで土間から廊下へ上がり、台所へ向かった。
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