江ノ島の小さな人形師

sohko3

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自由研究

同情と日常

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 予定していた散策をせず羽香奈の元へ戻ったため、風景の下描きはまだ終わっていなかった。

 出来上がった人形を見せてその元である男性とのことを話すと、羽香奈はいたく喜んだ。

「葉織くんの作った人形が好きっていうのがもちろん第一なんだけどね。

葉織くんの人形にはひとつひとつにお話があるから、それを聞いたり想像したりするのが楽しいんだ」

 小学生の葉織の小さな手に乗るようなサイズの人形だから、出来上がったものはとても小さい。

 その人形の米粒ほどのサイズの手にパチンコ玉のようなものが山盛りになっているのだ。

 実際に彫ったら多大な手間がかかるだろう。

 すごいねぇ、と言いながら羽香奈も指先でそのパチンコ玉の山を撫でる。

 そのしぐさが、表情が心から楽しそうだから、葉織も不思議な気持ちになる。

 今まで人知れず、家族にしか打ち明けず孤独に続けてきた活動だったから。

 もちろん、羽香奈だってこれからは家族のひとりではあるのだけど。

 同い年の少女が自分の活動を知った上で、応援したり喜んだり楽しんだりしてくれるというのは、奇妙な感覚だった。

 ……今年の春先、まったく真逆の反応で学校での居場所をなくした葉織だからこそ、深く感じ入ってしまう。

 いくら純然たる善意のつもりで行ってきたとはいえ、相手の許可もなく、他者の心を覗き見ているのは間違っているのではないか。

 そんな風に迷い始めていたのだが、羽香奈の存在は全身で自分を肯定してくれる。

 もちろん、危ないことはして欲しくないという前提があるとはいえ。


「パチンコのお兄さん、葉織くんとも普通に話してくれたんだし、私もお話ししてみたかったな。
でもパチンコって怖い顔したおじさんがするものだと思ってた。
若いお兄さんでもするんだね」

 羽香奈はかなりの世間知らずだが、それにしたってその思い込みは少々偏見が強い。

「お母さんが言ってたんだけど、会社に入ってくる若い新人さんが職場のおじさんに誘われてパチンコ行って、本人も夢中になっちゃうってよくあるんだって」

「そうなんだ。
お母さんがお勤め先のこと話してくれるって、いいね」

 羽香奈は自分の育ての両親がどんな仕事をしていたのかすら知らずに生きてきた。

 絶縁した今となっては無駄な情報を持っていなくて良かったとすら思ってそう吐露したのだが、それを聞かされる葉織にとってはやはり異質すぎる世界の話で、胸を痛める。

 しかし、羽香奈が自分に求めているのは「同情」ではなく、「日常」だ。

 葉織はそれを知っているから、羽香奈が過去の痛みを無意識に垣間見せても、必要以上にそこに触れないようにしていた。
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