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自由研究
母の心配
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羽香奈は葉織の行動自体を抑制する気はないものの、やはり怪我をしてもおかしくないようなトラブルに見舞われることもいとわない姿勢自体は大いに心配している。
ほんの数日前に出会ったばかりの自分がそうなのだから、生まれた時から彼を慈しみ、育んできた波雪達の心情はその比ではなかっただろうと思うのだ。
「最初にそういうことがあった時に、オレがどうしたいのかちゃんと話し合ったよ」
波雪は、葉織が人の為とはいえ危険に巻き込まれるのも怪我をするのも嫌だと言った。
そうだとしても、やはりその数か月前の出来事は重くのしかかる。
日頃、葉織と親しく接してくれる近所のお兄ちゃん。
その友達が投身自殺しかかったところを助けたのは、葉織が勇気を出して行動した結果だ。
葉織にその意思があるのがわかった上で、救われる命があるかもしれないのにその行動を止めることは、「見殺しにしなさい」と命じるのと同義でもある。
「でもね。
ほんっっ……とうに、無理だけはしないでよ?
結果的に傷ついてしまうことがあるとしても、誰かを助けるためなら自分が傷ついてもいいなんて考えないで。
葉織の体はあなた自身にとっても、お母さんにとっても、だいっっ……じなものなんだからね」
「って、約束した……」
「葉織くん……その約束って守れてる自信、ある?」
「う~ん……忘れてるわけじゃないんだけど、実際目の当たりにすると気にしてる余裕がなくって」
「ほらぁ~。そこだけはちゃんとしてくれないと!」
羽香奈は珍しく、頬を膨らませて不満を表す。
彼女は従順だが葉織に対して完全なイエスマンというわけでもない。
彼の身の安全が第一と考えるからこそ、苦言を呈するのだ。
「そういえば、話してて思い出したんだけど。
今年の自由研究はどうしようかなぁ」
露骨な矛先逸らしではあるが、羽香奈とて葉織が件の問題にすぐ対応策を思いつくわけではないとわかっている。
そんな簡単に片付くなら四年間も無駄な加害を甘んじて受けてきたことにもなってしまう。
「こんなことしてみたいな、っていうアイデアは特にないの?」
「毎年、お母さんに相談しながら考えてたからさ……」
母親のアイデアに頼りっきりだった、という意味ではない。
今年は何をしようか、と相談して、あんなのはどうだろう、こんなことをしてみよう。
なんて話し合う時間も、夏休みの恒例であり、定番の思い出の風景だった。
わが家に迎え入れた羽香奈が安心して暮らせるように、努めて冷静に振る舞おうとしてきた葉織ではあるが。
母を亡くしてまだひと月ほどしか経っていない、まだまだ辛い時期である。
この時ばかりは羽香奈の目前でも明らかに、気落ちした顔を隠せなかった。
ほんの数日前に出会ったばかりの自分がそうなのだから、生まれた時から彼を慈しみ、育んできた波雪達の心情はその比ではなかっただろうと思うのだ。
「最初にそういうことがあった時に、オレがどうしたいのかちゃんと話し合ったよ」
波雪は、葉織が人の為とはいえ危険に巻き込まれるのも怪我をするのも嫌だと言った。
そうだとしても、やはりその数か月前の出来事は重くのしかかる。
日頃、葉織と親しく接してくれる近所のお兄ちゃん。
その友達が投身自殺しかかったところを助けたのは、葉織が勇気を出して行動した結果だ。
葉織にその意思があるのがわかった上で、救われる命があるかもしれないのにその行動を止めることは、「見殺しにしなさい」と命じるのと同義でもある。
「でもね。
ほんっっ……とうに、無理だけはしないでよ?
結果的に傷ついてしまうことがあるとしても、誰かを助けるためなら自分が傷ついてもいいなんて考えないで。
葉織の体はあなた自身にとっても、お母さんにとっても、だいっっ……じなものなんだからね」
「って、約束した……」
「葉織くん……その約束って守れてる自信、ある?」
「う~ん……忘れてるわけじゃないんだけど、実際目の当たりにすると気にしてる余裕がなくって」
「ほらぁ~。そこだけはちゃんとしてくれないと!」
羽香奈は珍しく、頬を膨らませて不満を表す。
彼女は従順だが葉織に対して完全なイエスマンというわけでもない。
彼の身の安全が第一と考えるからこそ、苦言を呈するのだ。
「そういえば、話してて思い出したんだけど。
今年の自由研究はどうしようかなぁ」
露骨な矛先逸らしではあるが、羽香奈とて葉織が件の問題にすぐ対応策を思いつくわけではないとわかっている。
そんな簡単に片付くなら四年間も無駄な加害を甘んじて受けてきたことにもなってしまう。
「こんなことしてみたいな、っていうアイデアは特にないの?」
「毎年、お母さんに相談しながら考えてたからさ……」
母親のアイデアに頼りっきりだった、という意味ではない。
今年は何をしようか、と相談して、あんなのはどうだろう、こんなことをしてみよう。
なんて話し合う時間も、夏休みの恒例であり、定番の思い出の風景だった。
わが家に迎え入れた羽香奈が安心して暮らせるように、努めて冷静に振る舞おうとしてきた葉織ではあるが。
母を亡くしてまだひと月ほどしか経っていない、まだまだ辛い時期である。
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