37 / 98
江ノ島の夏休み
土産店の人形
しおりを挟む
数日後。
羽香奈もすっかり江ノ島の暮らしに慣れただろうからと、葉織は羽香奈を連れて島内の知り合いのお店に挨拶回りをすることにした。
彼らはかつて土産店をしていた半蔵達の古くからの知り合いだ。
本来であれば半蔵も同行したいところだが、稀に徘徊してしまうハツを誰も見ないわけにはいかず。
葉織も来年は中学生になるような年頃なのだから挨拶回りくらい任せられるだろう。
というのが半蔵の判断だった。
一日のうちに何軒もの、江ノ島島内の店内を見たことで、羽香奈には気付きがあった。
「江ノ島のお土産屋さんって、木彫りの人形売ってるお店いっぱいあるんだね」
羽香奈も平凡な小学生だったら、入口近くにぶら下がる子供向けの土産物キーホルダーだの、美味しそうなお菓子だのに意識が向いただろう。
葉織と暮らしているからこそ気になったのだ。
多くの店が店内にショーケースを置き、中には手のひらサイズの木彫りの仏像が少なくない数、展示されている。
数千円から数万円の値札がついているので羽香奈のような子供にはとても手が出ない。
「江ノ島って入口から終わりまで全部が江ノ島神社みたいなものだし、その中にあるお店だからこういうのも扱うんじゃないかな。
じいちゃん達の店には置いてなかったけど」
江ノ島のある藤沢市のお隣は鎌倉市……
いや、お隣どころか、羽香奈と葉織が初めて会った鎌倉高校前駅も、その目の前の海岸も鎌倉市だ。
「鎌倉は寺社が多いし、そのついでに江ノ島に来る人達はこういうのに興味あるかもしれないよね」
「葉織くんって、自分で木彫りしてみたいって気持ちはあるの……?」
なんとなく、なさそうだなぁとは思う。
普段の葉織の印象から。
それでも気になって訊いてみた。
「自分でやってみたいっていうのはあんまり……。
でも、お母さんの人形は自分の力で作ってなかったから、ああやって急になくなっちゃったんだ」
自力で作っていないものは、いつ、不意に失ってしまっても文句は言えない。
潮崎家には写真すらほとんど残っていないのだから、写真から波雪の人形を作り直すにしても参考になるものが少なすぎる。
「だから……お母さんがいる時に自分でも作っておかなかったのは、
今はちょっとだけ後悔してる」
羽香奈もすっかり江ノ島の暮らしに慣れただろうからと、葉織は羽香奈を連れて島内の知り合いのお店に挨拶回りをすることにした。
彼らはかつて土産店をしていた半蔵達の古くからの知り合いだ。
本来であれば半蔵も同行したいところだが、稀に徘徊してしまうハツを誰も見ないわけにはいかず。
葉織も来年は中学生になるような年頃なのだから挨拶回りくらい任せられるだろう。
というのが半蔵の判断だった。
一日のうちに何軒もの、江ノ島島内の店内を見たことで、羽香奈には気付きがあった。
「江ノ島のお土産屋さんって、木彫りの人形売ってるお店いっぱいあるんだね」
羽香奈も平凡な小学生だったら、入口近くにぶら下がる子供向けの土産物キーホルダーだの、美味しそうなお菓子だのに意識が向いただろう。
葉織と暮らしているからこそ気になったのだ。
多くの店が店内にショーケースを置き、中には手のひらサイズの木彫りの仏像が少なくない数、展示されている。
数千円から数万円の値札がついているので羽香奈のような子供にはとても手が出ない。
「江ノ島って入口から終わりまで全部が江ノ島神社みたいなものだし、その中にあるお店だからこういうのも扱うんじゃないかな。
じいちゃん達の店には置いてなかったけど」
江ノ島のある藤沢市のお隣は鎌倉市……
いや、お隣どころか、羽香奈と葉織が初めて会った鎌倉高校前駅も、その目の前の海岸も鎌倉市だ。
「鎌倉は寺社が多いし、そのついでに江ノ島に来る人達はこういうのに興味あるかもしれないよね」
「葉織くんって、自分で木彫りしてみたいって気持ちはあるの……?」
なんとなく、なさそうだなぁとは思う。
普段の葉織の印象から。
それでも気になって訊いてみた。
「自分でやってみたいっていうのはあんまり……。
でも、お母さんの人形は自分の力で作ってなかったから、ああやって急になくなっちゃったんだ」
自力で作っていないものは、いつ、不意に失ってしまっても文句は言えない。
潮崎家には写真すらほとんど残っていないのだから、写真から波雪の人形を作り直すにしても参考になるものが少なすぎる。
「だから……お母さんがいる時に自分でも作っておかなかったのは、
今はちょっとだけ後悔してる」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる