江ノ島の小さな人形師

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江ノ島の夏休み

土産店の人形

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 数日後。

 羽香奈もすっかり江ノ島の暮らしに慣れただろうからと、葉織は羽香奈を連れて島内の知り合いのお店に挨拶回りをすることにした。

 彼らはかつて土産店をしていた半蔵達の古くからの知り合いだ。

 本来であれば半蔵も同行したいところだが、稀に徘徊してしまうハツを誰も見ないわけにはいかず。

 葉織も来年は中学生になるような年頃なのだから挨拶回りくらい任せられるだろう。

 というのが半蔵の判断だった。


 一日のうちに何軒もの、江ノ島島内の店内を見たことで、羽香奈には気付きがあった。

「江ノ島のお土産屋さんって、木彫りの人形売ってるお店いっぱいあるんだね」

 羽香奈も平凡な小学生だったら、入口近くにぶら下がる子供向けの土産物キーホルダーだの、美味しそうなお菓子だのに意識が向いただろう。

 葉織と暮らしているからこそ気になったのだ。

 多くの店が店内にショーケースを置き、中には手のひらサイズの木彫りの仏像が少なくない数、展示されている。

 数千円から数万円の値札がついているので羽香奈のような子供にはとても手が出ない。

「江ノ島って入口から終わりまで全部が江ノ島神社みたいなものだし、その中にあるお店だからこういうのも扱うんじゃないかな。

じいちゃん達の店には置いてなかったけど」

 江ノ島のある藤沢市のお隣は鎌倉市……

いや、お隣どころか、羽香奈と葉織が初めて会った鎌倉高校前駅も、その目の前の海岸も鎌倉市だ。

「鎌倉は寺社が多いし、そのついでに江ノ島に来る人達はこういうのに興味あるかもしれないよね」



「葉織くんって、自分で木彫りしてみたいって気持ちはあるの……?」

 なんとなく、なさそうだなぁとは思う。

 普段の葉織の印象から。

 それでも気になって訊いてみた。

「自分でやってみたいっていうのはあんまり……。

でも、お母さんの人形は自分の力で作ってなかったから、ああやって急になくなっちゃったんだ」

 自力で作っていないものは、いつ、不意に失ってしまっても文句は言えない。

 潮崎家には写真すらほとんど残っていないのだから、写真から波雪の人形を作り直すにしても参考になるものが少なすぎる。

「だから……お母さんがいる時に自分でも作っておかなかったのは、
今はちょっとだけ後悔してる」
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