江ノ島の小さな人形師

sohko3

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二日目の朝

ふたつめの人形

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 自身の、ふたつの手のひらをくっつけて、その上に置いた流木がひとりでに形を変える。

 木屑が跳ねてバケツの底にたまっていく。

 その過程を羽香奈はうっとりと眺める。

 ワンピースを広げて座り込んでいる姿勢は昨日作られた人形と変わらないが、今日はにっこりとほほ笑んでいた。

「やっぱりね。
昨日、駅で会った時の羽香奈は黒いもやもやがまとわりついてたけど、今日はすっきりした色してたから」

「たった一日でこんなに変わっちゃうんだ……
な、なんだか、現金な人~って感じで恥ずかしいかも……」

 ちょっと恥らって、熱く染まりかけた頬に両手をあてて隠そうとする。

「そんなことないよ。
羽香奈が言ったんじゃないか。
昨日から、今までと違う自分に生まれ直すんだって。

それに、うちに来てこんなにリラックス出来てるんだってわかってオレも嬉しい」

 葉織はそう言ってくれたが、今度は別の意味で、羽香奈は頬が赤く染まりそうで手のひらを剥がせなくなった。

 昨日の、泣いている羽香奈の人形の隣に、今朝の人形を並べて飾る。

 泣いている人形だけだって羽香奈にとっては宝物だったが、ふたつ並ぶことでより味わいが増したように思える。

 葉織くんが見つけてくれた、昨日までのわたし。

 葉織くんのそばにいる、今日からのわたし。

 前者の自分はもう捨てたものだけれど、最後に葉織がすくい上げてくれた思い出が形になった、大切な証だ。



 葉織が二段ベッドの上で着替えていたのは、この部屋で羽香奈と暮らす限りはそうするようにあらかじめ決めた段取りだった。

 葉織は部屋を出て、先に台所行ってるから着替えたらおいでと言い残し去っていく。


 昨日着ていたワンピースはもう洗濯籠の中なので、波雪の幼い頃の服をしまった収納ケースから適当に服を選んで着せてもらうことにした。


 というわけで、祖母が用意してくれた朝食を家族四人、台所で食べさせてもらう。

 食器は自分が食べたものは自分で洗う決まりだと葉織があらかじめ教えてくれていたので、昨日の夕食から羽香奈もそうしている。

「おやおや。
ありがとうねぇ、羽香奈ちゃん」

 祖母・ハツは昨夜はそう言ってくれたが、今朝は何も言わない。

 羽香奈はむしろそれが嬉しかった。

 正式に、家族の一員になれた気がしたから。
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