江ノ島の小さな人形師

sohko3

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誰からも認められない人形師

江ノ島神社

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「エスカレーターがある神社なんて初めてっ」

「お金もかかるし、子供は乗っちゃダメだって、じいちゃんが。

最近はばあちゃん足が悪くて、どうしても辛いって時にだけ使ってるって言ってた」

 元より羽香奈だって乗りたかったわけでもなし、お構いなく長い階段を意気揚揚にのぼっていく。

 ところが、龍宮城を模した楼門「瑞心門」に差し掛かったあたりで息が上がる。

「あれぇ? いがいとっ、たいへん……っ」

 いくら小学生だからって、長い階段を駆けたら疲れもする。

 自分にとっては見慣れた景色なのに、羽香奈がはしゃいで、しまいにはバテているのを見て、思わず葉織は口を押さえてふっと吹きだした。

 控えめに、抑えたつもりでそうなった。

 葉織はこの年頃の男子にしては思慮深い雰囲気で……

わたしを散々にいじめてきた、乱暴な男子たちとは大違い……

小一時間ほどだが共に行動して、そんな印象だった。

 可笑しそうに笑うところが見られて羽香奈はちょっと安心した。

 そんなに人通りもないとはいえ、階段の途中で休むのは迷惑だろうから、羽香奈は胸をおさえて目の前の階段をのぼりきることにした。


 江ノ島には三つのお宮がある。

 階段を上がった先とはいえ、そこはまだ参拝ルートの最下層、下の宮(辺津宮)。

 そこまで詳しくない羽香奈は、真正面に見えた辺津宮にさっそくお参りしようとしたのだが。

 賽銭箱の前にいた、中年の男女の姿を目にした葉織が急にぎくりと足を止め、顔色を変えた。

 羽香奈も長年の経験で人の顔色をうかがうのが癖になっていて、すぐに気が付く。

 どうしたんだろうと思う間もなく、理由も即座に察する。

 件の男女は、賽銭箱の前で言い争いをしているのだ。

 男の方が一方的に怒鳴りつけるのを、女はただ黙って耐えている。

 境内には他に数組の参拝者の姿が見えるが、賽銭箱に近付けず、迷惑そうな目で遠巻きに彼らを見ている。

「このっ……」

 ついに男は、右手を振りかざして女性のいずこかを平手で叩こうとした。

 そうなるより以前から、すでに葉織は持っていたバケツを放り投げ、駆け出していた。

 ブリキのバケツが地面に落ちて、中に入っていた小さな流木がぶつかって立てる音が響く。

「葉織くんっ!」

 男女の間に割って入った葉織の左頬に、男のふるった手のひらが命中して、吹き飛ばされる。

 その身に暴力を受けなかったものの、倒れ込む葉織の体重を受けた女は彼と共に倒れ込み、尻餅をついた。
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