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子供の頃からの夢

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「私の兄さんね、トイトイを作る前に病気で亡くなったの。彼は誰かに見せるためでも売るためでもなく、自分自身が好きだからって気持ちで、一生涯おんなじモチーフで絵を描き続けた。

兄さんが死んだ後、その作品がフィラディノートの街中で起こったちょっとした事件と関連付けされたせいで急に有名になっちゃって、作品が評価されるようになって、高値で売れるようになったりして……」

「せっかく有名になったのに、お兄さん自身はそれを知ることが出来ないなんて残念だね」

「まぁね。でも、兄さんはただ自分が好きなものを作りたかっただけだから、有名になるとか評価されるとかどうでも良かったのよね。

誰かに認められたいって気持ちがないまま、ただ好きだからって作り続けられる……兄さんのそういう創作精神は見習いたいなぁって、私も思うんだけど……」

 ティッサは小さく溜息をつく。見習わなきゃって思っても、現実、そうすることが難しいんだと思う。

 そも、ぼくを作った当時のティッサは二十四歳。それより前に亡くなったというお兄さんが生きることの出来た時間の短さを思うと、健康に生きている彼女が「兄を羨ましい」と思うこと自体が憚られるっていうのもあるんだろう。

「でも、ティッサは自分より売れっ子職人さんの作品をわざわざ買っているよね。そんなのずーっと見てたらより落ち込んじゃうんじゃないの?」

「もちろん、同じ作り手として落ち込まないわけじゃないけどね。それ以上に、この人はこのおもちゃをどんな気持ちで作ったのかしら、って、細部を眺めながら想像するのが楽しくって。子供の頃からずーっと変わらない、私自身の何よりの趣味なんだもの」


 ティッサの髪の色を見るに、彼女は人間にしては魔力量に恵まれている。それで魔法の知識を得て活用しようとするなら、「その街の中だけで動くおもちゃを作る」なんて限られた需要より、もーっとお金を稼げるとか技術者として求められている場所だってあったんだ。


「それでも魔法のおもちゃ屋さんを開店してそれで暮らしていくっていうのは、私の子供の頃からの夢だったのよね。大人になってからも、おもちゃに囲まれて暮らしていたかったから」

「ティッサのその趣味のおかげで、ぼくもこの辺の子供達もたーくさんのおもちゃで遊ばせてもらえて楽しいよ」

「そうね。私も自分ひとりじゃあこんな大量のおもちゃで遊ぶ時間が足りないから、みんなで遊んでもらえたら助かるわ」


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