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史上初の女性剣闘士を目指して、頑張ります!

縁談

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 その日、わたくしは一世一代の告白の時を迎えようとしていました。

 剣闘士になってから二年を過ぎて、本日開催された試合でシホは百勝目を迎えました。

「赤首昇格おめでとう、シホ」
「おめでとうございます」
「それはありがてぇんだが、褒章の受け渡しは剣闘場の事務室でやるもんだって聞いてたが……なんだって、オレは王宮の応接間なんかに連れ込まれてんだ?」

 イルヒラ様とわたくしは並んで長椅子にかけて順番にお祝いを述べて、頭を下げます。シホ様は上座にあるひとりがけの椅子におかけいただいており、「これは一介の剣闘士に対する扱いか?」と、困惑しておられました。


「この度は、あなたにわたくしから個人的にご相談があるのです」

「相談?」

「率直に申し上げて、縁談のお話です」

「……はい?? なんですって?」

 空耳かなぁなどととぼけながら、シホは自分の耳輪の下を小指の先でほじくってから、指先に息を吹きかけます。この局面で、耳の穴をほじって垢を吹くという「下品な真似」をしているのです。実際に耳穴に入れていないのですから、この場をごまかすための行動なのは明らかです。

「レナに直接聞くとこじれそうだから、とりあえずあんたからこの状況を説明しちゃもらえないかねぇ、イルヒラさんよ」

「あ~……俺も正直、どうなんだろって前々から思ってるんだけどねぇ……グランティスの王族にはわりかし、よくあることなんだよ。身分の差とか関係なく、とりあえず強い戦士を見初めて伴侶にしようって」

「伴侶って……好いた惚れたって話もすっ飛ばしていきなりそっちへいっちまう? オレみてぇな下流の生まれにゃあやんごとなき血筋の感覚はわかんねえなぁ」

 王族や貴族の間では、必ずしも恋愛感情によってのみ婚姻関係に至るとは限りません。家同士の約束だったり、グランティス王族に限っては建国以来の絶対的方針として「力こそ正義!」というのがあります。

 剣闘場が開場してからの百年間。優秀な赤首剣闘士の遺伝子を後世に、それも王家の血筋として残していくことは国の財産である。そう考えて、見初めた剣闘士と関係して子供を残した姫は何人もいるそうです。わたくし自身、遡ればいずれかの剣闘士の血筋が入っているのでしょう。わたくしが剣闘士としての自分に漠然とした憧れを抱いたのも、もしかしたら血筋が影響しているのかもしれません。

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