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巨神竜を追いかけて
勝者はどっち!?
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逃げた先で着地した、ほんのひと呼吸。ただそれだけで、シホ様は息を整え、反撃の体勢に移りました。彼はまだ十六歳、技術も経験も未熟ですが、やはり頭の切れる方なのでしょう。巨神竜という途方もない強敵を相手にしても、ちっとも怖気づきません。
シホ様はしゃがんで、長い槍を両腕でめいっぱい伸ばして、イルヒラ様の足の脛を狙いました。穂先の三日月に引っかけて転ばそうとしたのです。その動きを読んだイルヒラ様は両足で上に跳んでかわし、少し後ろに着地しました。
いちかばちか、シホ様はまっすぐ前に突いて、イルヒラ様の喉の防具を狙います。が、難なく躱されてしまいました。この動きはシホ様にも大きな隙を生じます。イルヒラ様は下から上へすくい上げるように斧を動かしました。
どうにかこれを避けたシホ様は右膝を地につけて、上へ向かって槍を伸ばします。よけられたことで所在なく、中空にあった斧の刃。その手前の柄に、槍の三日月を引っかけて下に落とします。
イルヒラ様の方が腕の力も強く、引きずられきることはなく耐えました。斧は腰の高さで水平に静止します。その一瞬に、シホ様は今度は腹部に突き刺すように槍を進めました。
イルヒラ様は不敵に笑い、斧の刃を振り子のように横へ。槍の長柄にぶつけます。凄まじい力で。剣闘場では、手持ちの武器を地に落とすことも敗北の条件にあたります。横からの衝撃でそれを狙ったのかもしれません。
「くっ、ッ」
武器を落とすのは堪えましたが、ただその一点を死守するのを最優先したゆえだったのでしょう。シホ様はとっさに、自ら転ぶように地面に肘を着けて、受け身を取ります。勢いのまま転がってイルヒラ様と距離をあけた先で急いで立ち上がろうとします。
元の場所で棒立ちに、それを眺めているようなイルヒラ様ではありません。シホ様を追いかけて、流れるように、斧をまた上段に掲げていました。後は、それを振り下ろすだけ。
身を起こしはしたものの、未だシホ様は片膝を地面につけて、イルヒラ様を見上げています。槍を構えて斧を受け止めるには間に合いません。
イルヒラ様の表情に余裕があるのと対照的に、試合の始まってからのシホ様は、ずっと真剣な面持ちでした。その、彼らしからぬ表情のままで。
パキッ、っと、何かが外れるような音が響きました。それと同時、シホ様はがら空きになっていたイルヒラ様の懐に飛び込みました。
イルヒラ様の、分厚くはなく、しかし確かに引き締まった胸板に肩を当てるようにぶつかって。左手に残っていた槍の「長い方の柄」を無造作に放り捨てて、右手に持っていた「短くなった槍の穂先」をイルヒラ様の喉に突き付けていました。
シホ様はしゃがんで、長い槍を両腕でめいっぱい伸ばして、イルヒラ様の足の脛を狙いました。穂先の三日月に引っかけて転ばそうとしたのです。その動きを読んだイルヒラ様は両足で上に跳んでかわし、少し後ろに着地しました。
いちかばちか、シホ様はまっすぐ前に突いて、イルヒラ様の喉の防具を狙います。が、難なく躱されてしまいました。この動きはシホ様にも大きな隙を生じます。イルヒラ様は下から上へすくい上げるように斧を動かしました。
どうにかこれを避けたシホ様は右膝を地につけて、上へ向かって槍を伸ばします。よけられたことで所在なく、中空にあった斧の刃。その手前の柄に、槍の三日月を引っかけて下に落とします。
イルヒラ様の方が腕の力も強く、引きずられきることはなく耐えました。斧は腰の高さで水平に静止します。その一瞬に、シホ様は今度は腹部に突き刺すように槍を進めました。
イルヒラ様は不敵に笑い、斧の刃を振り子のように横へ。槍の長柄にぶつけます。凄まじい力で。剣闘場では、手持ちの武器を地に落とすことも敗北の条件にあたります。横からの衝撃でそれを狙ったのかもしれません。
「くっ、ッ」
武器を落とすのは堪えましたが、ただその一点を死守するのを最優先したゆえだったのでしょう。シホ様はとっさに、自ら転ぶように地面に肘を着けて、受け身を取ります。勢いのまま転がってイルヒラ様と距離をあけた先で急いで立ち上がろうとします。
元の場所で棒立ちに、それを眺めているようなイルヒラ様ではありません。シホ様を追いかけて、流れるように、斧をまた上段に掲げていました。後は、それを振り下ろすだけ。
身を起こしはしたものの、未だシホ様は片膝を地面につけて、イルヒラ様を見上げています。槍を構えて斧を受け止めるには間に合いません。
イルヒラ様の表情に余裕があるのと対照的に、試合の始まってからのシホ様は、ずっと真剣な面持ちでした。その、彼らしからぬ表情のままで。
パキッ、っと、何かが外れるような音が響きました。それと同時、シホ様はがら空きになっていたイルヒラ様の懐に飛び込みました。
イルヒラ様の、分厚くはなく、しかし確かに引き締まった胸板に肩を当てるようにぶつかって。左手に残っていた槍の「長い方の柄」を無造作に放り捨てて、右手に持っていた「短くなった槍の穂先」をイルヒラ様の喉に突き付けていました。
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