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第八章

『埋められていく地図』

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 海洋探索に関しては順調な滑り出しでは無かった。
キーエル家のやらかしもあったが、編成したメンバーの個性もあるだろう。ただ、詫びとしてキーエル家が下手に出ているというか……露骨にゴーレム技術による船を欲しがった事で、あの家がスポンサーとして名乗りを上げたことが大きい。どう見ても共同事業なのだが、形式としては俺の主導で全て収まることになった。

おそらくは木材やら船を作る費用くらいなら平然と出せるという事だろう(それ以上を望んでいないのも大きい)。

「それで、なんでやるなと言ったのに全力で動かしたんだ?」
「イザという時に備えてさ。もし追い駆けられることになった時、どこまでやれるかを見たかった。敢えて言うなら、今回の失敗も先に知れておいて良かったよ」
 さっそくやらかしたのは操船担当である実直そうな男だった。
マクシムという大仰そうな名前が悪いのか、三胴船の水車をフル稼働させて、蓄えたエネルギーを使い切ってゴーレムの機能をすべて止めてしまったのだ。その途端に動かなくなり、念の為に載せておいた櫂で少しずつ戻ってくることになった。最終的に遅すぎるので、筏で迎えに行ったけどな。

その結果判ったのは、全力運転を一定以上続けたらゴーレムでは無くなる事……そして近くならば筏で救助できることである。

「そういうのは全て先に提案してからやってくれ。最大稼働時間を正式に図る実験をやっただろう。お前さんがやったことは好奇心でやったとは言わないが、『このチームでどこまで戦えるのか知りたかった』と勝手に亜人の集落を攻めるのと変わりない。チームを危険に晒したことになる。次から事前提案無しに二度とやるな」
「そこまで言わなくても良いと思うが……判ったよ。先に提案する」
 有用なデータだし、もし巨大な魔物に追われたら確かに役立つだろう。
だが、勝手にやられて事後報告で済ませようと思ったのが問題になる。よく武将が『功績を上げてしまえば、抜け駆けの罪も許される』とか言って勝手に敗北するのと同じだ。流石にそこまでの状況ではないが、もし俺自身がゴーレム創造魔法の使い手でなければ、大損害だっただろう。

他のメンツも問題を起こしたが、ひとまず大問題はコレで最後だ。時期的にも恵まれていたのが幸いである。

「なあ。早速提案なんだが、水車をそれぞれゴーレムには出来ないのか? 話を聞いてると、別々にした方が移動する力が強くなるし、長持ちもするんだろう?」
「外でその言い方は止めろよ。欠点が二つある」
「どんな問題なんだ? 是非とも教えてくれ」
「近過ぎると魔力が補充できない。あと俺の時間な」
 実に楽しそうに話すのは、自分の船のつもりなのだろうか?
ちゃんとやってくれるなら正式に船長に任命しても良いのだが、この調子でベラベラ喋られると困る。身内しかいない別荘地とはいえ、来客が居ない訳でもないのだ。声を遮断する様な結界なんぞ覚えていないので、もし立ち聞きされたら一発である。

なお、時間的に都合が良いというのは無限にあるという意味ではない。
今ならば少しくらいの時間が採れるし、予定していた次のゴーレム……綿の種から『油を絞るゴーレム』を作るのを止めたら時間の追加が出来るという意味だ。

「ゴーレムは互いに魔力を吸い合うから、補充が出来なくなる」
「アーバレストと帆と水車、最低でもそのくらいの長さが必要なんだ」
「そうなると船の横幅を大きくしなくちゃならない。船自体がない上、領主である俺は執務をこなしながら時間を割いている事を忘れないでくれ」
 ゴーレム同士が食い合わなきゃ、砂でゴーレムを作って壁にしている。
それが無理だから時間を掛けているのだし、インナーフレーム型ゴーレムと装甲型ゴーレムに分けて合体させてないのは、それが出来ないからだ。もしかしたら何らかの解決手段を用いれば可能なのかもしれないが、少なくとも直ぐには見つからないだろう。

仮に解決手段が見つかったとしても、先にすべきはアダマンティンの改装になってしまうけどな。だが、もっと切実な理由がある。

「なるほど。船がないんじゃ駄目だな。もし完成したらその時に頼もう」
「その場合は生粋の深い船が接岸できるだけの新拠点と、お前さんに船を任せようという信頼が必要になる。くれぐれも、『腕だけは信用できるが、信用はおけない』なんて奴には成ってくれるなよ」
 次の船を作るという話自体は否定しなかった。
キーエル家の担当者が『二号艦を作りませんか!』と提案してくるぐらいだが、現在は適正なサイズが判らない。それこそ中央だけ一回り大きくすれば良いのか、あるいはもっと根本的に大きくして、水車自体をスクリューほどではないにしても隠すべきなのかが判らないのだ。

エンジンじゃないが、大型船に水車を隠すブロックを作るべきかもしれない。全力稼働問題に解決策が得られるなら、水流操作で前から水を吸い込み、後ろから吐き出す方法でも移動できるはずだしな。

「反省会は此処までだ。本題と行こう。砂浜は何処までだ?」
「この辺り全体がそのまま海に沈んだんじゃないかと思うくらいには続いて居るな。ゴルビーに六本目の指があるんじゃないかと思うくらいには、なだらかな状態が続く。かなり沖まで行けば、流石に深い様だがね」
 船長役のマクシムを呼んだのは近況が知りたかったからだ。
既に三胴船を使いこなし、近隣の探索を始めている。遊牧民の領域である北側は適当に切り上げ、沖合も危険なのでやはり控え目。南側に行くことで、ゴルビーで見たよりも砂浜が減って行くという。

この情報は幾つかの良い点と悪い点がある。

「と言う事はこの辺りに大きな港は作れないって事だな。最低でもこの村が見えなくなるまでは南下した場所まで行ってもらう方が妥当として、大量の石材を持ち込んだら埋め立てが出来ると思うか?」
「それは勧めないな。なだらかな海でも嵐が起きない訳じゃない」
 念のために埋め立てを検討するが止めた方が良いらしい。
確かに土や岩を大量に持ち込み易い場所では無いので、せっかく埋め立てても波に浚われてしまう可能性は高いだろう。だからこの辺りは遠浅の海で、港向きではないと断定してしまった方が楽だろう。すいちゅ行動を前提にしたゴーレムで穴を掘る手もあるが、その労力が惜しい。

となれば諦めて、別の手段を取るべきだろう。

「次の確認だが、岩礁周囲だけ何とかして、魔法の光を灯す塔を建てることが可能だとする。これは遠くから港が近いと知らせる物なんだが、そこの海に作って沖に出るのと、新しい拠点の周囲に作って大きな港や船を前提にするのはどっちが妥当だと思う?」
「楽なのは前者だが、そんな使い道をするなら後者だろう。後で間違えかねん」
 灯台の建設に関しても尋ねてみるが、やはり否定的だった。
やはりゴルビーの東はそういう物だし、そうなる様に調整すべきだろう。例えば沖合に大型船がやって来て、ボートで揚陸しようとするとしたら、途中に杭を打っておいたり、弓を放つための海上砦を作るとかな。

あるいは最初から養殖用だと割り切るべきか。幸いにも貝はそこそこに増えている、何年か放っておいて筏と貝殻を増やせば、貝自体が増えていくだろう。

「聞きたいことは効けた、助かったよ。もし大きな港を建設でき、大型船を建造することに成ったら君に任せる可能性は高い。だが、注意事項は判って居るな?」
「したいことがあれば先に提案しろと言う事だろう。判ってるさ」
 よし、これで方針は決まった!
後はするべきことを定めて、確実にこなしていくだけだ。幸いにもキーエル家がスポンサーに着いたことで、資材や資金に余裕は出来た。元もとは俺の資金でちょっとずつ全部やろうとしていたからな。それに比べたら僅かな出資でも十分過ぎる!!

そしてやるべきことは既に決まっていた!

「では記念すべき最初のミッション終了だ。次のミッションはこの村が見えなくなる位置まで移動し、食料その他を隠しておく中間ポイントを見つける事。最終目標である拠点探しの為に、七日から一週間は連続で移動してもらう。中間拠点があれば、君たちの命は何かあっても助かる可能性が高い。また、船が駄目になっても、そこまでは筏で往復できるからな」
「慎重過ぎると思うが雇い主の意見には従おう」
 こうして海洋探索は問題を抱えながらも動き出していった。
おそらくは中間ポイントは当然のことながら、最終目標を見出す所までは上手く行くだろう。
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