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3章 中編
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獣人? もう一度、周囲を見渡すが他の客も店主もニンゲン種だけだ。
つまり、牛人種である俺のことを言っているのだろう。
断っておくが、俺は日頃から普通の人より3倍くらい水浴びをしている。衣服はボロいが、定期的な洗濯を欠かしてはいない。常に清潔さを保つようにしているので、体が臭うなどということはありえないはずだ。
むしろ、隣の席にいるオッサン達の方が、よっぽど酒臭い。
「カイホ君、気にすることはありません。酔っぱらいの戯言です」
「はい。でも、なんか感じ悪いな」
俺がボソっと呟いただけだが、やつらには聞こえていたのだろうか。さらに大声で煽り立ててきた。
「うへへ、ひぇっひぇっひぇっ、ヒィィック。坊やのママはどこでちゅかー、ってか。オッパイ飲んで寝る時間でちゅよ」
「おいマスターよ。この店は馬小屋なのかー? 馬糞みたいな臭いがするぜ。店の品格が下がるから追い出した方がいいんじゃねえのかー」
ぐぬぬぬ。俺も少しキレそうになったが、ボーデンに迷惑を掛けるわけにはいかい。グッと堪えて辛抱することにした。
もし、ゲロ以下の臭いだとか言われたら、心が傷ついてしまうだろう。ショックのあまり、ニンゲンを辞めたくなってしまうかもしれない。
しかし、よく考えたら生まれたときから牛人で最初からニンゲンではなかった。
というか、この店に来る前に厩舎に寄っていたのだ。もしかして、本物の馬の臭いが移っていたのだろうか。
重要な取引相手である行商人とパブでの食事。
今回はボーデンが奢ってくれるようだけど、一種の接待営業とも言えるだろう。
そんな最中に、隣席にいる別の酔っぱらい客から因縁をつけられてしまった。
こんなんじゃ、業務妨害されているようなものだ。
「ボーデンさん、申し訳ない。何なら俺は外に出てましょうか?」
「いえ、その必要はありません」
俺は椅子を少し後ろに引いて席から立ち上がろうとしたが、ボーデンから掌のジェスチャーで静止を求められた。
「おぉい、マスター。衛生局に通報しちゃうぜ。いいんかい?」
「ええぜぇー、ええぜぇー、ってな。ギャハハハハ」
なんて寒いやつらだ。もう耐えられん、そろそろ限界だ。
と思ったところで、店主がカウンターから出てきてこちらに近づいてきた。
「ボーデン、そちらのお子様は?」
「マスター、こちらが例のホル族の少年でして……」
店主とボーデンがヒソヒソと話をしている。
すると横から酔ったオッサンが更に店主を相手に管を巻き出した。
「マスターよぉ、ホル族で思い出したんだけど。ミルクゼリーってのは、まだ入荷しねえのかい? ホッペタがとろけるほど美味いって聞くじゃねえか。俺もいっぺん食ってみてえんだよ」
「この大馬鹿者! こちらの坊ちゃまがミルクゼリーの考案者だ。お前のような奴らは客でも何でもない。金を払って、とっとと店を出て行きやがれ!」
急転直下、俺がキレる前に店主が先にキレた。
酔客の男の首にアームロックを掛けて締め上げている。金はいらないから出て行けと言うのかと思ったが、そうではなかった。代金はちゃんと請求するようだな。
「ぎひぃぃぃぃっー」
3人の男が次々と失神させられた。そのまま肩を引きずられ路上に投げ出されていく。ボーデンも手伝って、タチの悪い3人の客を店外へと追いやってしまった。
店主は、ちゃっかり客のポケットから財布だけ抜き取っている。
「ツケは、これで精算しておくぞ」
「うわー、意外とバイオレンスなんですねぇ」
「お客様、先ほどは大変に失礼しました。今後、奴らは入店禁止にしますので。どうぞ、ご容赦ください」
焼酎を飲んで酔っ払って、ちょっと騒いだら店を叩き出されて財布まで没収か。
かなり厳しいペナルティだ。見方を少し変えれば、ぼったくりバーとやっていることが大差ないような気がする。まあボーデンは常連のようだし、アイツらは他の客に因縁つけてきたのだから仕方ないだろう。
「別に気にしてませんよ。俺の方こそ、今日この店に初めて来たばかりなのに。ご迷惑おかけしました」
「いえいえ、そんなことありません。ニンゲン種が、あんなのばかりだと思わないでいただきたいのです」
「それは分かっていますよ。ボーデンさんには、いつも親切にしてもらってます」
真っ当な人もいれば、ロクでなしもいる。人それぞれで、種族全体が同じというわけではない。俺も町で変なことをしていたら、ホル族全体の評判を落としてしまうかもしれない。襟を正して、注意しないといけないな。
そんなことを俺が頭の中で考えていたところ、ボーデンが自分の足元を見ながら何かに気がついたように急に声を上げた。
「あっ」
「ボーデンさん、どうしたんですか?」
「さっき、馬がどうのこうのと言われてたじゃないですか。今、原因が分かりました。仕事終わりに厩舎に行ったとき、私は馬糞を踏んでしまっていたようです。ちょっと井戸の所で洗い流してきます」
「えー? なんだぁ」
お前か! 俺は何も悪くはなかった。
出禁になったオッサン達は、むしろ被害者かもしれん。まあ、店主がやったことなので、こちらには何の関係もないことだ。
店の裏に井戸があるようなので、ボーデンについて行った。
俺も食事前には、うがいと手洗いをしたい。
町の井戸はレンガで組まれた井筒で、基本的な構造は村の井戸と違いはないようだ。ただ、井戸の上部に見慣れない取水設備が装着されていた。
ボーデンが井戸に付いているレバーをガチャンガチャンと操作すると、パイプみたいな蛇口から桶へと水がジャブジャブと流れて出した。
そこから柄杓で水を汲み、ボーデンは靴裏にビチャビチャと掛けて流している。
「綺麗になりました。もう臭くありません」
「あの。この井戸どうなってるんですか。釣瓶式の汲み上げじゃないんです?」
「ああ、この井戸はポンプ式ですね。手押しでハンドルを上下させるとピストンの圧力で吸い上げる仕組みになっています」
「おおっー、これはすごい。楽でいいですねぇ。村には、こんなの無かったし」
「これが発明されたのは最近の話で、まだ10年も経っていませんからね。店舗付近の業務用とかで少しずつ導入されています。町でも、全部の井戸がポンプになっているわけではありません」
「いいなぁ。これ、自分の家にも取り付けるとしたら、いくらくらいですかね?」
「たしか三十万エノムくらいだったと思います」
「たかっ。ちょっと無理だなぁ。諦めます」
「もっと普及すれば少し値下がりするかもしれませんが。今は贅沢品ですねぇ」
井戸の水汲みは重労働だ。ポンプ式なら大幅に負担軽減できそうなのだが、現時点では手が出せない。とはいえ、家の釣瓶井戸でも、そんなに困っているわけではない。水が飲めるだけでもありがたいので、十分だ。
さて、手も洗えたので店内へと戻った。
「いらっしゃいませ。先ほどは、お騒がせしました。では食事のご用意をしますので、しばらくお待ちください」
店主はそう言うと、厨房へと引っ込んでしまい姿が見えなくなる。
ジュージューと何かを焼くような音が聞こえてくる。
「ボーデンさん、いつものって何の料理なんですか?」
「小麦を使った料理ですがパンではありません。あとは実際に食べてもらって、何の料理か当てるクイズとします」
むむむ、問題形式にするのか。ちょっとプレッシャーがかかってきた。
さては、俺の舌を試すつもりなのだろうか。
「もしかして、俺に目隠しでもして食べさせるんですか?」
「はい。目隠しを付け、両手両足をロープで縛り、臭いだけで料理名を当ててもらいます。なんてことは、する必要ないのでご安心を。普通に食べて結構です」
ちょっとボケを言ったら、ボケ返されてしまった。
この行商人も、ずいぶんと冗談を言うようになったものだ。
「脅かさないでくださいよ。うーん、もう料理の香りは漂ってきてますねぇ」
そんな雑談をしていると、料理が出来上がったらしく店主が2皿を運んできた。
「どうぞ、お召し上がりください」
コトンとテーブルの上に置かれた皿の中身は……。
茹でて炒められたと思われる細長い糸状の小麦粉、麺料理か。
「へぇ、この国ってパンだけじゃなくて麺もあるんだ。手打ちですか?」
「ほほう、麺をご存知でしたか。これではクイズになりませんでしたな」
「私の手打ちです。小麦粉を必死にコネて、包丁で細長くカットしています」
店主の手打ちパスタらしい。2ミリくらいの太さで、上手く出来ている。
「では、とりあえず食べましょう」
「はい、いただきます」
箸で麺を挟んで、ズルズルと口に入れる。ゆっくり噛み締めて、味を確認する。
スパゲッティのペペロンチーノみたいだな。ピリっとした辛味が利いている。1ミリほどの細さで輪切りされたトウガラシが具材として混ぜ込んである。
「どうですかな、お味は。お口に合いますか?」
「とても美味しいです。この世界に生まれてから、こんな麺料理を食べたのは初めてです。この辛いのは、たしか赤辛ナスでしたっけ? それと、ミジン切りしたホレンソが上から振りかけてありますね。軽く塩もまぶして味付けしてある。シンプルだけど、麺の旨さが良く出ています」
「さすがですな。初めて食べた料理でも素材を言い当ててしまうとは」
「なるほど。ボーデンが言っていた通りだ。ただ者ではないな」
行商人とパブの店主が2人して、しきりに俺のことを感心している。別に、さほど大したことではない。食べて思ったことを、そのまま言ったにすぎない。
「買いかぶるのは、やめてくださいよ。食べれば誰にだって分かることことです」
「いやいや。ホル族の坊ちゃま、そんなことはないです。味音痴のニンゲンも多いんです。大半が緑色の食材を見ると『この葉っぱ何だ?』と言う有様で。違いが分かるのは、ごく少数です」
ホル族の村人は、何の野菜を見ても区別のつかない人が多かったが。
その点は、町にいるニンゲンでも大差がないらしい。
「そうなんだ。うちの家族だって何でも草だって言ってて。似たようなもんです」
「嘆かわしいことです。それで、当店では味の分かる常連客にだけ裏メニューを提供することにしています」
「なるほど。だから、お品書きに書いてないんだ。ちなみに、この料理はなんて呼んでるんです? ペペロンチーノ、この世界でならアカラチーノって感じかな」
「茹でた小麦麺の赤辛ナス和え炒めです」
ほぼ、そのまんまの名前だなぁ。
それからモグモグと箸を進めて、皿を平らげた。1本も残さず完食だ。
「ご馳走様でした」
「ところで、ボーデン。ちょっといいかい。ミルクゼリーのことなんだが」
「無理ですよ」
突然、話題が変わった。2人がミルクゼリーがどうのこうのと言い出したので、俺も一瞬ビクっとしたが詳しく聞いてみることにする。
「どうしたんです?」
「うちの店には、3日に1度の間隔で1本ずつしか回ってこないのでね。入荷したら、まず自分で少し食べて。その残りを何人かの客に小皿で出しているのだけど、やはり足らなくて。出来れば、もう少し仕入れを増やしたいのだけど」
真っ先に店主が食ってるんかい。それじゃ客に出す分が足らないわけだ。
「私の取引先は10軒以上あって、1日4本しか仕入れられないですからな。順番に1本ずつですよ」
「当店でも人気メニューがあれば、もっと客を呼び込めそうなのです。今は自分1人で回してますが、繁盛したら巨乳のウェイトレスを雇いたいと思ってます」
「巨乳のウェイトレス?」
なんか聞き捨てならない言葉が、店主の口から出ていた。
「近所のメスが、うちの店でバイトしたいと言っているんですが。でも断っているんです。お客も多くないので、給料を払えないですから」
「それ、熟女とかっていうオチじゃないですよね?」
「いえ、若くてピチピチの子です」
店主とボーデンが事前に示し合わせて、俺をハメようとしているのではないかと少し懸念はあった。まあ、仮にそうだったとしても別にかまわない。
杏仁豆腐を作ることで経済波及効果が生じて、雇用拡大・女性の社会進出につながるなら何も問題はないだろう。
「分かりました。この店のために、ミルクゼリーをもう少し量産しましょう。ミルクのまま納品してる分もゼリーの材料にすれば、もっと作れないこともないです」
「カイホ君の方で増産可能であれば、私は1日10本でもかまいません」
「そうしていただければ、ありがたい」
「いや、10本も作れるかどうか分からないけど。ミルクもビンも足りなくなるかもしれないし。明日から6本くらいでもいいなら、なんとか善処します」
「よろしく、お願いしますぞ」
こんなオッサンがバーテンダーをしている店に興味はないが、巨乳のウェイトレスが来るとなれば話は別だ。出来る限り頑張ってみよう。
「はい。あっそうだ。実は、今日2本のゼリーを持ってきたんですよ。昼に4本をボーデンさんに納品したのとは別で。サンプルの試作品です」
巾着袋に入れたまま、ずっと2本のビンを持ち歩き続けていたのだ。
町に下りてきてボーデンの取引先の飲食店とかに寄ることがあれば、試食会にするつもりでいたが忘れかけていた。
俺は手荷物から2本のビンを取り出すと、ゴトっとテーブルの上に置いた。
1つは蜂蜜杏仁の改良版だ。もう1本は、すり潰した芋と水を固めたゼリーになっている。
「おお、ビンを隠し持って来ていたとは。おや、これらは少し色が違いますな」
「こっちの微妙に黄色っぽいのが、前の蜂蜜ゼリーの甘さ控えめ番です。もう1本の方は、ほとんどミルクの入ってない廉価品です。まあ食べてみてください」
「ふむ。ではマスター。取り分ける小皿と、細いスプーンをお願いします」
店主が皿を3つ用意し、ビンから木のサジで杏仁豆腐を掻き出している。
別に自分で食べる必要もないのだけど、俺の分の皿も出たので一緒に味見をした。うん、想像通りの味だ。前に試食したときと大きな差はない。
「坊ちゃま、これをタダで頂いていいのですか?」
「あ、俺はカイホと言います。別に、坊ちゃまではないです。今回は試食用なので金は取りません。どうぞ味見してみてください」
「てっきり、南トリカン村で大規模産乳している家のご子息かと思っていました」
「そんな、いい身分じゃないです。俺、冒険者になろうかと思ってるくらいで」
「そうだったのですか。とりあえず、いただきます」
ボーデンと店主がペロペロと杏仁豆腐を舐めるように食べている。従来のノーマル杏仁で満足しているのなら、マイナーチェンジ版でも大して問題ないはずだ。
「こちらは例の蜂蜜入りですね。前回と比べ蜜量が半分ほどでしょうか。砂糖も入ってないですが、ほんのり十分な甘さです。一方、こちらは……。むぅ?」
蜂蜜杏仁の方は、もしかしたら甘みが足りないかもと不安があった。だけど、意外に蜂蜜の風味が強いので大丈夫だったようだ。
溶かしたミルクにゼラチンを混ぜて、一晩寝かせて固めるまでは調理方法はほぼ同じだ。最後に、蜂蜜がよく分かるように上から追加でかけてある。当初は液状のまま蜜をミックスしていたが、その方法はやめてトッピング方式に変更したのだ。
スプーンですくったときに、上層部はダイレクトに蜜の甘さが襲ってくる仕掛けだ。このトリックにより、蜂蜜を半分に減らしても何とか通用するだろう。
しかし、芋ゼリーの方はダメかもしれない。味見したボーデンが微妙な表情をしている。パブの店主も2種類のゼリーを食べ比べながら、ウンウンと頷いたり首をかしげたりしている。
つまり、牛人種である俺のことを言っているのだろう。
断っておくが、俺は日頃から普通の人より3倍くらい水浴びをしている。衣服はボロいが、定期的な洗濯を欠かしてはいない。常に清潔さを保つようにしているので、体が臭うなどということはありえないはずだ。
むしろ、隣の席にいるオッサン達の方が、よっぽど酒臭い。
「カイホ君、気にすることはありません。酔っぱらいの戯言です」
「はい。でも、なんか感じ悪いな」
俺がボソっと呟いただけだが、やつらには聞こえていたのだろうか。さらに大声で煽り立ててきた。
「うへへ、ひぇっひぇっひぇっ、ヒィィック。坊やのママはどこでちゅかー、ってか。オッパイ飲んで寝る時間でちゅよ」
「おいマスターよ。この店は馬小屋なのかー? 馬糞みたいな臭いがするぜ。店の品格が下がるから追い出した方がいいんじゃねえのかー」
ぐぬぬぬ。俺も少しキレそうになったが、ボーデンに迷惑を掛けるわけにはいかい。グッと堪えて辛抱することにした。
もし、ゲロ以下の臭いだとか言われたら、心が傷ついてしまうだろう。ショックのあまり、ニンゲンを辞めたくなってしまうかもしれない。
しかし、よく考えたら生まれたときから牛人で最初からニンゲンではなかった。
というか、この店に来る前に厩舎に寄っていたのだ。もしかして、本物の馬の臭いが移っていたのだろうか。
重要な取引相手である行商人とパブでの食事。
今回はボーデンが奢ってくれるようだけど、一種の接待営業とも言えるだろう。
そんな最中に、隣席にいる別の酔っぱらい客から因縁をつけられてしまった。
こんなんじゃ、業務妨害されているようなものだ。
「ボーデンさん、申し訳ない。何なら俺は外に出てましょうか?」
「いえ、その必要はありません」
俺は椅子を少し後ろに引いて席から立ち上がろうとしたが、ボーデンから掌のジェスチャーで静止を求められた。
「おぉい、マスター。衛生局に通報しちゃうぜ。いいんかい?」
「ええぜぇー、ええぜぇー、ってな。ギャハハハハ」
なんて寒いやつらだ。もう耐えられん、そろそろ限界だ。
と思ったところで、店主がカウンターから出てきてこちらに近づいてきた。
「ボーデン、そちらのお子様は?」
「マスター、こちらが例のホル族の少年でして……」
店主とボーデンがヒソヒソと話をしている。
すると横から酔ったオッサンが更に店主を相手に管を巻き出した。
「マスターよぉ、ホル族で思い出したんだけど。ミルクゼリーってのは、まだ入荷しねえのかい? ホッペタがとろけるほど美味いって聞くじゃねえか。俺もいっぺん食ってみてえんだよ」
「この大馬鹿者! こちらの坊ちゃまがミルクゼリーの考案者だ。お前のような奴らは客でも何でもない。金を払って、とっとと店を出て行きやがれ!」
急転直下、俺がキレる前に店主が先にキレた。
酔客の男の首にアームロックを掛けて締め上げている。金はいらないから出て行けと言うのかと思ったが、そうではなかった。代金はちゃんと請求するようだな。
「ぎひぃぃぃぃっー」
3人の男が次々と失神させられた。そのまま肩を引きずられ路上に投げ出されていく。ボーデンも手伝って、タチの悪い3人の客を店外へと追いやってしまった。
店主は、ちゃっかり客のポケットから財布だけ抜き取っている。
「ツケは、これで精算しておくぞ」
「うわー、意外とバイオレンスなんですねぇ」
「お客様、先ほどは大変に失礼しました。今後、奴らは入店禁止にしますので。どうぞ、ご容赦ください」
焼酎を飲んで酔っ払って、ちょっと騒いだら店を叩き出されて財布まで没収か。
かなり厳しいペナルティだ。見方を少し変えれば、ぼったくりバーとやっていることが大差ないような気がする。まあボーデンは常連のようだし、アイツらは他の客に因縁つけてきたのだから仕方ないだろう。
「別に気にしてませんよ。俺の方こそ、今日この店に初めて来たばかりなのに。ご迷惑おかけしました」
「いえいえ、そんなことありません。ニンゲン種が、あんなのばかりだと思わないでいただきたいのです」
「それは分かっていますよ。ボーデンさんには、いつも親切にしてもらってます」
真っ当な人もいれば、ロクでなしもいる。人それぞれで、種族全体が同じというわけではない。俺も町で変なことをしていたら、ホル族全体の評判を落としてしまうかもしれない。襟を正して、注意しないといけないな。
そんなことを俺が頭の中で考えていたところ、ボーデンが自分の足元を見ながら何かに気がついたように急に声を上げた。
「あっ」
「ボーデンさん、どうしたんですか?」
「さっき、馬がどうのこうのと言われてたじゃないですか。今、原因が分かりました。仕事終わりに厩舎に行ったとき、私は馬糞を踏んでしまっていたようです。ちょっと井戸の所で洗い流してきます」
「えー? なんだぁ」
お前か! 俺は何も悪くはなかった。
出禁になったオッサン達は、むしろ被害者かもしれん。まあ、店主がやったことなので、こちらには何の関係もないことだ。
店の裏に井戸があるようなので、ボーデンについて行った。
俺も食事前には、うがいと手洗いをしたい。
町の井戸はレンガで組まれた井筒で、基本的な構造は村の井戸と違いはないようだ。ただ、井戸の上部に見慣れない取水設備が装着されていた。
ボーデンが井戸に付いているレバーをガチャンガチャンと操作すると、パイプみたいな蛇口から桶へと水がジャブジャブと流れて出した。
そこから柄杓で水を汲み、ボーデンは靴裏にビチャビチャと掛けて流している。
「綺麗になりました。もう臭くありません」
「あの。この井戸どうなってるんですか。釣瓶式の汲み上げじゃないんです?」
「ああ、この井戸はポンプ式ですね。手押しでハンドルを上下させるとピストンの圧力で吸い上げる仕組みになっています」
「おおっー、これはすごい。楽でいいですねぇ。村には、こんなの無かったし」
「これが発明されたのは最近の話で、まだ10年も経っていませんからね。店舗付近の業務用とかで少しずつ導入されています。町でも、全部の井戸がポンプになっているわけではありません」
「いいなぁ。これ、自分の家にも取り付けるとしたら、いくらくらいですかね?」
「たしか三十万エノムくらいだったと思います」
「たかっ。ちょっと無理だなぁ。諦めます」
「もっと普及すれば少し値下がりするかもしれませんが。今は贅沢品ですねぇ」
井戸の水汲みは重労働だ。ポンプ式なら大幅に負担軽減できそうなのだが、現時点では手が出せない。とはいえ、家の釣瓶井戸でも、そんなに困っているわけではない。水が飲めるだけでもありがたいので、十分だ。
さて、手も洗えたので店内へと戻った。
「いらっしゃいませ。先ほどは、お騒がせしました。では食事のご用意をしますので、しばらくお待ちください」
店主はそう言うと、厨房へと引っ込んでしまい姿が見えなくなる。
ジュージューと何かを焼くような音が聞こえてくる。
「ボーデンさん、いつものって何の料理なんですか?」
「小麦を使った料理ですがパンではありません。あとは実際に食べてもらって、何の料理か当てるクイズとします」
むむむ、問題形式にするのか。ちょっとプレッシャーがかかってきた。
さては、俺の舌を試すつもりなのだろうか。
「もしかして、俺に目隠しでもして食べさせるんですか?」
「はい。目隠しを付け、両手両足をロープで縛り、臭いだけで料理名を当ててもらいます。なんてことは、する必要ないのでご安心を。普通に食べて結構です」
ちょっとボケを言ったら、ボケ返されてしまった。
この行商人も、ずいぶんと冗談を言うようになったものだ。
「脅かさないでくださいよ。うーん、もう料理の香りは漂ってきてますねぇ」
そんな雑談をしていると、料理が出来上がったらしく店主が2皿を運んできた。
「どうぞ、お召し上がりください」
コトンとテーブルの上に置かれた皿の中身は……。
茹でて炒められたと思われる細長い糸状の小麦粉、麺料理か。
「へぇ、この国ってパンだけじゃなくて麺もあるんだ。手打ちですか?」
「ほほう、麺をご存知でしたか。これではクイズになりませんでしたな」
「私の手打ちです。小麦粉を必死にコネて、包丁で細長くカットしています」
店主の手打ちパスタらしい。2ミリくらいの太さで、上手く出来ている。
「では、とりあえず食べましょう」
「はい、いただきます」
箸で麺を挟んで、ズルズルと口に入れる。ゆっくり噛み締めて、味を確認する。
スパゲッティのペペロンチーノみたいだな。ピリっとした辛味が利いている。1ミリほどの細さで輪切りされたトウガラシが具材として混ぜ込んである。
「どうですかな、お味は。お口に合いますか?」
「とても美味しいです。この世界に生まれてから、こんな麺料理を食べたのは初めてです。この辛いのは、たしか赤辛ナスでしたっけ? それと、ミジン切りしたホレンソが上から振りかけてありますね。軽く塩もまぶして味付けしてある。シンプルだけど、麺の旨さが良く出ています」
「さすがですな。初めて食べた料理でも素材を言い当ててしまうとは」
「なるほど。ボーデンが言っていた通りだ。ただ者ではないな」
行商人とパブの店主が2人して、しきりに俺のことを感心している。別に、さほど大したことではない。食べて思ったことを、そのまま言ったにすぎない。
「買いかぶるのは、やめてくださいよ。食べれば誰にだって分かることことです」
「いやいや。ホル族の坊ちゃま、そんなことはないです。味音痴のニンゲンも多いんです。大半が緑色の食材を見ると『この葉っぱ何だ?』と言う有様で。違いが分かるのは、ごく少数です」
ホル族の村人は、何の野菜を見ても区別のつかない人が多かったが。
その点は、町にいるニンゲンでも大差がないらしい。
「そうなんだ。うちの家族だって何でも草だって言ってて。似たようなもんです」
「嘆かわしいことです。それで、当店では味の分かる常連客にだけ裏メニューを提供することにしています」
「なるほど。だから、お品書きに書いてないんだ。ちなみに、この料理はなんて呼んでるんです? ペペロンチーノ、この世界でならアカラチーノって感じかな」
「茹でた小麦麺の赤辛ナス和え炒めです」
ほぼ、そのまんまの名前だなぁ。
それからモグモグと箸を進めて、皿を平らげた。1本も残さず完食だ。
「ご馳走様でした」
「ところで、ボーデン。ちょっといいかい。ミルクゼリーのことなんだが」
「無理ですよ」
突然、話題が変わった。2人がミルクゼリーがどうのこうのと言い出したので、俺も一瞬ビクっとしたが詳しく聞いてみることにする。
「どうしたんです?」
「うちの店には、3日に1度の間隔で1本ずつしか回ってこないのでね。入荷したら、まず自分で少し食べて。その残りを何人かの客に小皿で出しているのだけど、やはり足らなくて。出来れば、もう少し仕入れを増やしたいのだけど」
真っ先に店主が食ってるんかい。それじゃ客に出す分が足らないわけだ。
「私の取引先は10軒以上あって、1日4本しか仕入れられないですからな。順番に1本ずつですよ」
「当店でも人気メニューがあれば、もっと客を呼び込めそうなのです。今は自分1人で回してますが、繁盛したら巨乳のウェイトレスを雇いたいと思ってます」
「巨乳のウェイトレス?」
なんか聞き捨てならない言葉が、店主の口から出ていた。
「近所のメスが、うちの店でバイトしたいと言っているんですが。でも断っているんです。お客も多くないので、給料を払えないですから」
「それ、熟女とかっていうオチじゃないですよね?」
「いえ、若くてピチピチの子です」
店主とボーデンが事前に示し合わせて、俺をハメようとしているのではないかと少し懸念はあった。まあ、仮にそうだったとしても別にかまわない。
杏仁豆腐を作ることで経済波及効果が生じて、雇用拡大・女性の社会進出につながるなら何も問題はないだろう。
「分かりました。この店のために、ミルクゼリーをもう少し量産しましょう。ミルクのまま納品してる分もゼリーの材料にすれば、もっと作れないこともないです」
「カイホ君の方で増産可能であれば、私は1日10本でもかまいません」
「そうしていただければ、ありがたい」
「いや、10本も作れるかどうか分からないけど。ミルクもビンも足りなくなるかもしれないし。明日から6本くらいでもいいなら、なんとか善処します」
「よろしく、お願いしますぞ」
こんなオッサンがバーテンダーをしている店に興味はないが、巨乳のウェイトレスが来るとなれば話は別だ。出来る限り頑張ってみよう。
「はい。あっそうだ。実は、今日2本のゼリーを持ってきたんですよ。昼に4本をボーデンさんに納品したのとは別で。サンプルの試作品です」
巾着袋に入れたまま、ずっと2本のビンを持ち歩き続けていたのだ。
町に下りてきてボーデンの取引先の飲食店とかに寄ることがあれば、試食会にするつもりでいたが忘れかけていた。
俺は手荷物から2本のビンを取り出すと、ゴトっとテーブルの上に置いた。
1つは蜂蜜杏仁の改良版だ。もう1本は、すり潰した芋と水を固めたゼリーになっている。
「おお、ビンを隠し持って来ていたとは。おや、これらは少し色が違いますな」
「こっちの微妙に黄色っぽいのが、前の蜂蜜ゼリーの甘さ控えめ番です。もう1本の方は、ほとんどミルクの入ってない廉価品です。まあ食べてみてください」
「ふむ。ではマスター。取り分ける小皿と、細いスプーンをお願いします」
店主が皿を3つ用意し、ビンから木のサジで杏仁豆腐を掻き出している。
別に自分で食べる必要もないのだけど、俺の分の皿も出たので一緒に味見をした。うん、想像通りの味だ。前に試食したときと大きな差はない。
「坊ちゃま、これをタダで頂いていいのですか?」
「あ、俺はカイホと言います。別に、坊ちゃまではないです。今回は試食用なので金は取りません。どうぞ味見してみてください」
「てっきり、南トリカン村で大規模産乳している家のご子息かと思っていました」
「そんな、いい身分じゃないです。俺、冒険者になろうかと思ってるくらいで」
「そうだったのですか。とりあえず、いただきます」
ボーデンと店主がペロペロと杏仁豆腐を舐めるように食べている。従来のノーマル杏仁で満足しているのなら、マイナーチェンジ版でも大して問題ないはずだ。
「こちらは例の蜂蜜入りですね。前回と比べ蜜量が半分ほどでしょうか。砂糖も入ってないですが、ほんのり十分な甘さです。一方、こちらは……。むぅ?」
蜂蜜杏仁の方は、もしかしたら甘みが足りないかもと不安があった。だけど、意外に蜂蜜の風味が強いので大丈夫だったようだ。
溶かしたミルクにゼラチンを混ぜて、一晩寝かせて固めるまでは調理方法はほぼ同じだ。最後に、蜂蜜がよく分かるように上から追加でかけてある。当初は液状のまま蜜をミックスしていたが、その方法はやめてトッピング方式に変更したのだ。
スプーンですくったときに、上層部はダイレクトに蜜の甘さが襲ってくる仕掛けだ。このトリックにより、蜂蜜を半分に減らしても何とか通用するだろう。
しかし、芋ゼリーの方はダメかもしれない。味見したボーデンが微妙な表情をしている。パブの店主も2種類のゼリーを食べ比べながら、ウンウンと頷いたり首をかしげたりしている。
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