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1章 後編

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 先生から頼まれて採集してきた薬草を、無事に治療院まで配達し終えた。
 これを素材に薬でも調合するのだろうか。一種の漢方薬になりそうな気がする。

「これ、どうするんです? 薬草らしいから、患者の治療にでも使うんですか?」

「いいや、別に治療には使わないよ。僕はブリ茶が好きだから、飲みたいだけだ。眠気覚まし成分が含まれていないので、妊婦に与えても大丈夫だけどね」

「めちゃくちゃ個人的な用途じゃないですか。てっきり、病気の人のためになるかと思って一生懸命に採集してきたのに」

「まあいいじゃないか。とりあえず水で軽く洗ってきてくれないかな。泥を落としてもらいたい。外に出て庭先に井戸があるだろ。桶もそこにあるのを使ってくれ」

「分かりました。なんか丁稚奉公みたいに雑用をさせられている気がするけど」

「これも、魔法を覚えるための修行の一環なんだよ」

 本当だろうか?
 なんだか嘘くさい。こんなことをして魔法が覚えられるとは到底思えない。

 俺は外に出ると、井戸から桶に水を汲んだ。カゴに入ったブリッセンをビシャビシャと桶の水につけ洗っていく。
 全部が綺麗になったところで、カゴに戻して治療院の中に戻った。

「先生、洗ってきました。次は何をすればいいですか?」

「そうだな。先に台所に行って、竈に火を起こしてお湯を沸かしてほしい」

 台所に入ると、鍋があった。そこに水を注ぐ。
 柴は用意されていたので、竈に火をつけた。

「鍋の水を火にかけてきました。しばらくすれば沸くと思います」

「そんじゃさ、沸くまで時間があるだろ。玄関を出て入口横のデッキのところにゴザが敷いてあるんだ。さっき洗ったブリッセンを並べて欲しい。1本ずつ重ならないようにだ」

「まったく、人使いが荒い。しょうがないなぁ」

 俺はブツブツ言いながら、ブリッセンをゴザの上に置いていく。
 まるで露天商のようだ。値札でも立てておけば、誰かが来て買ってくれそうな雰囲気がする。ゴザにビッシリとブリッセンを敷き詰めた。

「並べて来ましたよ。あとは何をすればいいんです?」

「もういいよ。レモネにお茶を入れるように頼んだから。ティータイムにしよう」

 待合室で座っていると、レモネさんがお盆に乗せた木のコップを3つ持って来た。お茶が入っているようだ。

「はい、ブリ茶です」

「カイホ君も、飲んでみたまえ」

「へぇ、これがブリッセンのお茶か。どれどれ頂きます」

 ズズズっと、お茶を一服する。どんな味がするのだろうか。

「どうだ、美味しいだろ」

「うぇっ、にがぁー。先生、ものすごく苦いです」

 なんだ、これは? 草の煮汁か何かみたいだ。舌がおかしくなりそう。
 とにかく苦いとしか言いようがない。旨味とか甘みとか何もない。
 苦行のような舌への不快感だけがあった。

「あはははは。この苦いのがいいんじゃないか」

 デソン先生もレモネさんも、平然とした顔で飲んでいる。

「俺には、ちょっとキツイです」

「これは、疲労回復に滋養強壮の効果があるんだ。ブリ茶を飲むのも修行のうちだよ。さあ、遠慮せずに全部を飲みほしなよ」

 治療院の待合室で、お茶を飲むように促された。ブリッセンのお茶は、とんでもない激マズだった。

「ぐぬぬぬぬ。分かりましたよ」

 罰ゲームだと思って、俺は一気に飲み干した。
 ぎょぇー、にがすぎ。もう1杯、は飲みたくない。

「なかなか良い味だろ? 乾燥済みの茶葉を分けてあげるから、家に帰ってからも飲むといいよ」

 小包に入ったブリッセンの茶葉を渡された。50グラムほどの量だろうか。

「俺が採集してきたブリッセンが、こんなカサカサした状態になるんですか?」

「さっき、外に並べてもらって干しているだろ。しばらく乾燥させてから細かく刻めば、こんな感じなる」

「なるほど、あまり飲みたくないですけど。1杯で、どれくらいの量を使えばいいんですかね?」

「今のが、お湯500ccに1グラムくらいじゃないかな」

 1リットルに、ブリッセンの茎1本くらいでも十分に濃い苦味が出るようだ。

「うーん。俺は、もっと薄い方がいいです」

「魔法を使うと喉が乾くだろ? 僕は、温かいブリ茶で水分補給をしているんだ」

「そういえば、最近そんな気がしたんです。やたら喉が渇くなぁって」

「どうやら乳魔術師は、魔法1回ごとに水分が失われるみたいなんだよ。ホル族のメスも魔力を消費して、体内の水分をミルクに変換しているという説もあるしね」

「えー、そうだったんですか? そんで魔法を使うと、どのくらい水分補給が必要なんです?」

「まあ魔法によって違うし、個人差もあると思うけど。Cランクの初級魔法だと、1回につき100ccくらいじゃないかな。Bランクの中級魔法だと、300ccほど消費するかも。サックは特殊で、同じCランクでも他の魔法より2倍の消費をすることになるけど」

「サックだけ2倍って、どういうことなんです?」

「オッパイは2個あるんだから、必然的に2回は魔法を使うことになる。片方だけしか搾らないなんて、メスに対して失礼だよ」

「そういうことですか。じゃあ魔法連発したら干からびてしまうじゃないですか」

「そうだよ。大昔、難関ダンジョンを最深部まで踏破した有名なオスの魔術師がいたらしくてね。魔法を使うたびにパーティに連れていたメスのミルクをガブガブ飲んでいたそうだよ。それでニューメイジと呼ばれるようになったとか、そういう伝承もあるんだ。嘘か本当かは知らないけどね」

 いかにも胡散臭い。
 だけど、水が出ているのは本当だと思う。
 パイキュアーなんて、明らかに手から蒸気を噴出しているのだから。あれは自分の体内から水分を消費していたのか。

「ところで、魔法のランクとかって何なんです?」

「君が使えるのは、まだCランクだけだね。魔法を発動すると青っぽい光が出るだろ。Bランクだと黄色っぽい光で、Aランクでは真っ赤な光が出るんだ。魔力の消費量もBとAは、それぞれCの3倍と5倍くらいになる」

「上位の魔法ほど、燃費が悪いのか。それだと、すぐ枯渇して乾燥ブリッセンの茶葉みたいになりそうですね」

「うん。だから僕もダンジョンに潜ったときは、樽を抱えて行ったもんだよ」

 水3リットルを持参でダンジョン攻略か。C魔法なら30発、Bだと10発だ。
 自宅での搾乳と違い、ダンジョンではMPより水分の方がネックになりそうだ。

「この治療院に、空樽がたくさん置いてありますね。先生がダンジョンに潜ったとき使う用に買ったんですか?」

 治療院の待合室にも、壁際に樽が5~6個ほど並べてあるのが見えた。
 もしかして荷車を引いてダンジョンを攻めたのではないだろうか。
  戦闘員とは別に、兵糧運搬要員もパーティに入れた方がいいのかもしれない。

「あの樽は行商人から借りているやつだよ。ミルクを搾るって言って預かったまま返してないんだ。血痕だの蛇の毒が染み込んでいるかもしれないから、もう飲用のミルクを入れるのには使えないんじゃないかな」

「先生、何やってるんですか。そんなことダメですよ」

 スーパーの買い物カゴを持って帰って自家用に使用してる人みたいじゃないか。

「私が行商人の所に行くと、あのニンゲンのオスがオッパイばかりジロジロ見てくるの。そんで、たくさん出るだろって言われて。行くたびに樽を2個ずつ渡されたのよ。出る量はそんなに変わらないのに」

 レモネさんが、樽を借りた経緯を説明してくれた。
 行商人のニンゲンと言えども、男はみんなスケベなのだろう。あのGから目をそらすことは不可能だ。

「レモネさん用に借りて来たわけですか。でもミルクを納品するときは、樽ごと返してるんですよね?」

「レモネのミルクは僕が飲んでいるから、納品はしていない。たったの二百エノムで売るなんてもったいないよ」

「はぁ、さようですか。ところで俺、夜に3人のメイドさんから搾乳しないといけないんですが。キュアも合わせて一晩で最低9回は魔法を使うんです。こんな生活を続けていたら、体がもつか不安になってきました」

「はっはっは。君は若いんだから大丈夫さ。先に500ccくらい水を飲んでおいて、終わったら500ccを補給しなよ。それに、もっとレベルが上がれば今より楽になる可能性もあるよ」

「俺、レベル5のまま止まっているんですけど。どうしたらいいですかね?」

「何をモタモタやっているんだい? 低レベル縛りプレイでもあるまいし。村のメス100人や200人くらいオッパイさっさと揉み回してくればいいじゃないか」

「そんな簡単に言われても、できませんよ。俺は先生とは違うんです」

「ずいぶんと真面目なんだねぇ。揉み逃げ揉み捨てがイヤだと言うのなら、大人になったら産乳メイドを10人くらい雇えばいいさ。それなら1人1人のメスを責任もって、ずっと面倒見られるだろ」

 揉み逃げって……。ダメだ、この人の感覚にはついていけそうにない。
 でも、産乳メイドを増やすというのは、十分に現実的な方法だと思う。
 うちも、おじいちゃんの代には10人は抱えていたらしいし。
 俺も、いずれ独立したら自分の家にメイドさんを迎え入れればよいのだろう。レベル15くらいまでなら、なんとか到達できるかもしれないぞ。
 ただ、相当な食費が必要になりそうだ。それにたしか、メイド服を一式揃えるだけで1人あたり一万エノムも必要になるはずだ。
 いずれにせよ、もっと稼ぎを増やさなければならないな。

「やっぱ、それしかないですかね。そういえば昨晩、さっそく魔法での搾乳を試してみたんですよ。だけど、メイドさん達の様子がちょっと変で。もっと搾って欲しいとせがまれたんです。1日2回くらい、かけてはいけないんですか?」

「あぁー、言い忘れていたかな。あの魔法は、メスの乳神経を刺激する作用が強いんだ。ただでさえホル族のメスはニンゲン種と比べるとオッパイが何倍も敏感だろ。あんまり乱用すると大変なことになる。搾乳依存症と言ってね。ミルクを搾り尽して、もう出なくなっても何度でも求めてくるんだ。やりすぎると、最後は精神が崩壊して廃人になってしまう」

 そういうことだったのか。うちのメイドさん達も搾乳時に少し触っただけでも、やたらと過剰に反応するから変だとは思っていた。

「何それ怖い。危険じゃないですか」

「そうだよ。僕も過去に、何人もメスを壊してしまった」

 この男もロクなことしてないな。

「ちょっと先生、そんなことまでやらかしたんですか。依存状態になると治せないんですか?」

「ひとたび廃人になると、治療するのは大変なんだよ。両手両足を縛り付けて、搾乳を断つ生活を何日も続けないとならない。服がこすれるだけでも刺激するから、上半身を裸にしたまま仰向けでベッドに固定するんだ」

「禁断症状みたいなものなのか。恐ろしいですね」

「まあ、君もオッパイを大切に思うなら、やりすぎないことだ。どんなに頼まれても、心を鬼にして1日1回までにしておきなさい」

「でも、そんな強烈な魔法じゃ悪用する人がたくさんいたんじゃないんですか? けっこう簡単に覚えられますよね。極悪の乳魔術師の1人や2人いたら、女の子が廃人だらけになってそうですけど」

「そうでもないよ。おそらく、オスしか覚えられないのだと思うのだけど。何年もの搾乳を続けて下積みを繰り返し、やっと覚えられる魔法だからね。この村のオスは、普通は家事なんてしないでしょ」

「俺、そんなに何年も搾乳経験はないですよ」

「あとはオッパイを慈しむ心が必要なのだと、僕は思っているけどね。だから、オッパイを乱暴に扱うような悪いオスになんか覚えられやしないさ」

「そんなもんですかねぇ。なんか、あまり魔法を使いたくなくなってきました」

「適度な量さえ守ればメリットしかないから。オッパイが大きくなって産乳量が増える。体も健康になるし、美人にもなる。メスのストレスも発散されるんだ。遠慮することはない。毎日、搾ってあげれば喜ばれるさ」

「私は、デソン先生に魔法で搾乳していただいてるのよ」

「えぇー? レモネさん、そうだったんですか」

「こんなに大きくなったのもデソン先生のおかげです」

 なるほど。このGカップも、パイサックの効果なのか。
 オッパイを大きくするためなら仕方がない。俺は、今後も自宅でメイドさん達に魔法を続けることを決意した。
 お茶を飲みながら高尚な雑談をしていたら、1人の来客があった。

「こんにちわ。お世話になります」
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