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1章 前編

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 行商人へミルクの納品が終わり、無事に家に帰って来た。
 今日はグランに頼んで、ブツオカ魚粉とやらを買ってもらった。
 ダシがあるので、さっそくスープに使ってみようと思う。

 竈に火を付け鍋で湯を沸かす。魚粉は、1リットルで10グラムが目安と言っていたかな。
 先に少し味見をしてみよう。200ccの木製コップにお湯を入れ、少量を投下してかき混ぜてみた。飲んでみると、たしかにダシは利いている。
 ニボシか昆布のような、どこか懐かしい磯の風味がした。 

 それから、みじん切りにしたイモを鍋に入れ火を通す。塩とダシで味を調えた。
 試しに鍋に手をかざし、スープを鑑定してみた。

『魚粉野菜汁:飲料 ONF 乳房成長効果:C+ 産乳促進効果:B+』

 産乳促進がBプラスか。やっぱり水分が大事なのだろう。

 メインディッシュは、お好み焼きにすることにした。
 小麦粉を水で溶かしてかき混ぜる。パンを作るときより水分を多くして、少しトロトロにする。
 水が少ないと普通のパンになってしまう。水を多く入れ過ぎると、もんじゃ焼きになってしまう。その辺りの加減だけは間違えないように注意が必要だ。

  千切りしたホレンソをぶち込む。次に卵を割って入れカシャカシャと溶いた。

 くそぉ、順番を間違えたな。先に卵を溶いてから、あとから野菜を入れればよかった。まあ、どうせ腹に入れば大差はないから、別にいいや。
 熱して油を引いた鉄板の上に、ジューッとお好み焼き生地を垂らす。平べったい円形になるように、成形しながら焼いた。
 ああ、ヤバイ。どうやって裏返すかな。この家には、お好み焼き用のヘラなんて物はない。
 丸ごと1枚をグルリンとするだけのテクニックは習得していない。
 仕方ないので、片側だけ焼けたら鉄板上から包丁で半分に切る。
そして下側に包丁を差し込んでウリャっと裏返した。半分ずつなら、難易度は格段に低下する。
 焼き上がる一歩手前で、上から刻んだギィネをトッピングした。
 中に火は通っただろうか。箸で端を少しちぎり、味見してみる。大丈夫そうだ。

 よし、完成だ。最期に1つだけ問題が発生した。
 円形の食べ物を半月形に二等分してある。
 この状態からさらに、どうやって9等分にすればいいのか分からなかった。
 つい、お好み焼きを丸い形に焼いてしまったのが失敗だった。
 昨日は、正方形のピザを井の字に分割していたというのに。今日は完全にウッカリしていた。

「いただきます」

 何だかんだがあったが、夕食が開始した。

「こりゃ、うめぇ」

 グランがお好み焼きを絶賛していた。
 朝食のミルクパンは女性陣が喜んでいた。今夜のお好み焼きは、今朝ほどの反応はない。まずいわけではない。
 美味しいと言ってはもらえるが、単純なミルクパンに負けているようだ。

 その代りスープも、まあまあ好評だった。いつもと味が違うと言われた。今までの、お湯と塩だけとは段違いだ。
 スープはたくさんある。とにかくスープをガブガブ飲んでくれてかまわないと、みんなに伝えておいた。
 毎日あんなにミルクをドバドバ出しているんだ。1日に2リットル以上は水分を補給しないと、辻褄があわない。

 さて、搾乳会議を始めるとしようか。
 昨晩に搾って一手間を加えたミルクが、今日の午後に売却できたと説明をした。
 家計の収入を増やすために、今後も夜に搾ってはどうかと提案したのだ。

 従来は、1日に2回だけミルクを搾って行商人に納品していた。
 今後、1日3回の搾乳となると反対する人もいるのではないか、多少の不安もあったのだ。
 ところが誰からも文句はないようだ。せっかく出てくるのだから、売れるなら売った方が良いという考えなのだろうか。

「けっこうだと思います。どうせ元から1日3回は搾れるのですから」

 サヒラが産乳メイドを代表して賛成してくれたので、話が早く進んだ。

「それで搾乳量はどうする? 朝と夜とで出る量が違ってたりはしないか?」

「朝の方が出やすい気はします。ただ、そんな大幅に変わるわけではないです」

「毎回、同じペースで500ccずつにすれば分かりやすいとは思うんだけど。それとも、朝550cc、昼450cc、夜400ccとか、変則的な搾乳量にする案もある」

 どのようなペース配分が最適なのか、俺には分からない。
 もしかすると1回200ccずつ7回に分けるのが正しい可能性もある。
 ただ、あまりにも細かい量で搾乳回数が増えると手間が大変だ。

「1回500ずつだと、3回で1人あたり1.5リットルか。5人で7.5リットルになるんだろ。夜だけ400だと、1日の合計はいくつになる?」

 グランから総搾乳量について質問もされた。自分で計算するのが面倒なので、俺に足し算をさせようとしているのだろう。

「夜が400の場合、1日5人の合計で7リットルだよ」

「わざわざ、搾乳量をセーブしなくてもいいんじゃねえのか。出るのなら搾れるだけ搾ればいいじゃねえか」

「夜の分は加熱するから、少し蒸発して5%~10%くらい目減りするんだ。2リットルを売るには2.1~2.2リットルの搾乳が必要になる。だから、500ずつ3回でも厳密には7.5にはならない。夜に440ccほどの搾乳で、5人で1日の合計が何とか7リットルになると思う」

「私は1日に1.6リットルでもかまいませんが、セイカとセニィは1.5か1.4くらいかもしれません」

「俺は男だから分からないんだけど。あまり無理に搾りすぎると負担になったりしないのか? 一年中、限界までチャレンジし続けな
くても、本気で出る量の9割くらい搾乳すれば十分だと思うんだ」

「そうですね。普段は出そうと思えば、私は1回600ccは搾乳できます。以前、1日で最高2リットルを記録したこともあります。
ただ、その量で常に安定して出るというわけもありません。個人差もあります」

「カイホ君。セニィのことなら心配しなくても大丈夫だから。枯れ果てるまで全部、搾りつくして欲しいよぉ」

「いや、枯れ果てられたら困るんだ。人生は長いんだから。無理せず、細く長く生活していこうよ」

 搾れば搾るほど、ますますミルクの出る量が増えるという説もあるらしい。
 ただ、この世界のホル族に、それが当てはまるのか分からない。
 搾りすぎたせいで、ある日から出なくなったりしても困るのだ。

「カイホちゃん。お母さんも、サヒラと同じくらい出るから。1日5回でも搾りに来てくれてもいいのよ」

「いや、近親搾乳はちょっと……。母さんとヒビキさんの分は、ハルナにやってもらってよ」

「近親なんて言ったら、ハルナだって同じじゃない。ホル族では近親種付けだって当たり前なのよ」

「いやいやいや、ちょっと待って。俺の信条で、そういうことはしないんだよ。ハルナは女だから、別にかまわないでしょ」

 そんなことが当たり前だと言われても困る。転生して牛人の肉体にはなったが、心には地球人の常識が残っているのだ。

「もぅー。この子は、ときどき変なこと言うのねぇ」

「坊ちゃまが、良いと考える通りに、なされればいいと思います」

「そうだ、夜乳を売るなんてカイホが言い始めたことだからな。カイホが好きなようにすればいい。任せたぞ」

 任せるというのは、丸投げとも言う。グランは考えるのが面倒になったようだ。

「じゃあ5人で1日7リットル強の搾乳計画にしよう。1人あたり1日1.4リットルちょい。朝と昼は合わせて1リットル、夜は450ccを目安に搾乳を頼む」

「異議なし」
「もちろん、いいわよ」
「問題ないわ」
「はい、けっこうです」
「大丈夫です」
「大歓迎だよ」

 グラン、モーリア、ヒビキ、サヒラ、セイカ、セニィ。みんなが賛同の意を表明した。まだオッパイの出ないハルナとアキホも、首を軽く縦に振って頷いている。

「それで、夜の搾り方の件なんだけど。昨晩、サヒラ、セニィ、セイカの3人はやったから分かると思うけど。母さんとヒビキさんも同じようにして欲しいんだ。やり方をハルナにレクチャーしようと思うから、このあと見に来てほしいんだ」

「うん、分かったよ」

 搾乳会議は結審したようだ。
 忘れないうちに、このあと搾乳前に湯煎して使うタオルをモーリアに渡しておくことにした。

「あと最後に1つ、母さんに言っておくことがあるんだけど」

「何かしら? 母乳を飲みたいなら、いつでも甘えていいのよ」

「いや、もう飲まないよ。そうじゃなくて今日、行商人のところで買ってきた物があるんだ」

「何か、お買い物をしたの?」

「うん。蛇の皮を拾ったから、行商人に買い取ってもらったんだけど。その代金でコレを買ってきたんだ」

  厳密に言うと、蛇皮1枚は布巾1枚にしかならなかった。百エノムではタオルは買えないが、細かい説明は面倒だから省略した。
 俺は席を立ち上がり、モーリアに近づく。そしてタオルを手渡した。

「これはタオル?」

「そうだよ。大した物じゃないけど、これをプレゼントするよ。母さん、今までありがとう」

「まあ、なんていい子なんでしょ。カイホちゃんは天使よ」

 どうやら喜んでくれたようだ。ただの生活実用品だけど、プレゼントなんて物は言いようだな。

「ただ、まだ1本しかないから。完全に母さんの専用というわけにはいかないけれど。今夜から、ヒビキさんと2人で使って欲しいんだ」

「ありがとう。これを枕にして今夜は寝るわね」

「そうじゃない、枕には出来ないよ。まあ使い方は後でハルナから聞いてよ」

 タオルの授与が終わると、物言いがついた。

「お兄ちゃん。アキホにはプレゼントはないの? アキホもタオル欲しい!」

「ゴメン。タオルは1本だけで、アキホの分はないんだ」

「エーン。お兄ちゃんのケッチチー」

 悪いなアキホ、このタオルは巨乳専用の4人乗りなんだ。残念だけどONFのお前に席はない。ネコ型ロボットにでも頼むんだな。
 可愛い妹に対して、そんなことを俺が言えるはずがなかった。

「いや、待てよ。あ、やっぱりあるぞ」

「本当?」

「ああ、ちょっと取ってくる」

 俺は台所に行くと、今日の行商人からタオルと一緒に買った布巾を手に取った。
 まだ使ってないから新品であることは間違いない。これを妹に渡すことにした。

「アキホ。お前にやるのはコレだ。フキ・フキ・フキンっていう布だ」

「ワーイ。うれしい」

「いいか、それでテーブルを拭くと綺麗になるんだ。これから頼んだぞ。拭き拭きするのに使うんだ」

「うん、拭き拭きするよ。お兄ちゃん、ありがとう」

 ふははは。特に何も考えずタオルの他に布巾まで買ってしまったが、良い方向に転がったな。

「さて、夜のお勤めの準備をしなければ。ハルナ、食べ終わったら台所に来て手伝ってくれないか?」

「うん。もう食べたよ。それでカー君、何するの?」

 夕飯中、食べている間に竈の残り火でお湯を沸かしていたのだ。
 俺と姉のハルナの2人で台所まで行くと、鍋の湯を木のコップですくって搾乳樽の中に注ぎ込む。
 さっき、井戸水でやったのと大差ない。昨日もした作業だが、樽の煮沸をした。

「こうやって、熱い湯をかけると、汚れがよく落ちるんだ。そうするとミルクが美味しくなる」

「そうなんだ」

 汚樽は消毒だー。3本とも煮沸し終わった。
 水汲み桶は2つあるので、鍋の残り湯を空になっている桶の方に移した。
 空になった鍋には水を入れ、また余熱にかけておく。

 使い古しのタオル1本を手に取り、両手がふさがることになるので首に下げた。
 搾乳樽1本をハルナに持ってもらう。
 俺は、お湯を入れた桶と水ガメを左手と右手に取った。
 準備が整ったので、2人でメイドの部屋に移動した。
 複数の成人女性を相手に、これから俺がする行為はアレしかない。
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