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4章 前編

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 針金が探索魔法の射程距離外に飛んで行ってしまった、などとということはない。
 今まで数々のカップサイズを測定してきたのに、今回に関してはONFどころか一切ピクリとも反応を示さなかった。

「おかしい。ターゲットの名前が違っていたのかな?」

「おいおい、君は何をやっているんだ? 錬金術士じゃないんだから、乳魔術の探索魔法が金属や鉱物に効くわけが無いじゃないか。僕達がサーチできるのは、どう頑張っても動植物や天然素材までが限界だよ」

「えー!? すいません知りませんでした」

 くそぉ、マジかよ。
 俺は365日、オッパイのことばかり考えていた。
 だから、オッパイ以外の余計な物を鑑定するなんてことは頭の片隅にもなくて、パイサーチの検証が疎かになっていたのだった。

 そうすると、実質的には魔法無しで、模擬身体検査もガチの勝負になる。
 10分で、あんな細い針金1本を見つけられるのだろうか。
 ちょっと不安になってきたぞ。

「そろそろ準備できたんじゃないのかな。というわけで、しばらく君達2人で模擬検査をやっていなさい。その間に、僕は仕事を半分片付けてくるから」

「どういうことです? 先生がオブザーバーとして立ち会って、俺のやり方を点検してくれるんじゃないんですか?」

「本来はそうするところだけどねぇ。囚人が3人いるんだ。1人はカイホ君にOJTしてもらうとしても、時間がかかってしまうだろ。僕も、そこまで暇じゃないし早く終わらせて帰りたいんだ」

 俺も家に早く帰りたいのは同じ気持ちだが、先生は時間に焦っているようにも見えた。
 今日は絶対に残業しないぞ、という強い意思を感じる。

「もしかして、この後も治療院で別の仕事が予定に入ってるとか?」

「いいや。実は今日、リバーシブの書店で美乳少女画集を買って来たんだ。家に戻って一服したら、寝転がって眺めるつもりだよ」

「は? だけど先生は、今まで治療院で何百人も生身のオッパイを診察してきたんじゃないですか? 画集なんかを見るなんて意外ですねぇ」

「実際に手で触れられる本物が最高なのは言うまでもない。だけど、アートは別腹だよ」

「さようですか……」

「さてと。おーい、ミディアム君。針金は隠せたかね?」

 地下フロアの廊下側から、さっき俺達が居た独房の方へとデソン先生が声を掛けた。
 隠している所を覗き見したら勝負にならないので、俺は部屋から背を向けていた。

「ええ。もう私の方は、いつでも大丈夫です」

「では、今からスタートだ。制限時間は10分くらいを予定しているけど、僕が戻って来るまでとする。それじゃ、カイホ君。せいぜい頑張りな」

「はい」

 俺は1人でミディの元へと戻る。
 先生は廊下を進んで、別の独房の方へと歩いて行った。

「ブラザーカイホ。どうぞ、お手柔らかにお願いします」

「へへへ、悪いなミディ。俺も五千エノムがかかっているので、手加減するつもりはないぞ。そんで、針金は体のどこかに隠し持っているのかな?」

「それは教えられません」

 まず俺は、ミディの肢体を上から下まで舐め回すように観察した。
 いつもの巫女服だ。上は白色の小袖を身につけ、下は赤色の袴を穿いている。
 隠せそうな場所は、たくさんある。
 それでも触れば分からないはずがない。
 服の布地と金属の針金では固さが全く違うからな。
 ペタペタと軽く撫でていけば、手の触覚に引っかかると思う。

「まずは、ボディチェックだ」

 俺はミディの背後に立つと、彼女の肩に左右から両手を当てた。
 そのまま、ホコリを振り払うような仕草でパンパンと叩きつつ、少しずつ下へと手を進めた。

「ひゃんっ。そ、そこは……。くすぐったいです」

 脇を撫でるとミディは少し身をよじらせていた。
 そんなことはお構いなしに、俺は彼女の腰から太ももへと手を這わせる。

「ふむ。サイドには無いみたいだな」

「ふふふ。簡単には見つかりませんよ」

 身包みを全部、ひっぺがしてしまえば手っ取り早いのだが。
 流石にそれは、やりすぎになってしまうだろう。
 もしかして服の中に隠して無いという可能性もあるのだろうか。
 本物の囚人なら脱獄はできなくても、この独房内なら自由に移動はできる。
 壁や床、あるいは天井。
 どこかの隙間に針金1本を差し込むというのも考えられないことはない。

「まさか、ミディ。服の中に持ってなかったりするのか。どこに仕込んだ?」

「それは秘密です」

 室内をキョロキョロと見渡す。
 石造りで頑丈な牢屋だ。
 出入り口は、1メートル幅の狭い鉄格子扉だけ。
 床や壁の、建材になっている石の隙間を確認してみる。
 どこにも針金なんぞ落ちている気配はない。
 俺が室内を探す振りをしながらミディの表情を見るが、焦っている様子もなかった。
 こっちは囮か。やはりミディの身体の方が本命だ。

「こっちの方が怪しいな。女の子は髪も長いし、この辺りじゃないのか」

 今度は、彼女の頭を撫で回してみた。
 サラサラでフワフワだ。
 クンカクンカ、スーハースーハー。

「な、何をしてるのですか? おやめくさい」

「おっと。この辺りには、針金の臭いはしないな。金属は錆びた鉄みたいな独特の臭気があるから、俺は鼻を近づけると分かるんだ」

 ということにしておこう。
 もちろん、俺は変態ではない。
 他人の汗を舐めだけで、嘘をついている味かどうかを判別する特殊能力も持っていない。

「そうなのですか。ブラザーカイホは、まるで犬みたいですね」

「では、髪の毛に隠していないとすると……。さては耳だな。こっちか?」

 俺は両手で彼女の左右の耳たぶを掴んだ。
 頭部の高い位置に付いている、毛に覆われた大きくて丸みのある牛耳。
 耳の裏から指で撫で撫でしたり、耳の穴の中へ人差し指を近づけてコチョコチョと優しく掻きほじった。

「いやぁっ。ダメです。耳をそんな風にしては……。あぁっ」

「どうしたんだ? そんなに反応するということは、こんな所に隠しているのか。ここか? それとも、こっちか?」

「ひぃっ。耳になんて隠しておりません。そんな上の方ではないです。巫女は嘘はつきません。髪をオスに撫でられると恥ずかしいだけです」

「へぇ。巫女っていうのは正直者なのか。上じゃないとすると、こっちの下か?」

 首から上の頭周辺は、ほとんど完璧に調べ終わった。
 今度は一気に足元に目を向けるとするか。
 ミディは白い足袋みたいな靴下に茶色い木製の下駄を履いていた。

「嘘は言いませんが、答えは教えられません」

「この靴下を調べさせてもらうぞ」

 立ったままのミディの足元に、俺は片膝を着いて腰を下ろした。
 彼女の袴の裾を左手で摘んで少しまくり上げる。
 その流れから、右手でミディの足首を掴んで軽く握り込む。
 マッサージするような動作でモミモミしつつ、俺の手を彼女の踵から膝下あたりへと往復を繰り返した。
 細くてスラっとした足だが、ふくらはぎあたりはプニプニとして弾力の強いオッパイに近い感触でもあった。

「そんな下の方には隠していません」

「本当かなぁ? 足の裏あたりも確認させてもらうぞ」

 次に俺は両手と両膝を床につけ、土下座するようなポーズで顔をミディの足の甲に近づけた。
 クンカクンカ(2回目)。
 うーん、少しだけ汗っぽい濃厚な臭いがする。
 もし俺が靴下フェチだとしたなら、天にも昇る最高の心地に逝ったかもしれん。

 どうやら靴下の中に針金は隠していないようだ。
 俺は低い姿勢のまま、ミディの袴をさらに捲り上げた。
 そのまま彼女の太ももの方へと視線を向ける。
 しかし、見えそうで見えない。
 思い切りガバっと上に引き上げないと、パンツは確認できそうにない。

「そんな所を覗いてはいけません。そこは巫女の聖域です」

 ミディから、両手で袴の膝あたりを押さえ付けられてしまった。
 あの辺りも怪しくはあるが……。
 先に靴下の方の調査を完了させるべきか。

「あのさ、ミディ。立ってないで、腰を下ろしてくれないか。念のため、足の裏も触らせてもらうぞ」
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