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4章 前編

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 怪我をしたブルッサを治療してもらうため、とりあえず俺の家まで背負って運んだ。
 ダイニングでは、グランが1人でお茶を飲みながらボーッとしていた。
 うちの父親はヒモに近いので、だいたい家でゴロゴロしてばかりいる。

「ただいま」

「こんにちわ」

 おんぶしていたブルッサは玄関前で降ろした。
 すると、彼女は挨拶しながら勝手に家の中に入り込んだので、普通にグランから見咎められてしまった。  

「おう。なんだ、今日は種フレお持ち帰りか?」

「違うって。ブルッサが蛇に咬まれちゃったから連れてきたんだ」

「どうも。僕も、お邪魔させてもらいます」

 とりあえずブルッサはダイニングの椅子に座らせ、フックも家に上がってもらった。

「そんで、母さんかサヒラは起きてるのかな?」

「みんな昼寝してると思うぞ」

 ホル族の女性は、ある程度の巨乳になると強力な回復魔法が使えるようになる。
 だけど、女なら誰でも習得しているというわけではない。
 ブルッサのお母さんは、残念ながら使えないらしい。
 だから、怪我の治療は俺の家でしてもらうしかない。
 しかし、うちの女性陣も今は昼寝タイムに入っていた。

「うーん、どうしよう。起こしてくるかな」

「そんな、悪いわよ」

 瀕死の重傷だったら叩き起こしてでも回復を頼むところだ。
 だが、幸いにも今回のブルッサは軽傷だ。
 そこまで急ぐほどのことではない。

 ひとまず台所でお湯を沸かし、3人分のお茶を用意した。
 フックとブルッサにも一服してもらう。
 ちょっと迷っていたら、2号室の部屋のドアが開いて家族が1人出てきた。

「何? みんなでお茶会してたの?」

 俺のイトコにあたるヒビキが、パジャマ姿のままダイニングに現れた。
 たまたま目が覚めたのだろうか。
 2人の来客もいたので、何事かと不思議に思ったようだ。
 
「ヒビキ姉さん起きてきたのか。またブルッサが怪我したから、治療を頼みたいんだけど。いいかな?」

「寝てたけど、ちょっとトイレに起きただけ。まあ回復くらい、いいわよ」

 ブルッサの患部は足なので、横になって魔法を掛けてもらうことになる。
 ダイニングの床に寝かせるのも、女性に対して失礼なように思えた。

 そこで、布団の上でブルッサに仰向けになってもらうことにする。
 子供部屋の4号室に入ると、左右で姉のハルナと妹のアキホが昼寝している最中だった。
 他に空きスペースはないので、真ん中にある俺の布団を使ってもらう。
 ブルッサが敷布団の中央に腰掛け、部屋の入口側に足を向けた。

「では、お願いします。両足です」

「また、ガップリやられたわねぇ。かなり痛かったでしょ?」

「慣れれば、かろうじて耐えられないこともない激痛です」

 ブルッサは、最初のうちは大した傷ではないと言っていたはずだ。
 それが今では調子に乗って、どうも被害を過剰申告しているように思える。

「すぐ治してあげるわよ。快乳抱擁:ブレストキッス!」

 ブルッサは、左右を揃えて足を伸ばしている。
 そこに、ヒビキが服の襟を捲って少し上乳をはだけ出し、ブルッサのスネに押し付けた。
 眩しく白い光がほとばしると、ブルッサの傷穴がみるみる塞がっていった。

「お姉さん、ありがとうございます。もう歩けそうです」

「どういたしまして。でも、あんま無理しない方がいいわよ。咬まれて血もかなり出たんじゃないの? このまま家で少し休んでいきなさい」

「いいんですか? では、お言葉に甘えてしばらく横になっています」

「いや、ブルッサ。もう完治してるんじゃないのか。街道まで全力疾走してから、ボーデンさんと試合ができるくらい元気があるだろ?」

 そもそも蛇に咬まれた直後ですら、狩りを続行しようとしていたくらいだ。
 魔法で治療してもらい、傷も消えれば何も問題ないはずだ。

「アー、頭が痛い。なんだか目眩がするわ」

「嘘つけー。まったく、しょうがないないなぁ」

「あっそうだ。アタシが何年も前に使ってたネグリジェがあるんだけど。もうサイズが合わなくて着てないからブルちゃんに貸してあげるわ」

 どうやら物置部屋の木箱にしまい込んだままの古い寝間着があるらしい。
 ヒビキは1着を取ってきてブルッサに渡していた。
 普段、ブルッサは狩りの時にメイド服を着ている。
 戦闘用の勝負服らしいのだけど、どうも一張羅でそれしか持ってなさそうだった。

「これ着ていいんですか?」

「ええ。制服のまま寝たらシワになっちゃうでしょ」

「へぇ。ヒビキ姉さん、そんなの持ってたんだ?」

「まあ、アタシが子供の頃、グラデおじいちゃんが生きてたときは服も色々と買ってもらっていたんだけどねぇ。今では、ご覧の有様よ」

 俺の祖父にあたるグラデリールは、少し名前が長いので皆からグラデと呼ばれていたそうだ。
 優秀な魔術師で、よく冒険者とパーティを組んでダンジョンに狩りに行くこともあったそうだ。
 祖父は稼ぎが多かったので、昔は我が家も羽振りが良かったのだとか。

 グラデの息子、つまり俺の父親であるグランはあまり働かないので家計が逼迫しかけるほどになってしまっていたが。
 もう存在しない祖父のことを気にかけても仕方ない。
 俺は俺で、仲間と一緒に狩りをして金稼ぎをしている。
 そうして、少しでも家計の足しにして、今を生きていかなければならないのだ。

「まあいいや。じゃあ、ブルッサは体調が良くなるまで好きなだけ休んでろよ」

「アタシも、また寝てくるわ」

「おやすみなさーい」

 ヒビキは自室に戻った。
 俺とフックもダイニングに出る。
 ブルッサは、そのまま俺の布団に寝かせておいた。
 頭が痛くて目眩がするという設定を主張しているのだから、強制的に安静にさせておくより仕方ない。

「あ、ボス。僕も家に戻って掃除や洗濯をしないといけないんだ。すまないけどブルッサを2~3時間くらい置かせておいてもらうよ」

「分かった。あと、今日の分配だけど皮を2枚拾ってきたから、フックが両方とも持って帰ってくれ」

「いやいや。さすがに、そういうわけにはいかない」

 俺はブルッサとミルビー狩りに行って蜂蜜を集めれば、それなりの収入になる。
 蛇皮は嵩張る割には、そんなに高い物でもない。
 遠慮しているフックに無理やり押し付けておいた。

「まあ、気にすんな。俺は血を取ってきたから、もう皮は別にいいんだ」

「そうか、すまない。では僕はお先に失礼する。どうも、お邪魔しました」

 フックが帰宅し、俺はダイニングでお茶の残りを飲み干した。
 さて、この後どうするかな。

 とりあえず、カゴに入れて持って帰ってきた蛇血ビン2本を取り出し、ダイニングのテーブル上に置いておいた。
 すると、グランに見られて怪しまれてしまった。

「ぬぉっ。おい、カイホ。その赤い血みたいなのは一体何だ?」

「血みたいというか、スニャックの血だけど。狩りのついでに採血したんだ」

「そうなのか。それで、どうするつもりだ? たしかビン1本分くらいで、末端価格千エノムくらいになるはずだぞ」

 もし、それが本当なら、千エノムはかなりの大金だ。
 今まで蛇狩りで垂れ流してたのがもったいなく思える。
 ただし、あくまでも町での末端価格なのだろう。
 俺が行商人に査定してもらうと、例によって安く買い叩かれるに違いない。

「マジで? 蛇の血って、そんなに高いのか」

「もし全部売るんじゃなければ、父さんにも少し味見させてくれねえか?」

「うん? 別にいいけど、毒蛇の生き血だよ。飲んでも大丈夫なんかい?」

 これを飲んで、急にバタっと死んだりしても困る。

 万一、『ペロッ、これは青酸カリ!?』みたいな状態に陥ったら、目も当てられない。
 こんな父親でも、いなくなったら家族が悲しむからな。

「スニャックの生き血は、強い精力剤になるって聞いたことがある。カイホ、弟か妹が欲しくないか? 1日にコップ1杯くらい飲めば、おそらく夜に1ラウンドは戦えると思うんだ」

 こいつ、夜に一体誰と戦おうというのだ?
 違う意味で危険そうだな。
 やっぱり飲ませない方がいいだろう。

「ちょっと何言ってるか分かんない。アキホがいるから、もう弟も妹もいらないよ」

「せっかく蛇血があるのに、試さないなんてもったいないじゃねえか」

「あのさぁ……。でも、一応鑑定してみるか。パイサーチ!」


 俺はビンの蓋を開けて、中の液体に向かって魔法を掛けてみた。

『蛇血:飲料 ONF 産乳促進効果:A 精力増進効果:B』

 うわぁ、マムシの栄養ドリンクみたいな物なのだろうか。
 たしかに、成分と効用は強そうだ。

 以前、魔法で毒茸を鑑定したときは、しっかり毒茸と表示されていたはずだ。
 今回、蛇の血を鑑定しても毒という表示はない。
 飲料となっているので、俺の魔法に間違いがなければ飲んでも問題はないと思う。

 グランがさっきまでブリ茶を飲んでいたコップに、少量の蛇血をポタポタと垂らして注いでみる。
 試しに味見してもらうことにした。
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