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二章:ジャンという少年

11.初夏

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 忙しい春が過ぎていき、初夏も終わりが見えてきた。王都で行われている競馬シーズンもそろそろ終わりを迎えることだと思う。

 全ての母馬の出産を終え、一段落……と、言いたいところだけど、出産の次は、次の出産の為の種付けシーズンなので、まだまだ忙しいのが現状だ。

 基本的に、種付けは自分達の牧場の牡馬をつけるのだけど、競走馬に関してはちょっと違う。

 速さを求めた結果、血統にこだわるようになった為、速い馬の子種を貰うために一部の牝馬は別の牧場の牡馬に種付けして貰いに行くのだ。

 小さい頃は、この時期母馬がいなくなるなぁ……と、思っていたのだけど、そう言う理由だと知ったのはやはりシルヴァン様が教えてくれたからだった。

 牧場の経営については、ほとんど父さんと跡継ぎのダミアン兄ちゃんがしているから下働きの僕らにはあまり説明されない事も多い。聞けば、ちゃんと教えてくれるんだけどね。

「ジャーン。そろそろ子馬にミルクやってくれー」
「はーい」

 母馬達が他の牧場にいっている間、子馬達の面倒を見ていると、母馬達についていっている父さんの代わりに牧場を任されたダミアン兄ちゃんから声がかかる。

 ここ数年、跡取りとしていろいろ任されるようになってから、いろいろと仕事が板についてきた?って感じなダミアン兄ちゃん。そんな事を末っ子の僕が口に出したら怒られるから黙ってるけど、安心して指示が聞ける兄ちゃんなので僕としては兄弟の中では一番好きな兄ちゃんでもある。

 跡取りとしてもしっかりしてきたし、年齢も二十を過ぎたからそろそろ、お嫁さんとかもらうんだろうなー。結婚式に僕も出れるかなー。とか、考えながら、子馬達のミルクを用意する為に仮眠室の正面にある作業部屋の扉を潜った。

 倉庫というほどでもないけど、様々な物が置かれている作業部屋の片隅にはミルクの保存庫が置かれており、早朝に絞った重種馬と呼ばれる大型馬のミルクがバケツほどの大きさのミルク缶に入れられた状態で保存されている。

 これが母馬が他の牧場に行っている子馬達にとっての大事なご飯。残っている母馬に授乳してもらう事もできるが、自分以外の子供を嫌がる母馬も多いから、こうして乳量の多めな大型馬である重種馬の子達から取ったミルクを与えているのだ。

 重種馬は、中型で軽種馬な競走馬とは違い体が大きく、軍馬や馬車馬として使われている子達で大きくて競走馬の二倍ほどの重さがあるが、どちらかというと気性は穏やかで少し気性の荒いところもある競走馬と比べたら扱いやすいかもしれない。

 その分、力が強いから気をつけなきゃいけないところも多いけど……馬自体、小型馬であっても人より力が強いからどんな子でも気をつけなければいけないのだけど。

 そんな事を考え苦笑しながら、保存庫から取り出したばかりの冷たいミルクを加温器に入れる。保存の為に冷やしているけど、あまり冷たいとあまり飲まなかったりするから温度は大事だ。

 こうやって何気なく使っている二つの装置だけど、普通なら平民の僕達では一生働いても買えないくらいに高い魔導具だったりする。

 領主様の馬を預かる牧場だから特別に領主様から貸し与えられていて、使うのは父さんとダミアン兄ちゃんと僕くらいしかいない。

 他の兄弟は、触らせるのが不安だと父さんは言うし、母さんは高すぎる物は触れるのも怖いと魔導具どころか馬も触れない。叔父さん達は、自分達以外に使える人がいるなら、ミルクの作成だけは任せるって感じだ。

 最近では、僕が居なくなったら父さんとダミアン兄ちゃんが忙しくなるんじゃないかな……?と、心配だったりする。

 それでも、シルヴァン様のところに行きたいって気持ちは変わらないんだけど。

 そんな事を考えていたら一つ目のミルクがいい感じに温まる。

 二つ目のミルクを加温器に入れてから、一つ目のミルクが入ったミルク缶を抱えて、子馬達の馬房へと向かう。

 ミルク缶を抱えた僕にお腹を空かせた子馬達が落ちつきなく、馬房から顔を覗かせた。
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