上 下
9 / 32
一章:出会い

8.十二歳の春

しおりを挟む
 そんな優しいシルヴァン様だが、誰にでも優しいと言うわけではない。

 馬が好きな人には優しいけど、見せかけだけだったり、下心ある人大嫌いなのだ。

 長女であり、夢見る乙女なエマ姉ちゃんが、僕みたいな子供に優しいのなら、私にも優しいのでは!?と、暴走し貴族の妾を狙った結果、不敬罪にはならなかったけど、メチャクチャに軽蔑されたし、父さんにメチャクチャに怒られてた。

 シルヴァン様、領主様の息子であると同時に競馬界で活躍したから準男爵の爵位持ち。

 一代貴族だけど、立派な貴族家当主なお方である。

 そんな方の妾に収まろうとする辺り、自分の姉ながらにも無謀過ぎて恐ろしかった。

 これが他の貴族だったり、領主様の耳に入っていたら、一族郎党縛り首だったんじゃないかなと思う。

 シルヴァン様が自身の領分で納めてくれた事が、本当にシルヴァン様が穏やかな方で良かったなと実感する。

 だけどそのせいでエマ姉ちゃんは、うちに置いておけないと村の青年の元に嫁がされたし、次女のアニー姉ちゃんも馬鹿な事を考えないようにと強く言い聞かせられてた。

 そんな事がありつつも、シルヴァン様はうちの牧場を気に入ってくれているし、僕自身とも相変わらず付き合ってくれているので、この二年はなんだかんだ楽しかった。シルヴァン様がまだ僕を雇いたいと言ってくれるなら、これがこの牧場で過ごす最後の春だろう。

 本当は、春になる前……年明けに十二歳を迎えていたからその時の冬にシルヴァン様が来た時に誘われたのだけど……今春生まれる子馬達の世話までは手伝いたかったので、待ってもらうことにしたのだ。

 今はある程度の馬が出産を始め、出産や仔馬の世話で一年で一番忙しい時期なのは間違いない。それと同時に新しい命が産まれる嬉しい季節でもあるのだ。

 ぼんやりと考えたまま、窓から外を見れば、まだ薄暗く、夜明け前だというのがわかる。

 今日は、ダミアン兄ちゃんが厩舎に泊まり込んでいるはずだ。夜中に父さんが起こされる様子もなかったから夜中に生まれた子はいないのだろう。それでも、この数日で生まれそうな子がいるんだよなぁ……。と、思ったら、自然と体が起き上がっていた。

 寝間着のまま二段ベッドから降りて、マルセル兄ちゃんとジャック兄ちゃんが眠っている中をこっそりと抜け出すように部屋を出る。

 廊下を抜けてリビングへと出れば、リビングには父さんが、そこから続く台所には母さんが居た。

「なんだ。早いな」

 僕に気づいた父さんが声をかけてくる。

「うん、目がさえちゃって」
「そうか」
「ごめんなさいジャン。まだ、朝ごはんできてないのよ」
「大丈夫。皆と食べるから」

 父さんとのやり取りに気づいた母さんがこちらを見て謝ってきたので大丈夫と言葉を返す。まだ起きたばかりでお腹空いていないしね。

「それより、ちょっと厩舎見てくるね」
「ああ、転ぶんじゃないぞ」
「大丈夫ー」

 心配してくる父さんに心配性だなと思う。確かにまだ暗いけど、厩舎まで行くには問題ない暗さなんだから。

 外に出て、僅かに白み始めた空を見上げる。もう春とはいえ、夜明け前はまだ肌寒い。冷たい風に少し体を震わせながら、僕は厩舎へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

パーティーを追放された雑用係の少年を拾ったら実は滅茶苦茶有能だった件〜虐げられた少年は最高の索敵魔法を使いこなし成り上がる~

木嶋隆太
ファンタジー
大手クランでは、サポーターのパーティー追放が流行っていた。そんなとき、ヴァレオはあるパーティーが言い争っているのを目撃する。そのパーティーでも、今まさに一人の少年が追放されようとしていた。必死に泣きついていた少年が気になったヴァレオは、彼を自分のパーティーに誘う。だが、少年は他の追放された人々とは違い、規格外の存在であった。「あれ、僕の魔法ってそんなに凄かったの?」。何も知らない常識外れの少年に驚かされながら、ヴァレオは迷宮を攻略していく。

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

処理中です...