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一章:出会い

3.シルヴァンという男

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「そう言ってもらえると嬉しい。家族には、馬ごときに何をと言われてな……その馬ごときが社交の役にも立っているというのに」

 眉間を寄せ、ため息を吐く姿すら美しいのだなと、思いながら彼を見上げる。

「あー……いや、話がそれたな。まぁ、なんというか……馬の様子を見に来たのもあるが、私の下で働いてくれる人間を探しに来たんだ。成人しているか……独り立ちのできる十二歳以上の平民で馬の扱いを慣れている者をな」

 彼の条件を聞いて、思い当たるのは三人いる兄ちゃん達だった。ダミアン兄ちゃんは、牧場の跡継ぎ?らしいから無理かもしれないけど、他の兄ちゃん達は、マルセル兄ちゃんが十六で成人してるし、ジャック兄ちゃんも十三だからだ。あとは、叔父さんの所の従兄の兄ちゃん達もいるからそっちかもしれないけど。

「へー……じゃあ、うちの兄ちゃんの誰か連れていくの?」
「そうしたかったんだが……私としては、君がいい」
「……僕?」

 彼の条件には当てはならないと考えて……だから、さっきまだ早いとか言っていたのかと思い当たった。

「君の馬の扱い方を見て、部下にほしいと思った。いろいろしがらみがあって……親の影響のない人間が欲しいんだ。……まあ、この牧場も父親の所有物ではあるんだがな」

 その言葉で父さんは牧場の主だけど、その上に領主様が居ると言うのを思い出す。その領主様が父親?と言う事は……。

「……領主、様……の?」
「息子だな」

 ようやく事態を飲み込み、あわあわとし出した僕に彼は笑いながら僕の言葉の続きを答える。

 領主様というのは、この辺りで一番えらい人だというのはわかる。

 そして、その息子という彼が僕よりずっとずっとえらい事を、ようやく自覚した。

 それでも、正しい対応?というのはその時はわからなかったのだけど。

 戸惑い続ける僕に彼は苦笑しながら言葉を続ける。

「あまり気にしなくていい。親としてもらったことなど、貴族としての最低限だ。義理はあるが恩はない」

 無感情に吐かれた言葉に、なんと言っていいのかわからないまま戸惑っていたら、柔らかく微笑まれた。

「そう言えば名乗っていなかったな。私はシルヴァン。シルヴァン・ラス・ヴィ・ヴァロワルージュ。騎手を引退し、調教師に転向したばかりの男だ」
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