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頼りになる友人と侍女

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 私は仲の良い友だち二人と、学園から徒歩でカフェに向かった。
 二人共、家格の釣り合う婚約者がいる。

「素敵なお店!」

 誘われて入った店内は、装飾に色とりどりの紐が使われていて、窓からの光が当たると、ゆらゆらと幻想的な雰囲気を見せる。

 まるで、組み紐のよう……。
 私は胸のポケットに忍ばせてある組み紐を、そっと押さえた。

「そう言えば、この前の豊穣祭で、恋を叶える組み紐って売ってましたでしょ?」

 友だちの一人、ライラの言葉にドキッとする。

「あら、ライラ、買ったの?」

 もう一人の友だち、ミオンがニコニコと訊く。
 どちらも子爵令嬢だ。

「いいえ。お店の人に訊ねたの。自分で作っても、同じ効果があるのかって」
「まあ、それで、お店の人は何て?」

 私もぜひ、知りたい。

「うふふ。しっかりと想いを込めて作ったら、同じだろう、ですって」

 窓からの風が、店内の紐を揺らす。

「そ、そうなのですね。ライラは作ってみるのかしら?」

「ええ、シュリー様も如何でしょう? あ、でもシュリー様にはマークス様がいらっしゃいますね」
「それを言うなら、ライラも私も婚約しているわよ」

 ミオンがアップルティーを飲みながら、私とライラを見つめた。

「私ね、もっと婚約者と仲良くなりたいのです」

 ライラが頬を染める。

「そうね、私も親同士が決めたお相手なので、なかなか本音が言えないから、もっと素直にお話したいわ」

 ミオンも頷く。

「あ、私も……」

 小声で私は言う。
 せっかく縁あって結ばれた婚約なんだから。
 できればもっと仲良くなりたい。
 マークスの本音を聞きたい。

 ねえ、私のこと……。
 どう、思っているの?

「じゃあ、これから放課後、少しずつ作っていきましょう」

 ライラの提案に、ミオンも私もコクリと首を振る。

 そんな時だった。
 店の奥の方から、男子の大きな声がしたのは。

「俺がアイツのこと、本気で好きなわけ、ないだろう? 地味でつまらない女だぞ」

 胸に金属音が響く。
 ライラもミオンもお喋りを止めた。

 声の主は。
 マークスだ。

「じゃあ、なんで送り迎えまでして、溺愛してるの?」

「溺愛? まさか! アイツの姉と妹は、美人で可愛いんだ、アイツと違って。だからアイツと一緒にいたら、仲良くなれるだろう? もしかしたら、俺を選んでくれるかも……」

 それ以降の言葉は、聞きたくなかった。
 顔色を変えた私を見て、ライラとミオンはそっと席を立ち、私の手を引き店外へ出た。

 気付けば私は、ポロポロと涙を流していた。
 ライラが私をベンチに座らせ、ミオンはハンカチを濡らして私の顔を拭いてくれた。

「ご、ごめんなさい。せっかく美味しいお茶を頂いていたのに……」

 ライラは首を横に振る。
 二人共、お店で聞こえてきた声の主と、私との関係を分かっているのだ。
 ミオンは私の手を取り、ギュッと握ってくれた。

「ねえ、シュリー様。貴族の宿命のような政略結婚であっても、お互いに敬意を持ってお付き合いするものだと、私は母から聞きましたの」

 ライラの言葉で私はまた、涙が零れそうになる。

「女性の方だけ、我慢する関係って良くないと思うの、私。だから、言いたいこと、伝えたいことは、しっかり言うことにしているの」

 ミオンの手は温かい。

「あ、ありがとう」

 落ち着いた私は、大丈夫だと二人に伝えた。

「やっぱり、組み紐、自分で作ってみたいわ」

「「はい!」」

 落ち着きを取り戻した私は、ライラとミオンと一緒に、布や糸を扱う店で何本かの紐を選んだ。

 
 邸に戻ると、先に帰っていた姉のモニクが目を丸くして私を見た。

「あらあ、どうしたの? お一人様で帰宅なんて」
「え、ああ、お友だちと買い物に行ったから」

「へえ、よくマークス様が許したわね。それとも何? 仲違い? 豊穣祭も一人で行ったみたいだし」
「一人じゃないわ。ヨナと一緒だったもの」

 姉は肩を竦めて立ち去った。

 みんながみんな、お姉ちゃんのように婚約者に、大切にされているわけではないのよ。
 姉の背中に囁いた。

「お帰りなさい、お嬢様」

 ヨナが温めたミルクと焼き菓子を持って、私の部屋に来た。
 ほっとする飲み物だ。

「ねえ、ヨナ、聞いてくれる?」
「はい、いくらでも」

 私は先ほどの店内でのマークスの発言と、その後の友人たちとのやり取りをヨナに伝えた。

「まあ、なんですって! あの坊ちゃん、そんなこと言ったんですね! ヨナは許せないです。もう旦那様に言いつけるレベルですよ」

 また、私の代わりに怒ってくれた。
 だから私は苦笑する。
 
「もういいわ。それよりヨナ。組み紐の作り方、知ってる?」

 ヨナは爽やかな笑顔を見せる。

「お任せください」

 良かった。
 明日から、うじうじ悩むよりも手を動かそう。

「で、お嬢様。組み紐の効果、どんなものにするんです? いっそ、イヤな相手との縁切り効果にしちゃいましょうか?」

 それも良いなと私は思った。
 嫌な縁を切らないと、新しい出会いはないと思うから。
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