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王弟の事情 side王弟

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◇◇王弟の一人語り◇◇
 
 
 まずは基礎的な質問からだ。

 元王太子だったマキシウスの御母堂は誰だ?
 そう、正解。オクトラ伯爵家のヴィエーネ様。
 側妃? 君も気付いているだろう。本来は彼女が第一妃、すなわち正妃の予定だった。

 何故って?
 陛下が惚れこんで、いや、それだけじゃないな。
 この国を想って正妃に迎える予定だった。

 ところで、オクトラ伯爵については、何か聞いているか? 
 ああ、何も知らないんだな。
 オクトラ家は、元々は他国出身だ。
 何代か前の当主がフォレスター国へと移り住んで、功績が認められて爵位を得た。

 貴族名鑑には、そう書いてあっただろう?

 そう、その「まさか」だよ。
 オクトラ家のルーツは、リスタリオ国にあるんだ。
 しかも、リスタリオの祭祀を司る、名門だ。

 リスタリオの祭祀に、必ず必要な物がある。
 それは水晶だ。
 オクトラ家は、掘り出した水晶を正確に成形する技術を持っていた。

 その技術を我が国が欲して、オクトラ家を招聘したというのが真相だ。

 そのオクトラ家の令嬢を兄上が見染めた頃、リスタリオ国でも少々問題が生じた。
 祭祀には、道具を揃える他に必要なことがある。
 何だか分かるか?

 まあ、分からんだろうな。
 祭祀を行う者だ。我が国では司祭がそれに当たる。
 リスタリオは、聖女と言って、特有の能力を持つ女性が行っていた。

 その聖女の能力を持つ者が、リスタリオ国内では見つからなくなった。
 理由は不明だが。

 そして、リスタリオの諜報部が調べた結果、オクトラ伯爵家のヴィエーネ様こそが、聖女の能力を持つ人だと判明した。


 リスタリオからヴィエーネ様を求めて使者が来た時には、既に兄上は仮初婚を済ませていた。
 勿論、ヴィエーネ様を手放すなんてとんでもない。

 戦が起こりそうなほど、わが国とリスタリオ国には緊張が走った。

 どうした? 顔色が悪いぞ、トールオ。
 結論として、戦争にはならなかったよ。
 ヴィエーネ様が正妃を返上し、生まれたばかりのマキシウスを連れて、リスタリオにしばらく滞在したのだ。聖女としてのお勤めも、次の聖女候補が見つかるまでの数年間、ヴィエーネ様がこなしていた。

 まあそれでも、火種は残ってしまったが……。

 これで分かったか?
 リスタリオ国に残った火種は、ヴィエーネ様が儚くなられたことにある。

 火種を付けたのは、現正妃、すなわち君の母親だ。
 これ以上の話となると……。

 あれ、もういいのか?
 それでも君がリスタリオ国に招待状を送ると言うなら、私は止めんよ。
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