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番外

平行線が交わる時 その1

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殿下とアルとパリトワの、幼少時代のお話です。
興味がありましたらどうぞ。

*****


side パリトワ


 それはまだ、性別関係なく、勿論爵位も関係なく、自分の周辺にいた同じ年齢の子どもたちと、屋外で遊んでいた頃だった。

「パリィ。明日は王宮の庭園でパーティがあるから、お父さんと一緒に行くんだよ」

「ええっ……。明日はアリッシーとアルと、昆虫採集に行く約束なのに」

「ああ、アリスミー殿下もパーティにお見えになるから、約束は延期だな」

 テンションがぐっと下がったが、父の命令は絶対だ。

 私はこのシャギアス王国で、王家に次ぐ権力を持つ家に生まれた。
 筆頭公爵アニックス家。それが我が家だ。
 王宮で財務大臣を務める父は、現国王の従甥だとか言う。

 だから、私と王太子(予定)であるアリッシー、じゃない、アリスミーも、どこかで血の繋がりがある。
 そのためなのか、私は彼の考えが手に取るように分かる。
 ま、単純だからね、王太子。

 しかし、子ども集めてパーティなんて、何しろって言うんだ?
 ドレスって面倒なんだよね。

 そう思った瞬間、私の頭に、いくつかの絵が浮かんだ。


 アリッシーが倒れる。
 流れる血。
 叫ぶ女性たち。
 翻るドレス。


 何、これ……。
 アリッシーに、何かが起こる?

 たまに私の頭には、唐突にリアルな絵が浮かぶ。
 それは後になって、実際に起こったことだったと判明するのだ。

 要するに、私は少し先の未来を、掴む瞬間があるらしい。
 王族の血を引く者は、異能を持つことがあるという。
 となると、未来を予見する能力を、私が持っていてもおかしくはない、かな。


 私は手紙を書いて、早急に殿下に届けて欲しいと執事に頼んだ。




 翌日、滅多に着ることのないドレスに身を包み、私は渋々王宮の庭園に行った。
 
「よっ! パリィ」

 真っ先に出会ったのはアリッシー。ああ今日はアリスミー殿下か。

「殿下におかれましては、益々のご健勝のことと存じます」

 一応膝折礼をしてみる。
 この前習った。

「すげえ、パリィが令嬢みたいだ」
「令嬢だし」
「なんだっけ、こういうの。『御者にも正装』?」

 ニヤニヤ笑う殿下こそ、いつもはぼさぼさの髪を分け、白いタキシードなんか着ている。

「その言葉、そっくりお前に返す」

「ドレスは綺麗だね、パリトワ。シャウラン島固有種の白アゲハみたい」

 殿下の後ろに、アルことアルバストがいた。
 コイツは本当に、言葉使いが下手だ。
 『ドレスは』って何だよ! 固有種のアゲハなんて知らんわ。

 ふいに、アリスミー殿下が真顔になった。

「読んだよ、手紙」
「うん」
「対策は取った。安心しろ」

 アリスミー殿下が私に向かって拳を突き出す。
 私も突き出し、自分の拳を合わせた。


 パーティには、王都周辺の伯爵家以上の子女が、父親や母親と一緒に出席していた。
 子女たちは、十数名であろうか。
 主催者は王妃である。
 皆、親たちに手を引かれ、王妃へ挨拶をする。

 王妃の横には宰相が名簿を持ち、チェックをしている。
 宰相は、アルバストの父上だ。
 
 王妃への挨拶が済んだ子女たちは、次にアリスミー殿下の前に進んでいる。

 この流れを見る限り、アリスミー殿下の婚約者を見繕うパーティのようだ。
 私は遠慮しよう。

「王妃様へご挨拶に行かれないのですか? パリトワ様」

 振り向くと、少女とは思えない色香を持つ、ラリアがいた。
 あれ? 今まで何処にいたの?

「いや、私は行かない。それにラリア、『様』いらない」

「まあまあ、そういう訳にも……。ではパリトワ、二人で一緒に行きましょうか」

 ラリアに引っ張られて、私も王妃に挨拶した。
 それよりラリア、なんでそんなに力強いの?
 私より華奢だよね。

 ラリアと私は挨拶が済んだので、お菓子やジュースが並んでいるテーブルに向かう。
 私たちのあとから来た、どこかの子女とその母親が、王妃の前で騒いでいた。

 チラリと見ると、お人形のように可愛らしい少女を連れた、少女の三倍くらい横幅のありそうな母親が、唾を飛ばす勢いで、娘の売り込みをしているみたいだ。

「ああ、グロリアス伯爵夫人ね」
「へえ。有名人?」
「そうねえ、『悪名高き』ってところかしら」

 ラリアは小首を傾げて微笑んだ。

 さすがに王宮でのパーティは、見たこともない果物や、一口サイズのケーキ類がたくさん並んでいる。甘い香りが庭園全体に流れている。
 咽喉が乾いたから、ジュースでも飲もう。

 そう思ってグラスに手を伸ばした、その時だった。
 微かな異音が聞こえる。
 まるで、誰かが低い声でハミングをしているような……。


「気をつけろ! ハチだ! ハチの大群が来るぞ!」 

 聞こえていたのは、虫の羽音だった。
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