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学園生活

幼馴染の嘆息・ウルスの愚痴

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side ウルス・プラウディ


「もう、婚約なんて破棄してやる!」

 叫んだ俺にプイっと背を向け、ステアは会場から出ていった。
 カッとなって吐き出した自分の科白に、俺は苛立つ。
 ステアにも、自分にも……。


 ステアの怒った顔もふくれっ面も、可愛いと思ってきた。

 食べ物の好き嫌いが沢山あって、朝起きるのが苦手。
 人を待たせることは平気でも、自分が待つのは大嫌い。
 そんな我儘令嬢だが、だからこそ可愛い存在だと。

 なぜだろう。
 最近、ステアの我儘に、ついていけなくなってきた。

 このまま学園卒業と共に結婚して、子どもを作って、領地経営をして、年を取って……。
 自分の未来に、夢が持てなくなってきた。

 原因は、分かっている。

 フローナ・ドロートの存在が、俺の心を搔きまわす。

 フローナは、幼馴染で俺と同じ田舎育ち。
 いつでも元気いっぱいに、野山を走り回っていた少女だ。
 生き物が好きで、泥だらけになっても気にしない。

 俺の母はフローナを気に入って、可愛がっていた。

「将来、ウチのお嫁さんになる?」

 母がフローナに言うと、フローナも頬を染めていたから、満更でもなかったろう。
 俺にとっては、妹のような存在だった。
 可愛がってはいたが、恋愛対象ではなかった。

 俺はフローナの従姉のステアに、一目惚れした。
 儚げな風情に、俺が守ってやらなきゃ、そう誓った。
 ステアの家は伯爵家で格上だから、結婚は無理かと思っていたが、ステアの父上であるグロリアス伯が許してくれた。

 体が弱いステアの婚姻は、難しいと思っていたそうだ。
 先に俺が学園に入るので、ステアの勉強を助けて欲しいとも言われた。

 ステアの母上は、フローナの叔母に当たるが、最初は俺に冷たかった。
 ステアの美貌なら、田舎の子爵なんぞ目ではなく、王都の侯爵あたりに嫁がせたかったらしい。

 学園に入学し、俺は成績上位のクラスに在籍出来た。
 ステアのためにも頑張ろうと、勉学や剣術に真剣に取り組んだ。

 だが。

 凡人の努力を嘲笑うかのような、天才肌の連中が、学園には揃っていた。
 彼らはそろって高位貴族で、座学の勉強は勿論、剣術や芸術にも優れ、第一王子率いる生徒会のメンバーになっていった。

 俺もその中に、入りたかった。
 王子やその配下のメンバーと、肩を並べてみたかった。
 成績優秀者として、表彰されたいと願った。

 特に同じクラスのアルバストのことを、入学当初の俺は、密かにライバル視していた。
 彼は爵位を気にすることなく、俺を友だちの一人として扱ってくれていた。
 見た目も中身も良い奴だ。それもまた、癪に障る。

 恵まれた立場と容姿、そして頭脳を持つ人間は、そうでない者にも概ね優しい。
 それは、俺のように中途半端な身分と、平凡な能力や容姿を持つ者にとって、残酷な優しさだ。

 次第に勉強へのやる気が失せた俺は、ステアのことだけ考えて、ステアと過ごす時間を増やして日々を送った。
 ステアは学園を休みがちだし、元々基礎知識もなかった。
 彼女に勉強を教える時だけ、俺は自分の有能さを確かめることが出来たのだ。

 ところが。

 田舎から学園にやって来たフローナは、元々賢かったけれど、入学成績はトップだったという。
 更に、いつの間にか、高位貴族連中のサロンのような生徒会執行部へ抜擢された。
 アルバストと一緒にいるところも、しばしば見かけるようになる。

 おかしいだろう。
 俺が手に入れたかった生徒会の役職を、中等部一年で手に入れるって、何の魔術だよ。

 機を同じくして、父からは領地の収穫が年々落ちていると聞いた。
 どうやら土の質が、劣化しているらしい。
 早く卒業して、領地に戻るようにと。

 その話をすると、ステアは不機嫌になる。
 彼女は産まれた時から王都暮らしだ。
 領地に引きこもる生活なんて、考えられないという。

 母は、ステアのことを敬遠していた。
 田舎嫌いで、虫がダメ。
 朝は遅いし、体が弱い。

ステアあのコは、ウチに嫁ぐの無理じゃない? やっぱり、フローナちゃんの方が……」

 いやだいやだ!
 ステアが良いんだ。ステアじゃなきゃダメだ!

 学園で久々に会ったフローナは、綺麗になっていて内心ビックリしたけど、きっと俺よりも頭が良い。

 いやだいやだ!
 俺は、自分より頭の良いヤツは嫌いなんだ。
 俺が欲しかったものを、あっさり手に入れてしまうヤツは許せないんだ!

 でも、ステアに婚約破棄って言ってしまった。
 伯爵や父に何て言い訳する?
 仲直り、出来る?

 俺は、好きになった女性と、本当に幸せな結婚が、出来るだろうか。
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