初恋は実らなかったけれど、熱心に花壇のお手入れをしていたら、もっと大きな恋が向こうからやって来ました!

ウサギテイマーTK

文字の大きさ
上 下
14 / 45
学園生活

女子会トークは素晴らしい

しおりを挟む
 生徒会室に女子だけが残って、あれこれとお話しました。
 
「では、私が蜘蛛だけはダメな理由を……」


◇◇ 



 それは雨上がりの朝でした。

 私が六歳ぐらいだったと思います。
 その前日に、ステアとステアのお母様、つまり私の叔母のセラシア様が遊びに来て、お泊りしていました。

 父は大喜びで二人をもてなします。その日の朝食後もそうでした。

「いやあ、相変わらず二人は可愛いなあ」

 私には見せたことがないような、父の笑顔です。

「女のコは美しく可愛いのが一番! どんなに賢くても、ねぇ」

 叔母様は母をちらちら見ながら、含み笑いをします。
 その頃のセラシア叔母様は、まだまだ体型を維持していて、この日も黒いレースのドレスが、よくお似合いでした。

「本当にそうだな。ウチのフローナも、ステアくらいの顔立ちだったら、高位貴族への嫁入りも……」

「お兄様、人間向き不向きがあるのよ。ステアはこの前、第一王子様のお茶会にご招待されてね、大人気だったわぁ。殿下にもお声をかけていただいたし」

 叔母の真っ赤な唇が、横に広がっていました。

 母は私を誘い、部屋を出ました。
 父と叔母はいつまでも、高笑いを続けていました。

「少し、お外に遊びに行っても良いわよ」

 私は邸の庭から、遊び慣れた小径を目指します。

 木々の小枝は、雨の雫が残っていて、風が吹くとパラパラと落ちてきます。
 見上げた枝と枝の間に、レース編みのような模様が見えました。
 白い糸と糸が、魚とりの網のように広がっています。

 その糸に止まっている、小さな蝶々がいました。
 羽をぱたぱた動かしていますが、飛べないようです。
 羽が雨に濡れてしまったのでしょうか。

 私は、蝶を取ろうとしました。
 陽の当たる場所で羽を乾かしたら、飛べるかもしれません。

 そっと蝶々に手を伸ばしたその時でした。 
 白い網の上から、それがずいっと現れたのです。

 蜘蛛でした。
 真っ黒い背中に、女性の顔のような模様をつけた、大きな蜘蛛でした。

 それは私を嘲笑う、叔母の顔に似ていました。


いやああああああ!!


 私は叫び、白い網をブチブチ引っ張ります。
 白い網、すなわち蜘蛛の糸はなかなか切れません。
 蜘蛛は私に向かって、長い手足を伸ばします。
 そして口を開きます。

 蜘蛛の糸が私の顔に飛んできます。
 私の顔や頭には、べったりとした蜘蛛の糸が張り付きます。

 あ。

 蝶々がよろよろと、飛ぶのが一瞬見えました。
 良かった。蝶が飛べた。

 私は一目散に、邸に向かって走りました。


◇◇


「というようなことがありまして、蜘蛛は苦手なんです」

 私は語り終えました。
 今、生徒会室にいるのは、女子だけです。

 アルバスト先輩が害虫駆除のために、「蜘蛛取り」に行くと言って、男子役員は一緒に行きました。

「フローは? 行かない?」

 先輩に訊かれましたが、私はやんわりとお断りしました。
 私の答えにパリトワ様の目がキラーンと光り、なにゆえ蜘蛛がダメなのかを話すはめになったのです。

「あー覚えてるわ。アリッシー、じゃなくて殿下主催のお茶会。名目は同年齢の子女と交流をはかるっていう奴。私も呼ばれて行ってたから」

 パリトワ様が思いだしながら言います。

「王都周辺で伯爵以上、だったかしらね」

 ラリア様も出席していたのですね。

「ステアさん、グロリアス家のお嬢さんよね。可愛いといえば、可愛かったけど」

 コテンと首を傾げ、上目遣いになるラリア様を上回る可愛い女性って、いるのでしょうか。

「年齢相応の振る舞いとお作法が、ダメダメだったのよね、ステア嬢」

「そうそう。途中で飽きたみたいで、不貞腐れていたしね」

 パリトワ様とラリア様の会話を聞きながら、私は訊ねました。

「叔母の話では、ステアは殿下から声をかけてもらったとか言ってましたけど」

 パリトワ様は吹き出します。

「ああ、そうね。あの時、殿下もアルも参加してて、庭園でダンゴムシ捕まえて、どっちが大きいか競ってたの。だから『どっちが大きいと思う?』って令嬢たちに聞き回っていたわ」

 令嬢よりもダンゴムシに興味がある二人。
 なんとなく。
 想像できてしまいます。

「それよりも、私、フローのお父上様、ドロート子爵って、ちょっとどうかと。失礼で申し訳ないですけど」

 ヴィラさんが至って冷静に言います。
 失礼じゃないですよ、ヴィラさん。
 もっとどんどん言っちゃってください。

「ドロートの妖精姫、だったかしらね、グロリアス夫人。確かに若い頃は社交界の花だったと聞いてるわ」

「そうそう。グロリアス伯爵が一目ぼれして、当時の婚約者との婚約を一方的に破棄して夫人を手に入れたって有名な話ね、ラリア」
 
 あらら、叔母様、そんな修羅場をくぐっていらっしゃるのですね。
 獲物が巣にかかったら、逃さない系?

「魅了魔法でも使ったのかしら?」

 パリトワ様が片目をつむります。

「魅了とは少し違うかもしれないけど、一度獲得したイメージを、頭の中で更新できないタイプの人っているらしいの」

 ラリア様の指摘に、私はハッとします。
 現在の叔母様は、『妖精姫』とは程遠い、ふとましいお体になっていますが、父はよく叔母に対して「相変わらず華奢だな。ちゃんと食べているか?」などと、傍から見れば意味不明な発言をしています。

「なるほど。ではドロート子爵は、グロリアス夫人が昔と同じように見えていると」

 ヴィラさんがぽんと手を打ちます。

「だからと言って、実の娘を貶めていいとは言えないわ」

 きっぱりとラリア様が言います。
 あなたは女神です。
 一生ついていきます!

「それでは、可愛い後輩の為に、一肌脱ぎましょう、ラリア」
「分かったわ、パリトワ」
「私もお手伝いします」

 三人の先輩が何やら打ち合わせを始めます。

 こんな私のために。
 お忙しい先輩たちが。
 ドレスまで貸してくださって。

 うれし涙が零れそうになったのは、先輩たちには秘密です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...