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学園生活

ドレスの光沢は、甲虫みたい

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 アルバスト先輩と一緒にパイを食べた日から、私は毎日、花壇の土を掘り返しました。
 スコップ一杯の土の中に、何匹ミミズがいるのか。
 花弁や葉に、変わったことがないか。
 すべてノートに記録しました。

 その結果、ドロート領由来の土には、二種類のミミズがいることが分かりました。
 細いのと、太いの。
 名前とかは分かりません。
 プラウディ領の土の方は、深く掘らないとミミズはあまり出てきません。
 たまに出てきても、細い種類のものです。

 そんなある日のことです。

 水やりをしながら、マトリカの白い花の、その葉をふと見ると、小さな虫が止まっていました。
 甲虫の類でしょうか。色は光沢ある藍色で、綺麗な虫です。

 あれ……。
 確かに綺麗なんだけど……。

 ちょっと待って。
 ドロートの領民から、何か聞いた気がします。

『農地のコガネムシは不吉な使者』

 私は止まっていた虫を取り、小袋に入れて、生徒会室に急ぎました。
 アルバスト先輩に見てもらおう。


「あ、ちょうど良かったあ! フローを呼びに行こうかと思っていたの」

 生徒会室では、高等部のラリア様が笑顔で迎えてくれました。
 女の私から見ても、ラリア様の妖艶さにはドキドキします。

「今日、何かありましたっけ?」

「パーティ用の衣装、いろいろ持ってきたのよ。ヴィラとフローの二人分ね」
 
 確かに本棚の前には、色とりどりのドレスが何枚も用意されています。
 ラリア様とパリトワ様は、高位貴族だし社交界デビュー済だし、お持ちのドレスは質量共に優れています。さすがです。

 今までドレスなど、縁がないと思っていましたが、目の当たりにすると、心がウキウキします。
 いやいや、ドレスは後にして。

「アルバスト先輩は……?」

「女子の衣装合わせだから、立入禁止。あとで来るよ」

 パリトワ様もニコニコと、ヴィラさんにドレスを着せてます。
 ヴィラさんは、橙色のボリュームのあるドレスがお似合いです。

「うふふ。磨きがいのある女子たち。ドレスとお化粧で、当日はみんなビックリするわ」

 いろいろ合わせてもらっても、ラリア様のドレスは、どうも私にはサイズが合わないのです。
 特に、胸が。

「じゃあフローには、これかな」

 最終的にラリア様が選んだのは、青い生地で、裾と袖に緑色のレースが幾重にも入っている、比較的タイトなドレスでした。
 それでも私が着ると、少しゆとりが出てしまいます。
 胸のあたりが。

「うんうん、似合ってる似合ってる!」
「アルの瞳に寄り添う色だね!」

 先輩たちのキャッキャウフフの声を聞き、私は真っ赤になっていました。

「エスコート頼んだでしょ? アルに」

 パリトワ様がとんでもないことを言います。

「い、いいえ、滅相もない!」

 一生懸命私が否定しても、まったく聞いてくれない先輩たちでした。


 衣装合わせが終わった頃、アルバスト先輩やルコーダ様、メジアンも生徒会室にやって来ました。
 殿下は本日、お休みでしょうか。
 私はアルバスト先輩に、声をかけます。

「先輩、ちょっと見てもらって良いですか?」

「何?」

「これなんですけど……」

 私は小指の先ほどの、小さな甲虫を取り出します。
 ヴィラさんは、小声で「ウゲッ」と言ってました。

「この大きさと藍色の体。ヒメコガネかな。これ、どこで?」

「マトリカの花壇です。葉についてました」

「どっちの土?」

「プラウディ……」

 アルバスト先輩と私が、単なる虫談義をしていると思っていたらしい先輩たちが寄ってきます。

「ねえアル。コガネムシって確か……」

「うん。農地では、害虫だ」

「そういえば最近、ウチの商会に、害虫駆除薬の注文だいぶ増えてるよ。プラウディ領からもあったな」

 メジオンが思い出したように言います。

「わかった。他の領地にも当たってみよう」

「隣国で、大発生してる、コガネムシかな。字余り」

 光の環を纏った殿下が、いつの間にかそこにいました。

「ちなみに、多分コガネムシが増えている領地は、牧畜業もやってると私は推測する」

 アリスミー殿下が天井を指差しましたが、誰も見ていませんでした。

「アリッシー、大発生した隣国って、何処?」

 パリトワ様の問いに殿下は答えます。

シャギアス我が国の西方の国だ」

 なるほど、ドロート領とプラウディ領は、王都の西に位置し、プラウディ家は西の国と交流がありますね。
 ドロートは、あまり他国との接点が少ないですが。

「駆除薬以外に、コガネムシをなんとかすることって出来ないの? 天敵とか」

 ルコーダ様が大きな体を揺らしながら、アルバスト先輩に訊ねます。

「あるよ」
「それだ!」
「あの、コガネムシの天敵って、……何なのですか?」

 かつて私は、聞いたことがあるような気がします。
 ただし、その記憶を封印したみたいです。
 なんとなく、嫌な予感がします。


「蜘蛛だ」


 嗚呼、やはり……。
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