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王宮のパーティ・閑話
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王宮パーティの当日、朝のこと。
ブルーノは、父シェルキー伯から執務室へ呼ばれた。
中に入ると、父と家令が並んで、険しい顔をしている。
日頃温厚な父の、厳しめの顔を見たブルーノは、唇が乾く。
「何で呼ばれたか分かるか?」
「さ、さあ……」
父は執務机の上に、バサリと何かの書類を置いた。
「見覚えがあるだろう」
チラッと見たブルーノの顔が見る見る白くなる。
先日、ロアナにねだられて買った毛皮の購入書だ。
月賦支払いのために、父の承諾サインを偽造した……。
「な、なんで……」
毛皮店からの問い合わせでもあったのだろうか。
売れれば良いというような、少々胡散臭い店だったのだが。
「毛皮店の店主が、王宮直属の警吏に取り調べを受けている。その過程で、毛皮を購入した者たちにも調査が行われているのだ。購入記録を基に、な」
そんな……。
ブルーノは言葉を失う。
しかし、毛皮店の店主が取り調べ?
「その毛皮店は、違法販売を行っていたようです」
「い、違法!?」
家令がブルーノに目を向けずに告げる。
「捕獲禁止となっている動物の毛皮を不当に入手。それだけではなく、魔獣の毛皮をも販売していたそうです」
「え……」
「ちなみに、ブルーノ様が購入されたブルーフォックスの毛皮ですが、実際は捕獲禁止の銀糸アナグマの毛皮だそうです」
シェルキー伯はフンと息を吐く。
「大方、あのゴーシェ家の後妻とか、その娘に騙されたのだろうな。安い毛皮が買えるとかなんとか」
ロアナを馬鹿にされたように感じたブルーノは、思わず声を上げる。
「父さんは、元々ロアナのことが気に入らないんだ! 男爵家出身だからって!」
シェルキー伯は目を剝く。
家令も思わずブルーノを見つめる。
「バッカモ――ン!!」
邸を揺るがすような大声だった。
今まで、父からこれ程の叱責を受けたことがなかったブルーノは、身を竦め涙目になる。
「今のお前の発言こそ、爵位の低い者や平民を蔑むものだ! 爵位の高低を問わず、ひたむきに勉学に励み、粉骨砕身の努力を続ける者はたくさんいるぞ」
そう言ってシェルキー伯は家令を見やる。
「彼とてそうだ。平民の身でも高等学園を卒業し、文官試験に合格したのだぞ。優秀な人材だから、わしが引き抜いてきたのだ」
家令は目を伏せる。
「それがなんだ、お前は! ミーヤ嬢との婚約を白紙にしたのは致し方ない。あれはウチのが無理を言って結んだものだったからな」
ビクビクしながらも、ブルーノはキョトンとした顔になる。
嘘!
ウチの、って母さんのことだよね。
母さんが無理を言って、ミーヤと婚約させたの?
俺に惚れたミーヤが我儘言って、婚約したんじゃないのか?
だから、俺が冷たい態度取っても、文句ひとつ言わずに付き合ってくれていたんだろ?
――とにかくミーヤちゃんを大切にするのよ。そうすれば……。
何度か母に言い聞かされた。
ミーヤを大切にすることに、何かメリットがあるのか?
家同士、親同士の関係があるのは分かるけど。
でも、それだけじゃなかったのだろうか……。
「ロアナ嬢でも構わんよ、婚約者は。ただな、今すべきことは何だ? 買い物か? 観劇か? お前は伯爵家と領民たちの将来を、どう考えているんだ!」
シェルキー伯が机を叩き、書類が散った。
将来のことなんて、今言われても分からない……。
父さんも母さんも元気なんだから、考えたくないのに……。
ロアナと結婚して、孫の顔でも見せてやるくらいなら出来るけど。
だいたい専門店で、違法な商品を売っているなんて、知らなかった。
知らなかったんだから、しょうがないだろ?
怒鳴られるなんて心外だ。
父に何かを言いたいのに言葉が見つからない。
何より、ミーヤがブルーノを求めていたのではなかったと聞いて、彼は床に座り込んだ。
平民出身の家令は、そんなブルーノにそっと手を差し伸べた。
一方、ゴーシェ家では、ラスディがふらふらしながらも、王宮に向おうとしていた。
「あの、旦那様……」
家令が来客を告げる。
誰だ、このクソ忙しい時に……。
「王室警吏官です」
「何だって?」
まさか……。
別邸でミーヤの、し、死体が見つかったとか……?
客間に入ると、王家の紋章を付けた二人の警吏官が立ち上がる。
「申し訳ないが、これから王宮の……」
「存じておりますが、我々も国王直々の命を受けておりますので、ご協力を」
陛下の?
「ゴーシェ伯爵家で購入した製品の一部に、捕獲禁止とされている動物の毛皮が見つかりました」
「え、捕獲、禁止? 何の毛皮でしょうか」
「先ほど廊下で確認しました。稀少生物の一種、『ダッチフィリー熊』です」
あの熊の……。
妻のレイラが買ってきたものだ。自分は知らない。関係ない。
そう言いたいが体が震えている。
国王陛下直々の警吏官だ。
下手な言い訳は利かない。
おそらくは、殆ど調査済で裏を取りに来ているだけだろう。
ラスディ・ゴーシェの目が死んだ魚の様になった。
ブルーノは、父シェルキー伯から執務室へ呼ばれた。
中に入ると、父と家令が並んで、険しい顔をしている。
日頃温厚な父の、厳しめの顔を見たブルーノは、唇が乾く。
「何で呼ばれたか分かるか?」
「さ、さあ……」
父は執務机の上に、バサリと何かの書類を置いた。
「見覚えがあるだろう」
チラッと見たブルーノの顔が見る見る白くなる。
先日、ロアナにねだられて買った毛皮の購入書だ。
月賦支払いのために、父の承諾サインを偽造した……。
「な、なんで……」
毛皮店からの問い合わせでもあったのだろうか。
売れれば良いというような、少々胡散臭い店だったのだが。
「毛皮店の店主が、王宮直属の警吏に取り調べを受けている。その過程で、毛皮を購入した者たちにも調査が行われているのだ。購入記録を基に、な」
そんな……。
ブルーノは言葉を失う。
しかし、毛皮店の店主が取り調べ?
「その毛皮店は、違法販売を行っていたようです」
「い、違法!?」
家令がブルーノに目を向けずに告げる。
「捕獲禁止となっている動物の毛皮を不当に入手。それだけではなく、魔獣の毛皮をも販売していたそうです」
「え……」
「ちなみに、ブルーノ様が購入されたブルーフォックスの毛皮ですが、実際は捕獲禁止の銀糸アナグマの毛皮だそうです」
シェルキー伯はフンと息を吐く。
「大方、あのゴーシェ家の後妻とか、その娘に騙されたのだろうな。安い毛皮が買えるとかなんとか」
ロアナを馬鹿にされたように感じたブルーノは、思わず声を上げる。
「父さんは、元々ロアナのことが気に入らないんだ! 男爵家出身だからって!」
シェルキー伯は目を剝く。
家令も思わずブルーノを見つめる。
「バッカモ――ン!!」
邸を揺るがすような大声だった。
今まで、父からこれ程の叱責を受けたことがなかったブルーノは、身を竦め涙目になる。
「今のお前の発言こそ、爵位の低い者や平民を蔑むものだ! 爵位の高低を問わず、ひたむきに勉学に励み、粉骨砕身の努力を続ける者はたくさんいるぞ」
そう言ってシェルキー伯は家令を見やる。
「彼とてそうだ。平民の身でも高等学園を卒業し、文官試験に合格したのだぞ。優秀な人材だから、わしが引き抜いてきたのだ」
家令は目を伏せる。
「それがなんだ、お前は! ミーヤ嬢との婚約を白紙にしたのは致し方ない。あれはウチのが無理を言って結んだものだったからな」
ビクビクしながらも、ブルーノはキョトンとした顔になる。
嘘!
ウチの、って母さんのことだよね。
母さんが無理を言って、ミーヤと婚約させたの?
俺に惚れたミーヤが我儘言って、婚約したんじゃないのか?
だから、俺が冷たい態度取っても、文句ひとつ言わずに付き合ってくれていたんだろ?
――とにかくミーヤちゃんを大切にするのよ。そうすれば……。
何度か母に言い聞かされた。
ミーヤを大切にすることに、何かメリットがあるのか?
家同士、親同士の関係があるのは分かるけど。
でも、それだけじゃなかったのだろうか……。
「ロアナ嬢でも構わんよ、婚約者は。ただな、今すべきことは何だ? 買い物か? 観劇か? お前は伯爵家と領民たちの将来を、どう考えているんだ!」
シェルキー伯が机を叩き、書類が散った。
将来のことなんて、今言われても分からない……。
父さんも母さんも元気なんだから、考えたくないのに……。
ロアナと結婚して、孫の顔でも見せてやるくらいなら出来るけど。
だいたい専門店で、違法な商品を売っているなんて、知らなかった。
知らなかったんだから、しょうがないだろ?
怒鳴られるなんて心外だ。
父に何かを言いたいのに言葉が見つからない。
何より、ミーヤがブルーノを求めていたのではなかったと聞いて、彼は床に座り込んだ。
平民出身の家令は、そんなブルーノにそっと手を差し伸べた。
一方、ゴーシェ家では、ラスディがふらふらしながらも、王宮に向おうとしていた。
「あの、旦那様……」
家令が来客を告げる。
誰だ、このクソ忙しい時に……。
「王室警吏官です」
「何だって?」
まさか……。
別邸でミーヤの、し、死体が見つかったとか……?
客間に入ると、王家の紋章を付けた二人の警吏官が立ち上がる。
「申し訳ないが、これから王宮の……」
「存じておりますが、我々も国王直々の命を受けておりますので、ご協力を」
陛下の?
「ゴーシェ伯爵家で購入した製品の一部に、捕獲禁止とされている動物の毛皮が見つかりました」
「え、捕獲、禁止? 何の毛皮でしょうか」
「先ほど廊下で確認しました。稀少生物の一種、『ダッチフィリー熊』です」
あの熊の……。
妻のレイラが買ってきたものだ。自分は知らない。関係ない。
そう言いたいが体が震えている。
国王陛下直々の警吏官だ。
下手な言い訳は利かない。
おそらくは、殆ど調査済で裏を取りに来ているだけだろう。
ラスディ・ゴーシェの目が死んだ魚の様になった。
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