異世界ヒーローはチート使い

K.M

文字の大きさ
上 下
1 / 2

異世界へ 1

しおりを挟む

俺はヒーローが好きだ。
ヒーローと言っても沢山いるが、その中でも異世界ヒーローに出てくる赤レッドが特に好きだ。

番組が始まると俺はテレビに釘付けになる。赤レッドの決め台詞を俺も一緒になって真似をした。

「赤い色はヒーローの色だ! だから君も、仲間だ」

決め台詞を言うと何だか俺でもヒーローになれる気がして嬉しかった。









ピピピピピ…

「……んーー」

久しぶりにあの夢を見た気がする…。そう思いながら耳障りな目覚ましを片手で止めてから部屋を見回す。

「……アイツ、まだ来てなかったのか…」

いつもは起きない目覚ましで起きたのはきっと夢のせいだろう。あぁ、ダメだ。思い返すだけでもにやける。

「あれ? 珍しいー」


風の音とカーテンがめくれる音と一緒に幼馴染みが現れた。俺とこいつの部屋は隣で、隙間もあまり無いからすぐ来れる。だから朝が苦手な俺を起こしに来る訳だ。

「えへへ……アキ、エライ」

「………」

幼馴染みの姫路 文乃ひめじ あやのはハッキリ言うと可愛い。清潔感のある茶髪のセミロングに透明感のある瞳。唇は柔らかそうで身体もスラッとしている。容姿もいいが、一番は笑顔だ。文乃はとにかくいつも笑顔を見せる。それが親しみやすく思うんだろうか。

「…おい、その手やめろ」

「あ…ごめん」

俺が言うと頭に乗せていた手を引っ込める文乃。こんな時でも笑顔を絶やさない。

「それにしても、アキはまだヒーロー好きなんだね」

文乃は俺の部屋をくるっと見渡しながら笑顔で言う。その通り、部屋の中はヒーローグッズで溢れかえっている。あ、ちなみにアキとは俺。成瀬 秋哉なるせ あきちかの事だ。
だが、文乃も一緒になってハマってた筈だが?

「…文乃はこういうのは卒業か?」

「…あはは」

苦笑いを浮かべるだけだ。気になるがまぁ、いいか。それより学校に遅れてしまう。

「支度するから、お前も着替えて来たらどうだ?」

「あ、そうだね!じゃ。玄関で集合ね」

「バイバイ」と手を振ると来た時と同じように自分の部屋に帰って行った。それを確認してから俺も制服に着替える。

着替えてから家を出ると文乃と見慣れた連中の姿が見えた。見慣れた連中とは文乃と別の困った奴らの事だ。

「お、来た。遅いぞーー秋哉」

「遅いよ~」

連中は俺に気付き声を掛ける。あぁ、朝から最悪だ。
こいつらは悪友というやつだ。金髪で見た目、不良の三浦 鷹広みうら たかひろ。口も悪いし態度も悪く眼つきも悪いが草部の事が好きらしい。見た目の割に筋肉はある方で父親に剣道を習ってる。
そしてもう一人は草部 美代くさべ みよ。流れるような黒髪を後ろのリボンで結んでいる。実家は神社で草部は巫女で破魔の矢を使えるらしい。まぁ、本当か分からないが。そしてなんと言っても胸だ。無駄にデカイ……これ以上言うとあれだし、止めよう。

「んじゃ、行くか」

高校は近所の高校だ。平凡だし偏差値も高くはない。しかも近いから徒歩で行けるのがいい。そして、いつも通り四人で登校する。これも慣れた事だ。

「なぁ秋哉。異世界ってあると思うか?」

「は?」

またか。
鷹広はとにかく影響されやすい。例えばアクション系の漫画を読んだら一週間はその技や主人公の話し方を真似していた。だから今回も、異世界に行く漫画を読んだんだろう。

「もー。夜更かしして、異世界系の漫画読んでたの?」

「いや~、友達に勧められて読んだらハマってさぁ」

やっぱりか。その友達も迷惑な事をしてくれたもんだ。最大で一ヶ月は続いた事もあるな……今回は何日続くか。

「三浦君そんなに面白いの?」

「面白いよ!文乃ちゃん、興味あるんなら貸すよ」

興味ない話しが繰り広げられている。そんな中、俺はあるものが目に入った。

ーーあれ……あの人、宙に浮いてないか?

もう一度じっくり見てみる。住宅街の中の電信柱。一見、電信柱に乗ってるように見えるが少し浮いてるようにも見える。黒いマントと仮面で顔を隠す変な奴…しかも浮いてる!!

「な、なぁ……あれ…やばくないかーーー!」

鷹広に話しかけた瞬間、背筋に寒気を感じた。ドクンドクンと心臓が高まるのも感じる。やばい…やばい!あれはやばいだろー。

「……アキ?もしかして、具合悪いの」

「に、逃げるぞ!!」

話しが噛み合ってない事も、おかしな事を言ってるのも分かってる。でも何故か逃げなきゃいけない気がしてならない。だって浮いてるアイツは間違えなく人間じゃないのだから。

「おいおい秋哉。お前、熱でもあるんじゃねーの」

「そうよ。いきなり逃げろだなんて」

「…アキ……」

「ち、違う! ほらあそこ見てみろ」

そう言って浮いてるアイツの方を指差したが、間違えなくさっきまでいたのに消えていた。それには俺も愕然とする。

「いねーじゃん。秋哉もまだまだだな、俺を驚かすなんざ百年早いぜ」

くそ…なんで消えた。あれは俺の見間違えだったのか?


『ドウダ、クイナク イキラレタカ?』


突然耳元で聞こえた。片言だが人間の声じゃない。仮面をしているからか、声が篭ってる。

「…ッ!!」

振り払うように振り向くと今度は煉瓦の塀の上に立っていた。見間違えじゃなかった、やっぱり浮いてた!

「え、何アイツ…」

「おぉー! かっけー」

鷹広はともかく、女子は気味が悪そうにしている。俺だって気味悪い。


『クイナク、イキラレタカ?』


俺に言った言葉を三人にも聞こえるように言う。
悔いなく生きれたか。何様だ、こいつは。

「…? な、なぁ。ちょっと気味悪いな」

さっきまで目をキラキラさせていた奴がじりじりと後ずさる。
アイツの姿はまるで死神だな……死神?

「おい、逃げるぞ!」

一斉に走り出す。
冗談じゃない、俺達はまだ十六歳だぞ? こんな訳の分からない奴に殺されてたまるか!

「ちょ、アイツ…死神?」

「俺に聞くなー!ハァハァ」

死神なんて世の中、実際に存在する訳ないんだ。でも、コスプレだとしてもどう浮いてるんだ…。

「み、美代ちゃん! 破魔の何とかで倒せない?」

おぉ、その手があった。草部は巫女だった。

「んー。出来るかもだけど、弓と矢は家だし……神社には悪しき者は入れないの、だから神社に向かいましょ!」

草部の家か。
ここからそんな遠くはない。神社に入ればアイツは入って来れない!

「それで行こう! 大丈夫か、文乃」

「う、うん」

心配なのは文乃の体力か。
走りながらチラッと文乃を見る。恐怖か疲労か分からないが呼吸も苦しそうだし顔色も悪い。

「……文乃、ほらっ」

少し照れもあるが今はそんな事言ってられない。俺は文乃に手を伸ばす。文乃の手を引いて引っ張ってあげれば少しはマシになるんじゃないか、と思ったんだ。

「……アキ…ありがとう」

「お、おぅ」

汗で首筋が妙にエロく感じるのは俺だけじゃない筈だ。こんな時に不謹慎だな、俺。

「見えた! ほら、もうすぐよ」

草部の家は石段を上った先にある。ラストスパート、直線だ! 鳥居も見えるし逃げ切れる。

「あと少しだぞ、文乃!」

だが、次の瞬間。繋いでた手が急に重くなり思わず手を止める。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...