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10 2人の聖女と偽りの魔王

10ー5 勇者の記憶

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 10ー5 勇者の記憶

 俺は、まだ悩んでいた。
 ここで今、勇者を倒すべきかどうか。
 これ以上体が回復すれば、厄介なことになる。
 俺は、勇者に訊ねた。
 「あの迷宮の魔法をどこで知った?」
 「迷宮?」
 床の上に横たわった勇者は、エスメラルダ姫に抱かれたまま答えた。
 「なんのことだ?」
 「とぼけるな。ライディアとラダクリフ辺境伯を迷宮の中に閉じ込めただろう?」
 俺がなおもきくと勇者は答えた。
 「俺は、そんなこと知らない。迷宮なんてなんのことなのかわからない」
 マジですか?
 俺は、首を傾げた。
 「では、誰が迷宮の中にライディアたちを閉じ込めたんだ?」
 「わからない」
 勇者は、頭を振った。
 「なんだか頭の中が霞がかっている様で何も思い出せない」
 「何もって」
 俺は、問いただした。
 「このマリージアの街を焼いたことも忘れたと言うのか?」
 「いや」
 勇者は、弱々しく答えた。
 「それは、覚えている」
 勇者は、たどたどしく話し出した。
 「魔界国に入ってすぐに何かが俺の中に入り込んできた。それからは、そいつに心を操られている様な気がしていた」
 勇者は、魔界国に入ってからの記憶が曖昧なのだと言う。
 ただ、自分が何をしてしまったのかは覚えていた。
 勇者は、青ざめた表情でため息をついた。
 「サハロフやスクルドにしてしまったことも覚えている。エスメラルダにも」
 勇者は、震える声でエスメラルダ姫に告げた。
 「すまなかった、エスメラルダ。俺は、どうかしていたんだ。みんなにも申し訳がない」
 勇者は、エスメラルダ姫を見つめた。
 「許してくれとはとても言えない。本当にすまなかった」
 「いいえ、アロイス様」
 エスメラルダ姫が涙ぐんだ。
 「その言葉だけで私は、充分です」
 「我々も、お前が正気に戻ったならそれでいいんだ」
 物陰からサハロフとスクルドが現れたのを見て勇者は驚きを隠せなかった。
 「お前たち?」
 勇者は、ひどく驚いていたが、すぐ納得した様子で頷いた。
 「そうか、お前たちもいたのか」
 俺は、勇者の方へと歩み寄ると声をかけた。
 「まだまだ、あんたにききたいことはあるんだ」
 俺は勇者へと手を伸ばした。
 魔法書『スキルイーター』を取り出すと俺は、勇者の額に触れた。
 俺は、勇者の心の中へと入り込んでいく。
 勇者は、少しだけ抵抗したが、じきに俺のなすままになった。
 どこかであの古代魔法で造られた迷宮に介入することができる誰かと接触している筈だ。
 俺は、魔界国に入ってからの勇者の記憶をたどっていった。
 
 
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