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10 2人の聖女と偽りの魔王
10ー3 2人の聖女ですか?
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10ー3 2人の聖女ですか?
勇者がライドウの家の扉に手をかけようとしたとき、俺たちに向かって石つぶてが飛んできた。
「なんだ?」
勇者がぎろりと石の飛んできた方向を睨み付ける。
「この、悪魔が!」
家の前で並んで治療を受けるのを待っていた人たちの家族らしい男が石を投げたのだ。
勇者がその男を見てにやりと笑った。
「聖女は、この中、か?」
「聖女様には、近づかせないぞ!」
ライドウの家の前にいた人々が口々に勇者に向かって叫んだ。
「「帰れ!帰れ!」」
「黙れ!」
勇者の低い声が辺りに轟き人々が一瞬にして黙り込んだ。
「死にたくなければここから去れ!」
ぴりぴりっと空気が振動するのを感じて辺りに緊張が走る。
俺は、ローブの端を引き寄せると顔を隠したが、それでも人々の視線が痛かった。
俺も勇者の仲間だと思われてる?
俺が、嫌だなぁと思っていると、勇者が俺に囁いた。
「行け!止まるな、ちびトカゲ!」
俺は、ため息をついて歩き出した。
ライドウの家の扉を押し開くと中にはエディットが待っていた。
「よくおいでくださいました、勇者よ」
エディットは、勇者に向き合って立っていた。
俺より小さなエディットが大きく見える。
さすが、俺の聖女様!
だけど、勇者は、エディットよりも彼女の隣に立っている人物を見てたじろいだ。
それは、長い金糸のような髪を腰まで伸ばした美しい若い女の人だった。
色がみたことないくらい白くて、とてもきれいな澄んだ水色の瞳をしている。
どことなく高貴な印象を与えるその人物は、勇者に向かって話しかけた。
「お久しぶりです、勇者アロイス様」
「エスメラルダ」
勇者は、震える声で彼女の名前を呼んだ。
「君なのか?」
「ええ。私です。病に蝕まれあなたに捨てられたバカな女ですわ、勇者様」
俺は、フードの影からエスメラルダ姫のことをじっと見つめた。
肌のどこにもしみ1つない。
美しく、すらりと伸びた手足。
もうどこにも瘴気に病んでいた様子すらない。
エディットの力で回復したのだろう。
改めて、うちの聖女はすごいな!
でも、なんでエディットは、逃げなかったんだ?
俺は、確かに勇者が屋敷をでる前にエディットたちにロロを飛ばした筈なのに。
俺は、問いかけるようにエディットを見た。
エディットは、にこっと微笑むと俺たちに歩み寄ってくる。
「私は、治癒士です」
エディットは、そっと包帯の巻かれた勇者の手をとった。
「病気に苦しむ人を癒すことが仕事です。例えそれがこの街に仇なす者であろうとも」
エディットが握った手から勇者へと力が注ぎ込まれ、勇者の体が光に包まれた。
勇者がライドウの家の扉に手をかけようとしたとき、俺たちに向かって石つぶてが飛んできた。
「なんだ?」
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「黙れ!」
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さすが、俺の聖女様!
だけど、勇者は、エディットよりも彼女の隣に立っている人物を見てたじろいだ。
それは、長い金糸のような髪を腰まで伸ばした美しい若い女の人だった。
色がみたことないくらい白くて、とてもきれいな澄んだ水色の瞳をしている。
どことなく高貴な印象を与えるその人物は、勇者に向かって話しかけた。
「お久しぶりです、勇者アロイス様」
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勇者は、震える声で彼女の名前を呼んだ。
「君なのか?」
「ええ。私です。病に蝕まれあなたに捨てられたバカな女ですわ、勇者様」
俺は、フードの影からエスメラルダ姫のことをじっと見つめた。
肌のどこにもしみ1つない。
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もうどこにも瘴気に病んでいた様子すらない。
エディットの力で回復したのだろう。
改めて、うちの聖女はすごいな!
でも、なんでエディットは、逃げなかったんだ?
俺は、確かに勇者が屋敷をでる前にエディットたちにロロを飛ばした筈なのに。
俺は、問いかけるようにエディットを見た。
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エディットは、そっと包帯の巻かれた勇者の手をとった。
「病気に苦しむ人を癒すことが仕事です。例えそれがこの街に仇なす者であろうとも」
エディットが握った手から勇者へと力が注ぎ込まれ、勇者の体が光に包まれた。
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