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第2章 異界の悪魔

その10

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 ルシィの婚約者は、子爵家の嫡子だった。
 親の決めた婚約だったがお互いにお互いを思いあっていた。
 しかし、ルシィが生け贄の乙女に決まったとたん婚約は破棄された。
 「仕方がないの。だって、私は、死ぬことになっていたのだから」
 「それでも!」
 ローラが憤る。
 「本当に情けがあるならせめて婚約したままでいてくれてもいいんじゃないかしら」
 ローラの言葉にルシィは、首を振った。
 「私の前で終わらせてくれたことは、彼のせめてもの思いやりだと思いますわ」
 「わからないな」
 ローラは、水面を見つめているミリアに話を振る。
 「ミリアは?」
 「えっ?」
 顔をあげたミリアにローラが訊ねた。
 「ミリアだって、一応貴族なんでしょう?婚約者とかは?」
 ミリアは、奇妙な表情を浮かべるがすぐに苦く笑った。
 「私には、婚約者なんていない」
 「でも、恋人ぐらいいたんじゃないの?」
 なおも訊ねるローラにミリアは、手をひらひらと振ってそっけなく答える。
 「この見た目だ。誰も女だとも思わない」
 自分が醜いことは、よく知っている。
 ミリアは、皮肉っぽく口許を歪めた。
 「ミリアが冒険者だから?」
 ローラが目を丸くする。
 「でも、冒険者の方がそういうことにはすばやいのじゃないの?」
 「例え荒くれ者の多い冒険者だって私のように醜い女には鼻もかけないさ」
 ミリアが答えると背後から不意にきき心地の良い声がきこえた。
 「私は、お前が醜いとは思わないがな」
 三人がはっと振り向くとすでに身体を乾かして身繕いを整えた邪神が立っていた。
 ミリアは、怒りでかぁっと顔が熱くなる。
 そんなこと!
 ミリアは、邪神がそんなつまらないお世辞をいうことに落胆していた。
 同時に、悲しくなる。
 自分は、邪神にすら同情される女なのだ。
 「お前に何がわかる・・」
 ミリアは、立ち上がると邪神を睨み付けると背を向けて駆け出した。
 はやく。
 少しでもはやくここから、みんなの側から、邪神の側から離れたかった。
 「待て!どこに行く!」
 邪神が声を発したがミリアは、決して立ち止まりはしない。
 ミリアは、どんどんみなから離れて川上へと走った。
 
 
 
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