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第10章 兄と弟

10ー2 失いたくない!

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 10ー2 失いたくない!

 わたしは、食事をとることもできなくなって弱っていった。
 食事の中になんらかの毒をもられていたら。
 そう思うと怖くて口にできなくなったのだ。
 飲み物もほとんど口にできない。
 わたしは、どんどん痩せ細り一日のほとんどをベッドに横たわって過ごすようになっていた。
 セツ様は、そんなわたしを見てとても心を痛めておられた。
 「大丈夫だ、カイラ。毒なんて入ってないから」
 そういってセツ様は、わたしに運んできてくれた食事の皿から自分も食べて見せてくれた。
 飲み物も同じコップから飲んで見せてくださるのだが、わたしは、セツ様が与えてくださるものを受けとることができなかった。
 精霊から引き離されたわたしは、五感を封じられた人間と同じなのだ。
 何も感じられない。
 この世界がわたしにとっては、実感のないものへとかわっていっていた。
 触れていても存在感を感じることができない。
 わたしは、魂が乾いていくのを感じていた。
 セツ様は、弱っていくわたしをどうすることもできず、歯がゆさにただ抱き締めてくださった。
 「頼む、カイラ。私が嫌いでもいいから、生きてくれ。どうか、私を憎んでもいいから生きてくれ」
 セツ様の温もりがわたしに仄かな力を与えてくれた。
 わたしは、自分を抱き締めるセツ様のことを抱き締め返していた。
 セツ様は、水も飲もうとしないわたしに口移しで水を与えようとした。
 「んぅっ・・」
 唇を塞がれて水を注ぎ込まれてわたしは、それでも拒否しようとした。
 わたしが水を吐き出すと、セツ様は、泣きながら訴えた。
 「頼む、カイラ。飲んでくれ」
 何度も何度も。
 セツ様は、わたしに口移しで水を飲ませようとした。
 そのうちにわたしは、根負けしてセツ様が与えてくれる水をこくりと飲み込んだ。
 セツ様は、そうやってわたしに口移しで水や食料を与えた。
 わたしは、セツ様に何度も噛みついた。
 セツ様は、唇や舌から血をにじませながらもわたしに与えることを止めようとはしなかった。
 わたしは、口付けられたままセツ様の胸元を叩いた。
 涙を流しながらわたしは、セツ様に訊ねた。
 「なんでっ!もう、ほっといてください!」
 「嫌だ!」
 セツ様は、泣きながらわたしに訴えた。
 「カイラ!君が、私は、君が好きだ!愛している!決して失いたくないんだ!」
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