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第9章 スタンピード

9ー1 異変

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 9ー1 異変

 ダンジョンの朝は、早い。
 わたしが辺りを見回って帰る頃には、みな起き出して朝食の準備を始めていた。
 「おはよう!カイラ」
 レイナが元気よく挨拶しながらわたしにお椀に入ったどろどろの粥のようなものを差し出した。
 わたしは、受け取るとレイナの横に腰をおろして食べ始めた。
 うん。
 その茶色のどろどろのものは、思ったほど酷い味をしてはいなかった。
 というか、むしろ美味しい?
 少しだけ甘くて、なんだか優しい味がする。
 「これ、おいしい!」
 わたしが言うとレイナがえへっと笑って横目でルシーのことを見た。
 「これ、ルシーディア様が作ってくださったのよ」
 マジですか?
 わたしは、はふはふとその粥もどきを食べるとお茶を飲んだ。
 「今日は、この2階層の攻略を目指すんですか?ルシーディア様」
 わたしが訊ねるとルシーは、答えた。
 「一応、そのつもりだけど、無理はしないでいこう。期限までは、まだ一日あるからね」
 「まあ、どうしても3階層まで攻略しなくてはいけないわけじゃないし」
 エラード様が粥もどきをおかわりしながら笑顔で告げた。
 「私たちは、もう、毎年攻略してきたから、たまには攻略できなくたってかまわないよ」
 いやいや!
 わたしは、攻略したいし!
 そのとき、だ。
 突然、精霊たちが騒ぎ始めた。
 空気が弾けるように揺れている。
 わたしは、顔をあげてダンジョンの奥を見た。
 「何かが、きます!」
 「ええっ?」
 ルシーディア様が驚いたような顔をして空を見上げた。
 なんの変哲もない夜明けの空だ。
 と。
 川の上流の方から耳をつんざくような獣たちの声がきこえた。
 「な、なんだ?」
 エラード様が立ち上がって周囲に目をこらした。
 わたしたちの近くで夜営していた他の人々も異変に気付いてざわめきだした。
 ぱちぱちと弾けるような音がきこえる。
 精霊たちが囁いている。
 「ここから逃げて!」
 わたしは、立ち上がると剣を抜いた。
 鞘から抜かれると剣はすぐさま姿を変え巨大な魔剣オニタリスが炎をあげた。
 ひゅっと風をきって小さなリスのような魔物の大群が逃げ去っていく。
 続いて、飛び角ウサギたちも、みな、我先に逃げていく。
 川の上流から地響きが聞こえてくる。
 腹の底から冷えるような魔物の呻き声が響き渡る。
 
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