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第8章 二人の悪役令嬢
8ー10 動悸
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8ー10 動悸
しばらくわたしたちは、お互いに黙ったまますごした。
静寂の中、薪のはぜる音がパチパチときこえる。
ダンジョンの2階層の夜は、かなり冷え込んでいてわたしは、かぶっていた毛布の胸元を引き合わせた。
みんなの寝息がきこえる。
ルシーは、わたしに暖かいスープの入ったカップを手渡してくれた。
それを受け取るとわたしは、両手で包み込んでふぅふぅと息を吹き掛けた。
一口飲むと野菜の甘い香りが口の中に拡がる。
「おいしい」
「だろう?」
ルシーは、にっこりと嬉しそうに微笑んだ。
「そのスープは、僕が作ったんだ」
「ルシーが?」
わたしは、本気で驚いていた。
王太子であるルシーがこのスープを作った?
わたしは、もう一度スープを飲んだ。
うん。
素朴だけど優しい味だ。
「これを、ルシーが作ったの?」
「ああ」
ルシーが頷く。
「料理は、僕の趣味だからね」
マジですか?
ルシーは、本当に不思議だ。
この大陸の最大の国であるメルロープ王国の次期国王であるにもかかわらず王位継承権を放棄してただの魔道具師になりたいとか言ってるし。
わたしたちは、朝まで二人ですごした。
まあ、他のみんなもいたのだけれど。
みんな、よく眠っている様子だった。
辺りを漂う精霊の光がなぜか、ルシーの周りを包み込むように漂っている。
わたしは、首を傾げた。
ルシーは、なんだか精霊に好かれているようだ。
精霊たちは、たいていはその人の持つ魔力にひかれて寄っていくものなのだが。
わたしは、まじまじとルシーのことを見つめた。
赤々と炎に照らされて輝く金髪が美しい。
わたしを見つめるその瞳は、紫水晶のように澄みわたっている。
不意にルシーがわたしの方へと手を伸ばしてきた。
わたしは、一瞬身構えた。
ルシーは、その白くて長い指先でわたしの髪をもてあそぶように絡める。
「髪にごみがついてた」
ルシーは、そう言うとわたしもことを覗き込んだ。
「君は」
「はひっ!」
言いかけてルシーは、口を閉じた。
わたしたちは、見つめあっていた。
濃密なときが流れて。
心臓が速い。
わたしは、このまま死んでしまうのかもしれないと思った。
そしたら。
前世のお父様である方は、許してくれるだろうか?
せっかくわたしを転生させてくれたというのに、こんなに若くて死んでしまったら。
しかも。
死因は、なぞの動悸とかって。
そのとき、ルシーの指先が軽くわたしの唇に触れた。
ほんの少しのことなのにわたしは、頬が燃えるように熱い。
なんで?
わたしは、勢いよく立ち上がるとルシーに告げた。
「あのっ!ちょっと辺りをみてくる!」
しばらくわたしたちは、お互いに黙ったまますごした。
静寂の中、薪のはぜる音がパチパチときこえる。
ダンジョンの2階層の夜は、かなり冷え込んでいてわたしは、かぶっていた毛布の胸元を引き合わせた。
みんなの寝息がきこえる。
ルシーは、わたしに暖かいスープの入ったカップを手渡してくれた。
それを受け取るとわたしは、両手で包み込んでふぅふぅと息を吹き掛けた。
一口飲むと野菜の甘い香りが口の中に拡がる。
「おいしい」
「だろう?」
ルシーは、にっこりと嬉しそうに微笑んだ。
「そのスープは、僕が作ったんだ」
「ルシーが?」
わたしは、本気で驚いていた。
王太子であるルシーがこのスープを作った?
わたしは、もう一度スープを飲んだ。
うん。
素朴だけど優しい味だ。
「これを、ルシーが作ったの?」
「ああ」
ルシーが頷く。
「料理は、僕の趣味だからね」
マジですか?
ルシーは、本当に不思議だ。
この大陸の最大の国であるメルロープ王国の次期国王であるにもかかわらず王位継承権を放棄してただの魔道具師になりたいとか言ってるし。
わたしたちは、朝まで二人ですごした。
まあ、他のみんなもいたのだけれど。
みんな、よく眠っている様子だった。
辺りを漂う精霊の光がなぜか、ルシーの周りを包み込むように漂っている。
わたしは、首を傾げた。
ルシーは、なんだか精霊に好かれているようだ。
精霊たちは、たいていはその人の持つ魔力にひかれて寄っていくものなのだが。
わたしは、まじまじとルシーのことを見つめた。
赤々と炎に照らされて輝く金髪が美しい。
わたしを見つめるその瞳は、紫水晶のように澄みわたっている。
不意にルシーがわたしの方へと手を伸ばしてきた。
わたしは、一瞬身構えた。
ルシーは、その白くて長い指先でわたしの髪をもてあそぶように絡める。
「髪にごみがついてた」
ルシーは、そう言うとわたしもことを覗き込んだ。
「君は」
「はひっ!」
言いかけてルシーは、口を閉じた。
わたしたちは、見つめあっていた。
濃密なときが流れて。
心臓が速い。
わたしは、このまま死んでしまうのかもしれないと思った。
そしたら。
前世のお父様である方は、許してくれるだろうか?
せっかくわたしを転生させてくれたというのに、こんなに若くて死んでしまったら。
しかも。
死因は、なぞの動悸とかって。
そのとき、ルシーの指先が軽くわたしの唇に触れた。
ほんの少しのことなのにわたしは、頬が燃えるように熱い。
なんで?
わたしは、勢いよく立ち上がるとルシーに告げた。
「あのっ!ちょっと辺りをみてくる!」
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