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6 聖者なんかじゃありません!

6ー1 靴紐

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 6ー1 靴紐

  俺は、アルモス兄とロタ、ローエルタールと一緒に領地へと戻った。
 ロタが戻った翌日。
 もうすでに世界は、改変されていた。
 ロタは、死ななかった。
 誰もそれに疑問を抱くものはいなかった。
 俺だけが奇妙な気持ちを持っていた。
 やっぱり記憶を消した方がいいのでは?
 そうロタは、いや、ローエルタールは、俺にきいた。
 しかし、俺は、このロタの申し出を拒否する。
 俺だけでも忘れたくない。
 てか、そんなに簡単に記憶を改変できるなんて恐ろしいな。
 俺は、本当に間違いなく俺なのか?
 だが。
 俺は、すぐに悩むのをやめた。
 ロタが言った通りなのだ。
 ロタがなんと言おうとも俺や回りの人々にとってはロタは、間違いなくいるのだから。
 それだけで十分だ。
 例え、得たいがしれない化け物であろうともロタには、代わりがないのだ。
 それ以上でも以下でもない。
 ロタは、ロタだ。
 故郷であるエルガーナ辺境伯領が見えてくる頃には、俺は、そう思っていた。
 エルガーナの領都アルディスには、王都から二週間の馬車の旅だ。
 その間、ほんとにアルモス兄の明るさに俺たちは救われた。
 俺と違い父様似のアルモス兄は、明るい茶髪で緑の瞳をしている。
 どちらかというと小柄で小動物的な可愛らしさがある。
 ロタが言ったようにまったくロタが死んだことなど記憶に持たないアルモス兄は、最初、俺とロタの間にある奇妙な雰囲気を俺たちが喧嘩しているのだと思ったようだった。
 「喧嘩するほど仲がいい」
 とかアルモス兄は、話した。
 うん。
 俺は、もう、ロタと喧嘩なんてできるのだろうか?
 まったく異なる存在であるローエルタールのことを俺は、変わらず大切に思えるのだろうか。
 しかし、俺は、理解した。
 それは、旅の途中でのこと。
 ロタの靴の紐がほどけているのをアルモス兄が気づいてロタに教えたとき、ロタは、慌ててしゃがんで靴の紐を結んだ。
 だが、ロタは、靴紐をうまく結ぶことができなかった。
 ロタは、昔からちょっと不器用なところがあって、紐を結んだりするのが苦手だったのだ。
 俺は、黙ってしばらく靴紐を結んでいるロタを見ていた。
 ロタは、苦労してやっと不格好な蝶々結びを作った。
 俺は、ちょっと笑ってしまった。
 ロタがそれに気づいてムッとする。
 俺は、笑いながらロタの足元にしゃがむと靴紐を結び直してやった。
 
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