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5 痴話喧嘩で召喚しちゃいました。

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    気がつくと、俺は、本に戻っていた。
   ええっ?
   どういうこと?
   アークは、まだ眠っていて、俺のことを抱き締めて離そうとはしない。
   全裸で本を抱き締めて眠っている男。
   うん。
    なんか、すげぇ勉強家みたいな。
    俺は、もう一度、人間の姿に変化しようかと思ったが、やめておくことにした。
   あんなことのあった後では、俺も、気恥ずかしくってどんな顔をしてアークの前に現れればいいのか、わからない。
    思い出しただけで、恥ずか死にそうだ。
   俺、変なのかな。
   初めてなのに、あんなに感じて。
   というか、俺、ネコじゃねぇし。
   この婚姻の魔法は、やり直しを要求したい。
   俺が、そんなことを鬱々と考えていたら、アークが小さく呻いて、もぞもぞと動き出した。
   ああ、目覚めたようだな。
   「ユウ・・?」
    アークは、はっと目を見開くとベッドの上に自分しかいないことに気づくと慌ててがばっと身を起こすと辺りを見回した。
    「ユウ、どこ、だ?」
    はい!
   俺は、返事をした。
    ここ。
   俺なら、ここ、だ。
    「ここ?」
    俺の念話に、アークは、きょろきょろと辺りを窺っていた。そして、自分の腕の中にある俺に気づいて、はっと息を飲んだ。
    「まさか、お前か?」
     そうです。
    俺は、答えた。
   この本が、俺なんです。
    「マジか・・」
        アークが両手で俺を持ってじっと見つめていたが、ふと目をそらすとあり得ないというように頭を振って笑みを浮かべた。
    「いや、あり得ないだろ?まさか、ほんとに本だったなんて」
    もしもーし。
   俺は、アークに呼び掛けた。
   ほんとに、俺、本なんですよ!
   アークが俺の声をきいて、ぎょっとして言った。
   「な、なんでさっきから、頭の中にユウの声がきこえる?」
    だから。
   俺は、アークに言った。
   俺だって。
    俺は、アークに念話を送り続けた。
   いい加減に現実を認めろよな。
   「はぁ・・」
    アークは、俺を手に取ったまま、溜め息をついた。
   「初めてだったのに無理させてしまったから、逃げられたのか・・」
   何?
   無理させたって自覚があるんだ?
   アークは、俺を脇に置くと自分の左手の薬指に輝く指輪に目を落とした。
   「どこに行ってしまったんだ、ユウ」
    だ、か、ら。
   ここ、だってば。
    俺は、ちょっとイラッとしていた。
   いい加減に認めろよ。この現実を。
   アークは、ちらっと横目で俺のことを見るとふっと笑った。
   「まさか、な」
    いや、いや、いや。
   まさか、じゃねぇし。
   アークは、ふるふると頭を振ると呟いた。
   「どうやら、俺は、疲れている様だ」
   はい?
   俺は、なんか腹が立ってきた。
   こいつ、俺のこと、気のせいにしようとしてやがる。
  アークは、俺をベッドの中に置いたまま、一人、去ろうとしていた。
   そそくさと脱ぎ捨てられた服を身に付けている。
   何?
   こいつ、まさかのやり逃げ、か?
   俺のバックバージンを奪っておいて、この態度は、何?
    俺は、完全に頭にきていた。
   許せん。
   俺は、召喚の魔法を起動させた。
      ベッドの上の俺を中心に魔方陣が展開していくのに気づいてアークが後ろへと下がった。
   「なんだ?この禍々しい気は」
    俺は、魔王を召喚した。
    「なんだ?ここは、どこだ?」
    額から2本の捻れた角をはやした赤髪に赤い瞳の、褐色の肌をした裸の大男がベッドの上に横たえていた。
    「・・お前か?俺を召喚したのは」
    魔王ディエントスは、信じられないものを見るような目でアークを見つめて呻いた。
   「この私を召喚するとは、いずれ名のある魔導師なのだろうな」
   「お前、誰だ?」
    アークは、身構えて言った。
   「なぜ、ここに現れた?」
    「おかしなことを言う」
    全裸の魔王ディエントスは、不適な笑いを浮かべた。
   「お前が、私を召喚したのだろう、魔導師よ」
    「何を、言っている」
   アークは、問答無用で術式を展開していくと、光弾を魔王ディエントスへと放ったが、この俺の円陣の中にいる魔王を傷つけることは不可能だった。
    っていうか、髪1本すら揺らすこともできない。
   「何?」
    魔王ディエントスは、いきなり眠りを覚まされたせいか知らないが、実に不機嫌そうにアークに言い放った。
    「呼び出しておいて、いきなり攻撃を仕掛けるとは、なんのつもりだ?」
    魔王ディエントスが手を差し出しその手のひらの上に青い光の玉を灯して言った。
    「本当に、失礼な奴だな。もう、お前は、死ね」
    光の槍が現れ、避ける間もなくアークの体を貫いた。
   アークは、ごぼっと血を吐いて、その場に倒れ込んだ。
   「ふん。この程度で死ぬか。思ったより弱い奴だったんだな」
   魔王ディエントスは、ふぁっと欠伸をすると掛布の中へと潜り込み眠り始めた。
      俺は、アークへと意識を移した。
   アークは、もはや虫の息だった。
   ふん。
   俺は、せいせいしていた。
   ざまあみろ。
   やり逃げようとかするからだ。
   だが、このままでは、本当に、こいつ死んじゃうな。
   俺は、舌打ちして、もう一度、召喚の魔法を展開した。
   辺りが光に包まれ、今度は、銀色の髪と瞳をした美少年が現れた。
   やはり、寝起きらしい少年は、薄い夜着に身を包んでいる。
   「・・何?ここは、どこ?」
   少年は、自分の隣に眠っている魔王ディエントスを見て、溜め息をついた。
     「何?あり得ないんですけど。人を召喚しといて寝てるなんて」
    光の精霊王アルカイドよ。
   俺は、呼び掛けた。
   あなたを召喚したのは、この俺、だ。
   「はい?」
    光の精霊王アルカイドは、奇妙な表情を浮かべて辺りをきょろきょろと見回すと、やっと俺に気づいた。
    「お前が、私を召喚したのか?・・えっと・・本、よ」
    そうだ。
   俺は、精霊王の問いに答えた。
   俺の名は、細川  ユウ。見ての通り、しがない魔導書、だ。
    「魔導書が、なぜ、私を召喚した?」
    実は。
   俺は、ことの次第を精霊王に伝えた。
   精霊王アルカイドは、俺の話をきいて呆れ顔で言った。
   「痴話喧嘩の末に魔王を召喚し、夫を攻撃させたのだが、その結果、夫が死にそうになっているから、それを治療させるためにこの私を召喚したというのか?」
      まあ、かいつまんでいえば、そうですね。
   俺に向かって精霊王は、舌打ちした。
  「ちっ!こんな朝早くに人を呼び出して、何かと思えばそんなこと、か」
    精霊王は、ぶつくさ言いながらもベッドから這い出すと、血溜まりに倒れているアークの元へと歩み寄ると言った。
   「何?こいつ、ほぼ、死んでるんだけど」
    そうとも言える。
   「ほとんど、生き返らせることになるけど、それでいいのか?」
    精霊王アルカイドは、深い溜め息をつくとアークの体へと手を差しのべた。
    「蘇るがいい」
    みるみる血が消えていき、アークは、生き返った。
    息を吹き返したアークは、呻き声を漏らして身を起こし床の上に座り込んで、はっと精霊王アルカイドを見上げると呟いた。
   「また、変なのが増えている?」
     「誰が、変なの、だ」
     精霊王アルカイドは、やる気なく突っ込むと、俺を振り返ってきいた。
   「もう、いいだろう?もとの場所へ帰してくれ」
   ああ。
   俺は、答えた。
   無理だな。
   「なんだと?」
   精霊王アルカイドが切れかけたヤンキーみたいな目付きで俺を睨み付けた。
   「どういうことだ?本、よ」
    この召喚の術は、一ヶ月に一度しか使えない。
   俺は、精霊王アルカイドに言った。
   つまり、あなたには、一ヶ月の間、この人間界で俺のサーバントとして暮らしてもらうしかない。
    「なんだと?」
     ああ、ちなみに、あなたには、断る権利はないので。
    俺は、言った。
   この召喚の魔法においては、呼び出された者は、呼び出した者に隷属する。つまり、あなたは、この俺の奴隷、だ。
   「マジか?」
    精霊王アルカイドは、嫌そうな表情を浮かべていたが、じきに、溜め息を漏らすと、ベッドに戻り、魔王ディエントスの横に潜り込んで眠り始めた。
    安らかに寝息をたてている2人の横で
床に座り込んだまま、アークは呆然として言った。
   「何がどうなってるんだ?これは」
    
    
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