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16 メメント・モリ

16ー7 決定事項

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 16ー7 決定事項

 深夜にライナス先生を見送ってからわたしは、1人でしばらくぼぅっとソファに腰かけていた。
 窓から月影が差し込む頃、わたしは、ルゥに呼ばれてはっと気づいた。
 「トガー?」
 「ルゥ?」
 わたしは、ルゥをじっと見つめてきいた。
 「もしも、ライナス先生の病気を治したいと願ったら」
 「それは、ダメだよ、トガー」
 ルゥは、きっぱりと断った。
 「もしも、これがライナス先生が死ぬことが決まってしまう前ならなんとかなったのかもしれない。けど、もう、彼の死は、決定事項なんだ」
 「決定事項?」
 わたしは、バカみたいに繰り返した。
 ルゥは、表情を変えることもなくわたしを見つめていた。
 「もしも、彼を助けたければ、1つだけ方法がある」
 「それは?」
 わたしは、ルゥの尻尾を掴んで引き寄せた。
 「どうすればいいんだ?」
 「君が『教団』の聖女になることだ」
 ルゥがわたしをじっと見て告げた。
 「そうすれば女神の力で奇跡をおこせる」
 マジかよ?
 わたしは、一瞬だけ考えた。
 わたしが女神の軍門に下りさえすればライナス先生は助かるのだ。
 だけど。
 それを望めば今までしてきたことがみんな無駄になってしまうのだ。
 人間のための世界を手放すことでしかライナス先生を救う方法はないのか。
 わたしは、絶望していた。
  どちらを選べばいい?
 それは、世界とライナス先生を天秤にかけることだ。
  どちらを選んでも、わたしには救いはない。
 「教えてくれ、ルゥ」
 わたしは、ルゥに訊ねた。
 「わたしは、どうしたらいいんだ?」
 「どうしてもいいさ」
 ルゥが答えた。
 「トガーがどちらを選んでも、誰もトガーを責めたりしない。トガーは、自由だ」
 自由。
 わたしは、言葉が詰まって出てこなくって。
 涙が流れ落ちて止まらなかった。
 わたしは。
 どちらも選べない。
 だけど、わたしは、どちらかを選ばなくてはいけないんだ。
 「君は、どちらを選ぶ?トガー」
 「わたしは」
 わたしは、泣きながら喉の奥から言葉を絞り出した。
  
 気がつくと朝で、わたしは、ベッドの中だった。
 ちゃんと夜着に着替えている辺りが、ルゥの小細工だなと思わされる。
 わたしの心には、もう迷いはなかった。
 わたしは、がばっと起き上がると叫んだ。
 「んなわけがねぇだろうが!」
 わたしは、自由なんかじゃねぇし!
 なんにも、できないし!
 わたしは、ほんとにただ役立たずでしかない。
 でも。
 でも。
 なんでライナス先生を1人で死なせてわたしが幸せになれるとかおもってるわけ?
 
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