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13 婚約とドレスと女の戦い(2)

13ー8 名もなき女神

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 13ー8 名もなき女神

 この世界の女神には名前がない。
 だからというわけでもないと思うが、女神を崇める教団にも名はなく、ただ教団と呼ばれている。
 主に『教団』は、女神の教えを広めることに重きを置いているわりと平和な集団だと思われていた。
 だが、わたしは、そんなことは信じられなかった。
 たいてい『教団』というものは、ちょっと扱いづらい危険をはらんだ集団と思われるし。
 ヤバイヤバイ!
 わたしは、ラーズさんに訊ねた。
 「いつになればフェブリウス領に戻れるんだろうな?」
 「たぶん」
 ラーズさんは、微笑んだ。
 「春までには戻れるでしょうね」
 春かぁ。
 まだまだ先だな。
 なんでもライナス先生のこの度の功績に他の領地の治療院の院長たちが大変興味を持っているのだとか。
 治療院の汚泥を聖なる泉へと変革したとのことでライナス先生は、今や、時の人だった。
 そして、もちろん義肢の技術についても知りたがっている。
 「まあ、わたしたちは、せいぜい無能な上司っぷりを披露するしかないな」
 わたしは、にんまりと笑った。
 「ほんとの功労者は、クラウスさんとルイーズさんたちだからな」
 「いや、クラウスさんたちとそれと治療院のみなさんでしょう?」
 ラーズさんが続けた。
 「技術的には、クラウスさんたちの功績かもしれませんが、それを役立てられたのは、治療院のみなさん、患者さんと職員みんなの力なんでしょう?」
 ラーズさんの言葉にわたしは、頷いた。
 ラーズさんは、不思議な人だ。
 器が大きいというか、何もかもを包み込んでしまうような。
 確かに、わたしの補佐としてこれ以上の存在はないだろう。
 わたしは、ふとラーズさんの背後を見た。
 そして。
 思わず目をそらした。
 やばい?
 もしかして、ヤバイんじゃね?
 「あれ?無視?」
 そいつは、ラーズさんの背後からわたしに呼び掛けてきた。
 「つまらないなぁ、聖女様」
 そいつは、ラーズさんの肩に手を回してわたしの方へと身を乗り出してきた。
 「あんまり無視されたら、僕、悲しくってこの人間のことをどうにかしちゃいそうだよ?」
 「ラーズさんに手を出すな!」
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