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12 婚約とドレスと女の戦い

12ー6 耳が速いな!

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 12ー6 耳が速いな!

 「ありがとう、タリアさん」
 わたしは、どぎまぎしていた。
 まだ、自分が婚約したことになれないのだ。
 しかし、情報が速いな!
 「耳が速いな!」
 「あら、もう治療院中の人が噂してるわよ、トガー様」
 タリアさんが治療院の廊下を歩きながらわたしに教えてくれたので、わたしは、なんだか頬がかぁっと熱くなるのを感じていた。
 ちょっと恥ずすぎる!
 逃げるように自分の執務室へと向かっているとマチルダさんとすれ違った。
 すれ違いざまのマチルダさんの目が怖すぎる!
 あの人は、マジで露骨にライナス先生のことを狙ってたからな!
 執務室に入っていくわたしにタリアさんが笑顔で告げた。
 「すぐにクラウス先生のところに来てね、トガー様。最後の手術が始まるのよ!」
 「らじゃ!」
 わたしは、頷くと急いで部屋の中へと入っていく。
 後ろから遅れてついてきていたエミリアさんとライザが駆け込んでくる。
 「トガー!」
 ライザがなぜか目をうるうるさせてわたしを見上げた。
 「屋敷を出ていくって、本当なの?」
 そうきたか!
 わたしは、こほんと咳払いをしてエミリアさんの方をちらっと伺った。
 「うん、そうだよ」
 わたしが頷くとライザがじわっと泣き出した。
 「なんで?トガー」
 ライザの目からポロポロと涙が落ちる。
 「わたし、いい子にしてたのに?」
 「ライザ」
 わたしが何か言い訳しようとすると、ライザが抱きついてしくしくと泣き始めた。
 子供なのに、大人みたいな泣き方をするライザにわたしは、心が痛かった。
 わたしは、ライザの震える背を優しく撫でながら話した。
 「ごめん、ライザ。だけど、もうわたしは、ご主人様のお屋敷においてもらうわけにはいかないんだ」
 ご主人様には、もうお世話する専用メイドなんて必要なかった。
 それに。
 他の男と結婚する女がいつまでもご主人様のお側にはいられない。
 わたしは、商業ギルドのラミノフさんに相談して家を借りることにしていた。
 幸いなことにわたしは、金には不自由していないしな。
 
 
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