聖女なんかじゃありません！～異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます～

10 ボディメイカー

10ー10 介護士だから！

　10ー10　介護士だから！

　わたしは、戸惑っていた。
　この子は、こんなになってまで生きようとしている。
　だが。
　わたしは、いったいどうすればいい？
　助けるのは、いい。
　だけど、この子を助ければ王国にわたしたちのやっていることがバレバレになるし。
　でも。
　わたしは、医者じゃないし、技師ですらない。
　ただの介護士だ。
　その場にある危機を救うことがわたしの仕事だ。
　難しい政治のことは、ライナス先生やご主人様たちに任せてしまおう！
　「すぐに治療院へ！」
　わたしは、大公閣下たちに告げた。
　「今ならまだなんとかなるかもしれない」

　大公閣下の馬車が到着するのを領民たちと治療院の人々が小さなこの国の国旗を振りながら迎えるなかわたしは、馬車から顔を出して叫んだ。
　「ルイーズさんとクラウスさんに連絡して！それから研究室から医療用の特殊車椅子を持ってきて！」
　医療用の特殊車椅子というのは、常に生命維持のための処置を必要とする人たちのために作られた車椅子だ。
　リクライニング機能があり、機械で呼吸やバイタルが管理できるようになっている。
　それにわたしはタリアさんをそっとお姫様抱っこで移乗した。
　移乗するだけでもタリアさんにとっては命懸けだ。
　だが、この仰々しい車椅子は、動く集中治療室だ。
　このまま馬車の中の謎の装置に繋がれているよりかは、この車椅子に移った方がまだ安全性が高い。
　わたしは、馬車の中でタリアさんの全身に車椅子から延びている生命維持のための装置を繋いでいった。
　そして、彼女を乗せた車椅子を何人かの職員たちとともに馬車から出して治療院へと運び込んだ。
　「クラウスさんのところへ」
　わたしは、車椅子を押しながら告げた。
　職員たちは、なれた様子で玄関の扉を開くと頷いた。
　クラウスさんは、まだ研究室にいた。
　今日は、みんな休暇をもらえているというのにな！
　ほんと、仕事中毒だな！
　「どうした？トガーさん」
　「この子をみて欲しい」
　わたしは、医療用車椅子に横たわって目だけ動かしてこちらを不安げに見詰めているタリアさんをクラウスさんに示した。
　「この子は、大公閣下のお嬢様のタリアさん、だ」
　クラウスさんが無言で頷くのをみて、わたしは、クラウスさんに訊ねた。
　「もう、たぶん、あまりもたない。できるだけはやく『ボディメイカー』を用意しなくてはいけない」
　クラウスさんは、厳しい表情で頷いた。