上 下
97 / 230
9 Shall We Dance?(2)

9ー1 精霊の捧げ花

しおりを挟む
 9ー1 精霊の捧げ花

 フェブリウス伯爵家の別荘についたのはその日の午後のことだった。
 馬車の中でエミリアさんがサラさんに作らせた特性のお弁当をいただいてわたしたちは、満腹でうとうとしていた。
 「見て!トガー!」
 「ふわぃっ!」
 ライザに突然声をかけられてわたしは、飛び上がった。
 ライザは、わたしに外を指差して見せた。
 「見て、すごい、きれい!」
 北の野原は、短い夏の最中で目にまぶしい緑の中に白い綿雪のような小さな花がふわふわと漂っている。
 うん。
 「きれいだね」
 わたしは、頷いた。
 ライザが楽しげに微笑んだ。
 「それにとってもいい匂い!」
 ライザが目を閉じて鼻をくんくんさせるのを見てエミリアさんがにっこりと笑う。
 「ポルツの花の香りね」
 エミリアさんは、私とライザに教えてくれた。
 「あの野原を白く染めている綿毛のような花は、ポルツといって別名『精霊の捧げ花』と呼ばれているわ」
 精霊の、ね。
 わたしは、はぁっとため息をついた。
 エミリアさんは、 続けた。
 「あの花は、奇妙な花でね。朝咲いても夕方までにはまるで泡のように消えてしまうのよ。この甘い香りを残してね」
 そうなんだ。
 わたしは、チベットスナドリキツネみたいな顔になっていた。
 エミリアさんは、素直に笑顔で耳を傾けているライザににこにこしながら話す。
 「ポルツの花のことを『精霊の供物』とか呼ぶ人もいるけど、それは、なぜなのかは、私も知らないのよ」
 それは。
 わたしは、今、目の前で繰り広げられている光景を見ながら宇宙の果てまでもひいていた。
 大きな空中を浮遊しているクラゲのようなものたちが逃げ惑うあの白い綿毛のようなものをたちを触手で捕らえてはその巨大な口へと放り込んでバリバリと喰らっている。
 他の人たちは、きゃっきゃ、うふふと喜んでみているが、精霊が見えているわたしからすれば、これは、とんだスプラッターだった。
 『きゃあっ!』
 逃げ惑うポルツさんたちが悲鳴をあげているのをむさぼり喰らうオオクラゲたち。
 そして、飛び散る甘い香り。
 これは、もしかしてポルツの?
 あれは、どうみても精霊の共喰いとしか思えなかった。
 精霊って食欲とかがあるんだ。
 わたしは、流れていく窓のそとの風景から目をそらした。
 偶然にもライザの膝の上にちょこんと丸くなっているクロネコのルゥと目があう。
 ルゥが、ニタリと笑った。
 こわっ!
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!

宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。 女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。 なんと求人されているのは『王太子妃候補者』 見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。 だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。 学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。 王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。 求人広告の真意は?広告主は? 中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。 お陰様で完結いたしました。 外伝は書いていくつもりでおります。 これからもよろしくお願いします。 表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。 彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

ループを繰り返す悪役令嬢。

❄️冬は つとめて
恋愛
ループを繰り返す悪役令嬢は、

糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る

犬飼春野
ファンタジー
「すまない、ヘレナ、クリス。ディビッドに逃げられた……」  父の土下座から取り返しのつかない借金発覚。  そして数日後には、高級娼婦と真実の愛を貫こうとするリチャード・ゴドリー伯爵との契約結婚が決まった。  ヘレナは17歳。  底辺まで没落した子爵令嬢。  諸事情で見た目は十歳そこそこの体格、そして平凡な容姿。魔力量ちょっぴり。  しかし、生活能力と打たれ強さだけは誰にも負けない。 「ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりしているわけじゃないの」    今回も強い少女の奮闘記、そして、そこそこモテ期(←(笑))を目指します。 ***************************************** ** 元題『ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりとしているとは限りません』     で長い間お届けし愛着もありますが、    2024/02/27より『糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る』へ変更いたします。 ** *****************************************  ※ ゆるゆるなファンタジーです。    ゆるファンゆえに、鋭いつっこみはどうかご容赦を。  ※ 設定がハードなので(主に【閑話】)、R15設定としました。  なろう他各サイトにも掲載中。 『登場人物紹介』を他サイトに開設しました。↓ http://rosadasrosas.web.fc2.com/bonyari/character.html

処理中です...