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9 いつか、そのときが

9ー4 いつか

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    僕は、結婚式の前夜、1人で王都にある僕の屋敷の図書室でぼんやりとしていた。
   「どうしたんだ?兄上」
    アルゼンテの腹違いの弟であり、今では、僕の部下の1人でもあるレニが魔界の有名な酒であるマキニート酒を持って、やってきた。
     僕は、レニに向かって笑って言った。
   「何でもないさ。ただ、少し、考え事をしてただけだ」
    「何を考えることがある?」
     レニは、テーブルの上にグラスを2つ並べて、それに氷を入れるとなみなみと酒を注いだ。
    「明日には、兄上は、世界のすべてを手に入れることになる」
    「ああ」
    僕は、頷いた。
   レニがグラスを掲げた。
   「兄上の3人の美しい花嫁に」
     僕は、テーブルの上のグラスに手を伸ばすと、それを掲げた。
   「僕の花嫁たちに」
    僕は、一口飲んでから、レニに言った。
    口の中に酒の苦味が拡がっていった。
 「ほんとは、不安なんだよ」
    「何が?」
     レニが問うので、僕は、少し悩んでから、苦笑した。
    「幸せすぎて、怖いんだよ」
    「あんたにも怖いものがあったとは、驚きだな」
    レニが言ったとき、ハヅキ兄さんとナツキ兄さんがやってきた。
    僕は、2人に訊ねた。
   「かわいい奥さんと、子供たちは?」
    「今日だけは、弟のために許しを得てある。今夜は、朝まで付き合うぞ」
    ナツキ兄さんが言った。
    「そうだ。昔話でもしながら、な」
    ナツキ兄さんは、つい最近、アリーと結婚したばかりの新婚さんだった。
   僕は、笑った。
    「新婚の旦那さんを奪ったら、アリーに悪いよ」
   「いや、今夜ばかりは、ユヅキのためだからな」
   ナツキ兄さんも笑った。
   しばらくすると、カヅキ兄さんもやってきた。
   「遅れてすまない」
   カヅキ兄さんは、サリアと婚約中だった。
   2人の恋模様は、王都の人々だけでなく、世界中の人々をやきもきさせたが、ついに、この度、カヅキ兄さんが重い腰をあげて、サリアにプロポーズをしたのだった。
     僕らは、夜半過ぎまで飲んで、騒いでいた。
   兄さんたちとレニが、それぞれ、眠り込んでしまった頃のことだ。
   僕のもとへ、奴が現れた。
   かつて『アンバー』と呼ばれた悪魔だった。
   『アンバー』は、フワフワと漂いながら、恨めしげに僕の回りを飛んでいた。
   僕は、『生命の書』をストレージから取り出すとそれを開いて『アンバー』の方へと向けた。
   黒い靄のようなものが本の中へと吸い込まれて消えていった。
   僕は、本を閉じると何事もなかったかのように『生命の書』をストレージへと戻した。
   そして。
   僕は、目を閉じた。
   もう、呪いの足音は、聞こえなかった。
   だけど、僕は、知っている。
   いつか、この呪いが僕に追い付く時がくることを。
   うん。
   そのときまで、うんと幸せに生きてやろう。
   僕は、そう決意するとにっこりと微笑みながら眠りに落ちていった。
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