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4 魔王様は、お年頃

4ー11 アーシェ(2)

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  アーシェは、ぐるる・・と低く唸った。
   アーシェは、魔界との国境の村出身の半人半魔の少年だ。
   僕がストレージの中の村に移住するものを募るために村を訪れたときに、拾った。
     僕が魔族の村を訪れたとき、彼は、すでに死にかけていた。
    泥にまみれ、虫の息だった彼を、僕は、見つけた。
   僕は、彼の側にひざまづき、彼に向かって囁いた。
   「立て。そして、僕と共に歩め。生きたければ」
    アーシェは、よろめきながらも立ち上がり、僕に向かって言った。
   「・・殺す・・必ず、アウデミスを・・奴を殺す・・」
    「ああ。好きにすればいいさ」
    僕は、言った。
     「君が望む様に」
     「うっ・・ぐぅっ・・」
     彼は、そうして僕の腕の中へと倒れ込んだ。
   僕は、死にかけた彼を家に連れ帰ると、その汚れた体を清め、回復するまで世話をしてやった。
    ストレージの村の僕たちの家で、暮らすようになったアーシェは、すぐに体力を取り戻した。
    最初、彼は、僕らと口をきくこともなかった。だが、徐々に、僕に自分の話をしてくれるようになっていった。
     アーシェの父親は、フェンリルで、母親は、人間だったのだという。
    こういうことは、人と魔族が戦争を始めるまでは、時々あることだった。
   人間と魔物が愛し合う。
   だが、彼の妹が生まれた頃から人と魔族の戦争が始まった。
    彼ら家族は、人からも魔族からも疎まれ、国境の辺りの荒れ地に住み着いていたらしい。
    そこに、ある日、奴等が通りかかったのだと言う。
    たまたま。
    本当に、偶然のことだったのだという。
    アウデミスは、彼ら家族を前にして、部下たちに命じた。
   「殺せ。目障りだ」
    父は、家族を守るために戦った。
   だが、アウデミスの手によって殺された。
   そして、残った母と妹は、アウデミスの部下たちの手で惨たらしく殺された。
   近くの川へと魚をとりに出掛けていた彼だけが、家族に守られて生き延びたのだという。
    彼は、必死で、近くの村へと向かった。しかし、村は、すでに軍隊に滅ぼされていた。
   だが、彼は、諦めなかった。
   次の村へと歩き続けた彼は、そこにたどり着き、そして、力尽きた。
    それを救ったのが、僕だった。
    彼は、僕に言った。
   「どうか、お側に置いてください。なんでもします」
    「君がいたければ、いたいだけここにいればいい」
    僕は、言った。
    「この村は、人と魔族が共に暮らしている。君も受け入れてくれる筈だ」
     しばらくして、彼が加護持ちだということがわかった。
    彼は、木の精霊 ドライアドの加護を受けていた。
   彼は、僕に言った。
   「どうか、あなたの眷属にしてください。必ず、あなたのお役に立ちます」
    僕は、断ろうとしたけど、彼の決意は固かった。仕方なく、僕は、彼と木の精霊ドライアドを眷属に加えた。
    Dコミュニケーションは、彼を眷属にすることによって始まったといってもいい。
    ドライアドの遠く離れたところにいる仲間と通じあうことのできる能力を使って、通信設備を作る。
   アーシェは、この一大プロジェクトの中心人物だった。
    僕は、アーシェは、救われたと思っていた。
   だけど、まだ彼は、救われていなかったのだ。
   僕は、獣化して荒い呼吸を繰り返しているアーシェを抱き締めると囁いた。
   「大丈夫、だ。君は、自分を押さえられる。まだ、獣には堕ちない。闇には飲まれない」
    僕の言葉に、彼は、少しずつ落ち着きを取り戻していき、やがて、人へと戻っていった。
   「・・すみません・・ユヅキ。みっともない姿をお見せしてしまった」
   「いいんだ。気にするな」
   僕は、言った。
   「君の気持ちもよくわかる。確かに、アウデミスは、最悪の王だ」
    「ユヅキ・・」
    「いつか、きっと、僕は、彼と戦うことんいなるだろう。だけど、それまでは」
    僕は、アーシェの頭を優しく撫でた。
   「普通の人生を楽しもう」
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